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特異社会の『傍観者』として  作者: はるぱる
第二章 『伏見稲荷編』
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70話  神域での死闘 『終戦』  3  常人なりの裏を掻く作戦

お読みいただきありがとうございます。

この話より前の話も読みやすいよう随時更新していくので、でき次第、投稿と同時にお知らせします。



◇



「みた! しっかりしろ……!」


「……んっ」



些か遅い足取りで走る榮(はる)の背中に支えられながら、気を失っているみた。

未だに毒は絶え間なく巡り、四肢を動かすことですら、かなりの致命傷である。


しかし榮の声が耳元で聞こえてきて我に返った。



「すまぬのう、かみし――榮よ」



正気に戻る直前まで追憶にふけていたからか、自覚の無いまま名前を間違えてしまった……。



「かみしろ? ……いや、今はそんなのどうだっていい。それよりみた、神域の出入り口はもうすぐだぞ」


「あ、あぁ」



榮が言っていた通り、出入り口はあと十メートルというところ。数秒走ればもう着く位置なのだが。



一方のアスピラは――?



「アスピラなら、さっき俺が思いっ切り殴ったから、当分は立ち上がれない。尻餅をついていたぐらいだし」



自分のふとした疑問を読み取る彼の言い分に、みたは咄嗟に首を後ろに回す。



――当たりであった。



アスピラは地面に対してペタンと割座をしており、虚無であるかのような呆然とした表情をしている。

目を凝らして見てみると、頬に薄ピンクの殴られた跡がくっきりとしていることも確認できた。



……けれどアスピラは、わしが強く蹴り飛ばしたり焼き尽くしたりしても大傷がないような化物。

常人である榮の拳(こぶし)程度、軽い傷にもならないような……。



「ほ、本当に追って来ないのか? ゲホッ……、わしが炎で焼いても生きていたぐらいのやつじゃし……」


「追ってこないと言い切れる確証はない。でも、たぶんあいつは感(・)情(・)に(・)動(・)か(・)さ(・)れ(・)や(・)す(・)い(・)奴(・)だ。さっきのも、ただの不意打ちで殴ったつもりはなかったし」


「感情にッ……動かされやすい奴……?」


「そうだ……」



感情に動かされやすいとは……、それはどんな人にも言えることではないのか? 

しかし、榮がなんの意味もなしに言う事などないはずじゃ。

よく考えろ――。



「アスピラはこれまで、自分の標的にするものをコロコロと変えていたんだと思う。五葉(いつは)や澪華(れいか)のとき、それにみたのときもそうだったと思う――」



そこでふと榮が言葉を切った時、彼の足はそびえ立つ出入り口(神木)の前で止まっていた。



気づかぬ間に着いていたのだ。



背中からそっとみたを下ろし、十メートル程後ろにいるアスピラの方を警戒しながら眺め、話を再開する榮。



「特に、五葉のときが一番はっきりと出てた。路地裏での出来事だったんだけど、その際に、アスピラは最初に俺を狙ってたんだ。でもどういうわけか、次は澪華に的を変えた」


「ほう、なるほどの……」


「それでその後、アスピラは澪華に毒を忍び込ませた。澪華が毒の影響で抵抗難く、俺達が絶体絶命のピンチに陥る。……そんなとき、自ら盾になってくれたのが五葉なんだ」


「げふッゴホッ……。い、五葉は身を挺して守ろうとしたと?」


「あ、あぁ。五葉はアスピラに対して、見ててもわかるくらいの怒りを剥き出しにしてた。逆にアスピラは、その五葉の怒りが嬉しいようで、ワクワクするような、『好奇心』を抱いているように見えたんだ」



そう語る榮の目が、遠くで座り込んでいるアスピラから、みたの瞳へと移り変わる。



「だから、さっき俺が殴ったときもそうだ。あいつにとって、俺は何もできないはずのただの人間。羽虫みたいな存在が、圧倒的恐怖を前にして、逃げずに『怒り』だけで自分を殴ってきた。

あいつは今、その予想外の強い感情に、驚き、 酔いしれてるんだと思う」


「ほう…………む、難しいな」


「まあ、とにかく。俺の怒りは彼女にとっては最高の刺激だったんだ。だから今はその余韻で動きが鈍い。

でも、それも長くは持たない。もう着いたことだし、今のうちに神域の外へ――」



と、榮が言い終える前に、みたの後ろ奥。

アスピラがいる方角で、砂利の冷たく擦れる音が響く。



「「……!?」」 



二人の視線が、同時に弾かれたように後ろへと向いた。

そこではアスピラが何かを構えて立ち上がっていたのだが、



(小刀……?)



左手に構えられたいたのは、片刃に不気味な光沢を帯びていた小刀。

しかし、彼女の小刀はみたが炎で弾き飛ばしたはずであり、なぜ今持っているのか説明がつかない。

一瞬で移動して取り戻してきたのだろうか。あの化物ならそうしてもおかしくはない。



「ねえ、どこに行くの」



彼女が二人に問いかけたその質問は、およそその姿には似つかわしくない、幼い少女の声色で放たれた。

小刀を縦に一回転させ、着々とこちらへ距離を詰めてくる。



「用件、まだ済んでない……逃げるな」


「……あ?」



アスピラの「逃げるな」という言葉に、榮は唖然とした顔で声を漏らした。



「逃げるな? 今まで散々逃げてきたお前が、それを言えるのか?」



彼の態度は今までとは一変していた。目が吊り上がり、アスピラを著しく強い眼力で見つめている。



「アスピラ……。お前は何が目的なんだ? みたを殺したいのか? 俺を殺したいのか? それとも五葉たちを殺したいのか……? はっきりしろよ」


「は、榮……」



はち切れそうな怒りを露わにしていた榮の横顔に、みたは呆然と胸を突かれた。



彼の憤怒はこれまで見ることがなかった。一見は冷静に見えるが、実際、内心ではそうでない澪華や蒼真と比べて、榮は人一倍理性的である。

……五葉は、よく知らぬが。


しかし理性的なのは、彼自身の中で、「自分が一番使えない人」と認識しているからなのだろう。

異能を持ち合わせていない分、攻勢より、分析や解析に手を回すのが自分の役目なのだと思っているに違いない。



――それに、さっきの殴りは、ただ感情に任せてしたようにも見えなかった……。


もしや、敢えて捨て身で殴ることで、アスピラの「性格」を誘発させようとしたのか?



(全ては榮の策略通りなのか……? し、しかし、拳を振るった時もそうじゃが、そのためだけに激怒したのは、ちと違和感が……)



そして、榮が紡いだ言葉を、眉をへの字にした顔で聞き入れていたアスピラ。

きっと、あやつはこう思っているのだろう――『大切な人を傷つけられたから、こいつは怒っているのだ』と。

ありきたりな人間の感情に、つまらなさを感じているからこそ、あんな顔をしているのじゃ。


しかし、その答えは違う。

榮が怒っている本当の理由は、そんな感傷的なものじゃない。この絶望的な状況を挽回するために、あえて怒りを丸裸にするという、榮なりの冷徹な『作戦』。



……わしの憶測に過ぎんがの――



「……私の目的? あなたに教える必要なんてあるの? 教えてなんの得にもならないよ。

それに……ほら。こんな無駄なことしてると、私、襲って殺しちゃうけど」



アスピラは小首を傾げて、あどけない表情で榮を煽る。



「そうだな、早く神域の外にでなきゃ殺される――お前の言うとおりだアスピラ。

……でもな、見てみろ。みたはお前の毒で身動きは難しいし、まともに話すことすらできない。今は使えない。

それと、神域を出るにはみたの「念」も必要だから、どのみち脱出することなんて最初から無理だった」



だいぶ辛辣な榮の言葉に、みたは心を抉られるような傷を負ったが、それでも黙って二人の様子を窺っていた。



「……最初から逃げられないなら、なんで私を殴って逃げ出ようとしたの? 少しでも死から免れるため? ……それとも状況を挽回しようとしたの?」



アスピラの言葉のトーンが、わずかに落ちる。

図星か。わしの思惑は当たっていたようじゃ。



「あぁそうだ。逃げるための『仕方ない』作戦だった。状況を挽回するためってのも間違ってない」


「じゃ、じゃあ……なに……? 私はあんたのしょうもない作戦なんかにはめられてたの……?」



む、明らかに焦りが生まれておる。こうなるとは予測出来なかったのか。

























評価も入れていただけると幸いです。

それと、「ここ意味わかんねぇ」っていう箇所があれば、感想で教えてください。


9月20日 追記  少しの間、投稿できないかもです。 

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