副編4
【聞きたいことがあって、明日ひま?】
夜。
退屈を潰すために、部屋でころがってネットサーフィンをしていたとき。
夏休み直前に転校してきたあの子から、個人的なメッセージが来たのは初めてだった。
星河 シュリちゃん。
ダイチの親戚らしい。
十中八九嘘だと確信しているけど、言いたくなさそうだから深くは突っ込まなかった。
…それは、シバも同じだったと思う。
聞きたいことって、俺に?
ダイチには言いにくい何かなんだろうな、と予想する。
恋愛相談とか…?
俺経験ないから、それだったら役に立たないけど。
まあ、聞こうじゃないか。
少し考えて、シュリちゃんのアイコンをタップした。
明日なんて言わずに、早い方がいいだろ。
『わっ、わっ!びっくりした!』
数回のコール音の後、慌てた様子の彼女の声が聞こえる。
ダイチとかソラさんとか、近くにいないのか…?
耳をすましても、聞こえてくるのは遠くから流れるダイチのお気に入りのアーティストの曲だけだった。
『ど、どうしたの……?』
俺が黙っていたからか、シュリちゃんはおずおずと気まずそうに言う。
「いや、それこっちのセリフ~。シュリちゃんからのデートのお誘いなんて嬉しかったから、電話しちゃった!」
『でーと…!』
「なんてね~どしたの~?」
冗談交じりに言えば、向こうの空気が少し解れたのを感じた。
『もう…びっくりした…』
転校してきてすぐに夏休みに入ってしまったから、俺たちはまだそこまで話したことは無い。
シュリちゃんの補習…いや、学力査定は一日で終わっちゃったし。
一緒に出かけたこともあったけど、シュリちゃんの隣にはいつもダイチがいたもんな。
俺にはシバが大体……まあ、いた。
認めたくないけど。
俺もどうせいるなら女の子がよかったとか、ちょっとしか思ってない。
他愛ない雑談をしたところで、
大したことじゃないんだけど、と前置きをされる。
どうやら本題のようだ。
『セトくん。この前一緒に行ったプラネタリウム……覚えてる?』
「………………」
…ごめん。
正直寝てたから、内容は全然覚えてない。
でも、ダイチとシュリちゃんがイチャついてたのは見てたよ。
…なんて、さすがに言えない。
「あー……」
口ごもる俺に、シュリちゃんは続ける。
『星ってあんな綺麗だったっけ、ってセトくんが言ったの。見たこと、あるの?』
ドクン。
そんなこと言ったっけ、俺。
記憶を辿る……。
【楽しかったね~星ってあんな綺麗だったっけね~】
出口。
先におみやげコーナーに向かったふたりの後ろで、言った気がする。
ダイチの呆れ顔も覚えてる。
流れ星を見て思い出した直後だったから、意識せず出たんだろうな。
なんて言い訳しよう…。
「…………」
何も言えない俺に、少しの間をおいて、
『……わたしはね、見たことあった…』
「え?」
小さな声で、少し鼻声になったシュリちゃんは言った。
『見上げたことも、……きっと、見下ろしたことも』
「…………………」
電話越し、どんな表情をしているのかなんてわからない。
でも、あの宙を思い出す。
ひとりぼっちの俺を包こんだ、暗闇。
「…明日、10時に駅前でどう?」
言わなくても、聞かなくともわかる。
……多分俺は、シュリちゃんと同じ表情をしていた。




