「才能うんぬんの前に、最低限の努力をしなさいよ!」
都内の有名大学に通っているユウキ君。
ユウキ君は、決定的に努力が足りない。完全な努力不足、訓練不足。
週に1度程度の頻度で、「最低限の質と量の小説が書けるように」と指導している私。
ところが、私の出す宿題をユウキ君はちっともやってこようとしないのだ。
それも、そんなに難しいものではない。せいぜい週に3000文字とか4000文字の短い小説を書くようにと言っているだけなのに。このくらいの量は、速い人ならば1日で仕上げてしまうだろう。中には、書き始めれば1~2時間で初稿を完成させるという人だっている。
それを1週間かけて、ほとんど1行も書こうとしないのだ。私が部屋にやってきて、ようやくやり始めるという始末。
その上、こんな風に嘆くのだった。
「ああ~あ。オレ、才能ないのかな~?やっぱり、小説なんてやめちゃおうかな~?」
その言葉を聞いて、ついに私はこんな風に声をあげてしまった。
「才能うんぬんの前に、最低限の努力をしなさいよ!」
ビクッ!と飛び上がるユウキ君。
私は、さらにそこに追い打ちをかける。
「あのねえぇ。世の中にはね、努力して努力して努力しまくって、それで“才能がないかもしれない…”と悩んでいる人たちがいるのよ。毎日必死になって小説を書き続け、芽が出ず苦労している。それでも、あきらめずに小説を書き続けてる人たちよ!」
驚いて目をまん丸にしたまま微動だにしないユウキ君。
「才能があるとかないとか、それ以前の問題よ!私にだって、まだどっちとも判断できないわ!これだけ書いている量が少なすぎるとね!」
「でも、才能がないのにがんばったって、無駄な努力になっちゃうし…」と、ようやくわずかな反論をしてくるユウキ君。
「そういうとこが才能ないわ!努力する才能がね!」
しょぼ~ん…と、ユウキ君は落ち込んでしまった。
でも、その後はどうにかやる気を取り戻し、少しずつではあるけれどもマジメに小説を書き始めた。
まったく…
こういう人は結構多い。むしろ、この手の失敗が一番多いくらい。
「小説なんて簡単だ。誰にだって書ける!いっちょ、オレもやってみるか!」と、書き始める人は多い。
けれども、そのまま最後まで書き通せる人は少ない。“ほとんどいない”と言ってもいいかもしれない。少なくとも、最初から1本の長編小説を完成させられる人なんて皆無に等しい。そういうことができるのは、ほんとに天に選ばれた一握りの人だけなのだ。
そうではなく、一番最初は短い文章から始めてみる。そうして、徐々に長くしていく。
原稿用紙1枚くらいの小説から初めて、2枚、3枚…と増やしていってみる。
「ああ、駄目だ!」と思ったら、また枚数を減らす。
「いけそうだ!」と思ったら、量を増やす。
そういうコトを繰り返しながら、ようやくまともな長編小説が1本完成する。そこから先は、スピードと量との戦いになってくる。
それに加えて、内容の問題が出てくる。
ただ単に量を書くだけではいけない。質の方も伴わなければ。
そうやって、どの作家も質と量の狭間で揺れ動きながら、なるべく質の高い作品を、できる限り速くたくさん書けるようになっていくのだ。
そこには、プロもアマチュアもない。どのようなタイプの小説を書いているかも関係ない。常に質と量との戦いなのだ。おそらく、一生その戦いは続いていくことだろう。
ユウキ君や、他の多くの小説家志望者は、まだその域にまで達していなかった。
「まずは最低限の量を書けるようになりましょうね。才能があるとかないとか考えるのは、それからよ」と、私はよく指導する。
でも、この単純な言葉に従って書き続けられる人の割合はそう高くはない。せいぜい10人に1人といったところだろうか?ほとんどの人は、途中であきらめ、小説を書くのをやめてしまう。
「もしかしたら、この子もそんな風にあきらめてしまうのかしら?」
私は、そう思いかけていた。
ところが、このあと、ユウキ君はとんでもない才能を発揮することになる。
私が予想すらしていなかった才能を。




