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流れ星へ幸せを  作者: 本宮 律
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副編25

朝。


俺は行かない、と。

そう伝えれば、神野は最初からわかっていたかのように頷き、


『なら、きっと来る2人を止めてくれないか。ゲートまで来れば、ダイチがもたない可能性がある』


そう提案してきた。


代わりに、シュリちゃんの旅立ちを助けると決めた俺にはぴったりの役目だ。

展望台での足止め役なんてね。

喜んで買って出たよ。


「最後の最後までごめんね、ありがとう」


「ううん。俺にはこれくらいしか出来ないから」


これが最後なんて、全く実感がないけれど。


「じゃあ、気をつけて」


「うん、ま(・)た(・)ね(・)……」


ゲートへ向かう非常階段へ向けられた友達の背中を、涙をこらえた目にしっかり焼き付けた。






……なのに。





“ハル”






お前の口からその名前が出るなんて、思いもしなかった。

だから、動揺して口走ってしまった。

……ダイチのこと。


シュリちゃんには悪いけど、半端に約束を破ることにはなるけど。

それでも、ダイチを行かせない方が先決だ。


「知りたいなら、全部終わってから話すって約束する。だから、ゲートには行くな」


これまで出したことの無い、強い口調。


なりふり構っていられないんだよ。

俺がここを通せば、ダイチが危ないだけじゃない。

シュリちゃんの決意が台無しになる。


シバに掴まれていた腕が、自然と離された。


「……俺、1番大事なのはお前とショウさんだったよ」


「…………」


懐かしい名前に、手が震えた。


俺のワガママで死の実験に巻き込んだ、親代わりのあの人。

出世、結婚、安定した生活……

色々な未来を諦めて、俺たちを選んでくれた人。


…お前、いつから思い出していたんだ?


「死ぬ前提で参加した実験だった。でも、お前も俺もここにいる」


シバの言葉が心に刺さる。


死しか待っていないと覚悟した先には、未来があった。

期待も希望も描いていなかった未来が、いまここにある。


……それは、自分がよくわかってる。

でも、俺らは運が良かっただけかもしれない。

誰しも、“明日”に保証はない。


「…昨日、ショウさんに会った」


「……!」


生きて、たんだ…。


『何でそんなことが言えるんだよ!』

俺が実験に参加したいと言ったあの日。

ショウさんは、初めて声を荒らげた。

“親”に怒られたのは、それが初めてだった。


今でも鮮明に思い出せる。


それは俺が、「死にたい」と同等の言葉を口にした日だったから。


「元気にしてたよ。今度、お前も連れて会いに行こうって思った」


堪えていた涙がぽたぽたと落ち、

床の色が、水玉模様のように浮かび上がった。


「…未来って、変えられるんだ」


優しい声。

弟のくせに、いつも俺を包み込む。


俺の肩をそっと撫でるシバの視線の向こうには、


『お待たせしました。ゲートの準備が出来たので、開きます』


研究員に囲まれ、前かがみになっているダイチ。


今日、初めて視線があった。

……いや、俺が合わせたんだ。


シュリちゃんに会わせれば、お互いの身に何が起こるかわからない。

神野のハッタリなら、それでいい。

むしろ、それを信じるくらいしかない。


『未来は変えられる』


この先、俺がここを退いたら。

ダイチが死ねば、それは過去になってしまう。

……変えられなくなってしまう。


でも、ここを退かなかったとして。

ダイチが生きても、それは過去で。

……それも変えられない。


『レバーを引くだけだから、楽だよ』


俺は天を仰いだ。


「………なんで」


なんで今、昨日の会話を思い出すかな…。


俺の前にあるレバーは、トロッコの先に誰がいるか分からない。

ロシアンルーレットみたいなもんだ。

引いたとて、引かなかったとて。


シュリちゃんに会えなかったダイチか。

ダイチを止めなかった俺か。


残るのは、これから生きていく、誰かの後悔。


「……ダイチは、今死んでもいいからシュリちゃんに会いたいって思う?」


意地悪な質問だと思う。

死は、誰だって怖い。

普通なら、死なない選択を選ぶ。


俺は、ダイチがいなくなるのが嫌だから。

こわいから。

死にたくないから行かないと、言ってくれたらどんなに楽か。


少しの間を置き、ダイチは口を開いた。


「…死んでもいいとは思ってないけど、」


「……うん」


俺とシバの目が、ダイチを捉える。


「シュリだから来たわけじゃない。お前らがこうなってても、きっと来たよ」


「!」


全く予想していなかった言葉だった。


「だって、もう二度と会えないってことは……死ぬのと変わらないだろ?」


シュリちゃんが、旅立った先で生きていたとしても。

俺たちの前からいなくなることはかわらない。

二度と会えなくなるという意味では、死んだも同然だと。


考え方ひとつ違うだけで。

見ているものは一緒なのに、俺には気づけなかった。


死後の世界とかいう場所があったとして、その先のことは俺らには分からない。


確実に俺たちとは交わることの無い世界。

……シュリちゃんの行き先が死後ではないとしても、残されるダイチからしたら同様だと。

そういうことだろう。


ダイチは疲れた顔をしながらも笑う。


「…多分俺、命懸けで会いに来たから」

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