表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問無抄 ~のら猫と忠犬の虚実録~  作者: ぐるた眠
第一章 白音堂~死者と会話できる堂~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/37

第零話 死者との対話

 白音堂。

 つめたい静寂が支配する、荘厳な堂内。


 彩られた祭壇の奥には、やわらかな笑みをたたえた女像が鎮座している。


 その御前、黒い床板の上にはひとりの青年がひれ伏していた。


 顔前では一本の線香が、細い煙を立ち(のぼ)らせている。


「……ああ、そうなんだ。あいつ、今はもう家を継いでさ、立派な商人になったんだ。もうすぐ赤ん坊も生まれるって」


 視線の先には誰もいない。ただ空虚にむかって、やさしく語りかける。


 当然、返事はなかった。


 両脇にずらりと並ぶ白装束の女たちは、まるで生気のない人形のように、冷めた面持ちで青年を見下ろす。


 後方座席には、二十人ほどの老若男女がすき間なく並べられている。


 ある者はあたたかな眼差しで青年の背中を見守り、またある者は遠くの女像に向かって祈るように顔を伏していた。


 すべての人間が沈黙し、張りつめた空気の中で、咳ばらいすら我慢している。


 そんな中で青年一人がうなずき、首をふり、時おり身振りをまじえながら、声を張り上げた。


「いいや。そんなことはない。だってお前は……ここにいるじゃないか。謝らないでくれ」


 ふたたび言葉が途切れ、深い沈黙が落ちる。


 青年はじっと耳を傾け、ああ、うん、そうだ。と静かに相づちを打つ。


 かと思えば突如、あははっ、という彼の無邪気な笑い声が、丸く巨大な天井に反響した。


「……ああ、今日もあっという間だったな。じゃあ、またな」


 そう言い残すと青年は口を閉じ、まるで憑き物が落ちたように笑顔を消す。


 白い煙ただよう中、最後は壇上へ向かって深く叩頭した。


 壇上の女像は大きな(はね)を広げ、変わらず微笑んでいる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ