永眠
犬養は痛む腹を押さえた。
生温かい液体が手につく。
対照的に、体は氷のように冷え切っていた。
(こりゃ、本気で死ぬな)
不思議と、悲しくはなかった。
こんな商売を続けていれば、ろくな死に方をしないだろう、思っていたからだ。
こんな俺でも、誰かのために死ねるんだ。
桃は木刀をまっすぐ上に振り上げていた。
その下に横たわる鬼頭は生きてるか死んでるかもわからないほどボロボロだ。
まだ、生きていると信じよう。
桃は周りが見えていないようだった。
彼女を止める手段はもう、一つしかない。
最後の力を振り絞って、犬養は動いた。
「死ねえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
桃が叫んだ。
同時に木刀を振り下ろす。
どごぉ!!
鈍い音がする。
「!!!?」
桃が息を飲む。
「い、犬養さん!!?」
桃の目がしっかりと、犬養をとらえた。
桃の木刀を受け止めた犬養の腕は、あり得ない方向に曲がっていた。
「生きてたんですか!犬養さん!!」
桃の目に涙が溢れる。
「は、はは⋯。まだ、死んでない⋯⋯ってほうが、正しいけどな。⋯⋯桃を犯罪者にさせる訳には⋯いかねぇ、し⋯。」
犬養の言葉は、最後にいくほどかすれていった。
「⋯⋯⋯まえ⋯⋯き⋯⋯だ。」
犬養はその場に崩れ落ちた。
どこか遠いところで誰かが自分を呼んでいる気がした。
だけど、誰も呼んでいないような気もした。
今はただ、とてもとても眠かった。
犬養は目を閉じた。




