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死霊の棲む廃園【夏のホラー2017】  作者: 江渡由太郎 原案:J・みきんど
第二章 ドリームキャッスル
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2 切り裂きピエロの遊戯 弐

 モルタル製の重い扉を開くと闇が広がっていた。


 どこまでも続くその闇は生あるもの全てを憎んでいるように感じた。


「何だか黴臭いな。本当にここ入っても大丈夫なのか?」


 幹博は咳をしながら苦しそうに言った。


 暗順応により眼が暗闇に慣れてきたため、視界が広がってきた。


「上の階へ続く階段もあるけど、何処から調べる?」


「ちょっと! 託生! あんたって馬鹿!? 地下に秘密の部屋があるのに何で上の階へ上がるのよ!」


 莉菜にそう言われた託生は確かにそうだと言い笑った。


 城の内装は暗くてはっきりとは分からないが、経年劣化により壁紙が剥がれて捲れているのが見て取れた。


 黴の臭いの他に野生動物の糞尿の悪臭も微かにする。


 広い踊り場を兼ねた玄関広場の正面には左右対称に緩やかな曲線の階段がある。


 正面の中央には大きな扉があり、奥の部屋へと続いているようである。


 広間の左右にもそれぞれ扉があり、奥の部屋へと続いているようである。


「上の階へは行かないとして、三箇所に扉があるけどどれから調べる?」


 流星はあまり乗り気ではなかった。


 今すぐこの場から立ち去りたいという気持ちが強いのだ。


 上手くは表現できないが、生命の危機を知らせる本能のようなものが直感でそう告げているのだ。


 死の方から擦り寄ってくるそんな異質な狂気がこの建物の地下から湧いて出ているように思えるのだった。


「流星、どうした?」


 物思いに耽っているような険しい表情の流星を心配して託生が声をかけてくれた。


「いいや、何でもない。さっさと散策して帰ろう」


 精一杯笑顔を作ったつもりであったが、不自然な作り笑いに託生は苦笑いを浮かべているのが容易に分かったよ。


 ドリームキャッスルの内部を散策してみたが、お城の部屋としてそれらしく模倣して作られた豪華な調度品に囲まれた客室や大きな暖炉が配置されている居間などがあった。


 そこにある備え付けの家具と共に実用的ではない物がインテリアというよりは備品や舞台道具的に配置されているだけであった。


「やっぱり地下の拷問部屋なんてないんじゃない?」


 書斎の中で無数の本に囲まれながら幹博に言った。


「何処かに部屋があれば楽しかったのにな。残念だったけどないの分かっていてここへ来たんだからもう帰ろうか?」


 幹博の後方で本棚を見ていた莉菜へ振り向きながら声をかけたが、そこ居たはずの莉菜の姿が忽然と姿を消していた。


「莉菜! どこに行ったんだ?」


 幹博は悪戯好きな莉菜が何処かに隠れて自分を驚かせようとしているのではないかと周囲を警戒した。


「どうしたんだ? 何かあったのか?」


 流星は嫌な予感がしていたが、それが的中するとは思わなかった。


 幹博の話によるとついさっきまで背後で会話していた莉菜が突然姿を消したのだと言うのだ。


 その話を聞いても莉菜の兄は顔色一つ変えないで無表情のまま部屋の扉の前で立っていた。


 その眼は何を見ているのかもこの薄暗い部屋の中では確認しようがないが、流星は星矢の眼を見ることができずいた。


 ”恐ろしい”とか”薄気味悪い”とかそういった次元をではなく”狂気に満ちた”という表現がしっくりくるそんな眼をしている星矢の眼を流星は怖かった。


 突然、ドリームキャッスル全体に響き渡るような悲鳴が聞こえた。


 流星たちは悲鳴が何処から聞こえているのかを必死に耳で探したが、分からなかった。


「莉菜に何かあったのかも知れない! 早く助けに行かないと!」


 流星はそう言ってみたもののどうしたらいいのかさえ分からないのだ。


 託生が本棚の一冊の本を指差した。


 その本だけが傾いて本棚からせりだしていたのだ。


 明らかに周りの本と違い動かされた形跡があった。


 託生がその本に触れた途端、託生の姿が一瞬のうちに消え去った。


「託生が消えた!?」


 狼狽した表情のまま流星は先程まで託生が立っていた場所へ近づくと、そこには落とし穴のようなカラクリで床板が開閉する仕掛けを発見した。


「俺も行ってくる! 皆は何かあった時のためにここで待機していてくれ!」


そう言って傾いた本に軽く手を触れると、怪物の口の中へ呑み込まれるように流星の体も瞬きの間に消えた。


 流星は床が抜けたような状態から下へ落下した。


 自分の背丈程の高さから落ちたことで足を挫いた。


 今は痛みよりも託生と莉菜の安否を確認しなくてはならないという使命感が痛みを感じさせない。


 薄暗い通路にははだか電球が天井から疎らに点灯している。


 その中には電球の寿命がまもなく終わるものもあり、不規則に点滅を繰り返していた。


「これって……アトラクションの一部じゃないよな……何て薄気味悪い所なんだろう……」


 廃鉱のトンネルのようなこの場所は、剥き出しの土砂や岩の壁から染み出た水が不気味さに拍車をかけた。


「早く見つけないと! ここは人間の居ていい場所じゃない……」


 トンネルの先が何処まで続いているのかさえ分からない。


 この冷気は肌から皮膚を剥ぎ取る鋭利さがある。


「早く帰りたい……」


 秘密の部屋なんてものを探しに肝試しへ参加したことを後悔した。

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