本編31
「………チ、ダイチ、起きろ」
「んぇ…?」
急に肩を揺さぶられ、うっすらと視界が広がる。
見慣れた黒髪に、光るピアス。
…あれ、今どこ…
俺、何して…
『まもなく、新大阪~新大阪です』
遠くからアナウンスが耳に入ってきて、一瞬で意識が覚醒した。
そうだ!
シュリの事を聞くため、明石さんに会いに大阪に向かってたんだ。
まさか、起こすつもりが起こされてしまうとは…。
俺を起こした張本人、シバは少し笑った後、腕を組んで座り直す。
「ごめ……俺、寝てた?」
自分でも、バツが悪そうな表情をしているであろうことがわかった。
そんな俺に、容赦ない一言。
「ぐっすり。せめてアラームかけろや」
そう言ってくくっと笑うシバ。
俺と目が合う度、口元が歪んでいる。
…大方、変な顔してねてたのか、寝言で何か言ってたか…。
どっちにしても恥ずい。
被っていたキャップをさらに深く被れば、つばの先端をくいっと上げられた。
「いじけんな。もう着くし、さっきソラさんからメッセ来てた」
シバはそう言って降りる準備を始める。
え、姉ちゃんからメッセージ…?
思い出したようにスマホを見れば、そこには大量の通知が。
【新幹線乗れた?今日福岡に着くの無理そうだったら、途中の駅で宿とってあげるから連絡して!】
【電車乗ってなくない?スマホ使ってないの?】
【ダイチ!見てる?スタンプでいいから返事して!】
【シバくんが連絡くれた!大阪のホテル2人分でとったから、22時までにチェックインすること!】
【お母さんとお父さんには、シバくんとプチ旅行って言ってあるからね】
【見たら即返事しな!】
「う、わぁ……」
通知をスクロールしていけばいくほど、顔が歪む。
姉ちゃん、心配しすぎ…
俺もう高校生だし、1歳しか変わんないのに。
いや、ホテルとか母さんへの言い訳とか諸々ありがとうなんだけども…。
通知のえぐさに引いていると、横から画面を覗き込んだシバも苦笑い。
「降りたら返事してやんなよ。ソラさんって、意外とメンヘラ?」
「うん…いや、今日家出たの突然だったから…」
飛び出すように出てしまったことを思い出した。
いつもと様子が違うこと、姉ちゃんなりに心配してくれたんだろう。
ごめん…けど、この通知は怖いって。
『ご乗車ありがとうございました』
とりあえず新幹線を降り、待合室に入る。
シバは待ってて、と一言置いてどこかへ消えていった。
時刻は19時。
【連絡遅れてごめん!シバと大阪に着いた】
姉ちゃんに簡単に返事。
一応、土下座スタンプをつけておく。
「…………」
そして、もらった写真の住所をもう一度眺め、スマホで住所検索を行う。
位置的にはここから約40分。
今から向かえない距離ではない。
…が、さすがにアポなしでこの時間に尋ねたら失礼すぎるよな…。
顔を上げ、道行く人に視線を向ければ、みんなスーツケースを持っている。
サラリーマン、女子グループ、家族連れ……
こんな軽装で降りたのは、俺らくらいのようだった。
「はい、ソラさんに返事した?」
戻ってきたシバに、カップを手渡される。
見慣れたカフェのロゴがついていて、大阪にもあるんだ、なんてのんきに思う。
「した。マジでごめん、色々」
俯いてスマホと写真をポケットにしまえば、シバはマスクを下ろしてカップに口をつける。
「いいよ。あの寝顔、セトとネタにしてやるから」
「やっぱ撮ってたんか!」
表情一つ変えない友人にきつめの拳をお見舞いしたが……。
「…………いって~…」
「それ、俺の顔とセリフだけど」
涼しい顔にもう1発入れたくなったが、それどころじゃない。
右肩に入ったストレートで一番ダメージを受けたのは、俺の右手の第二関節たちだった。




