本編13
『まじ最悪~さっそく明日から補習だって~』
夏休み初日。
セトが電話口で溶けそうに嘆いている。
『そりゃな。お前、一夜漬けして本番寝てたろ』
「まじ?笑う」
嘲笑するシバの情報は初耳だ。
なんせ、俺は自分のことでいっぱいで、テスト中に他のことを気にしている余裕なんてなかった。
去年、補習ナメてて地獄を見たからな。
俺は毎日のようにセトと補習室で顔を合わせて、げんなりしてた。
各教科3日ずつ。
必須5教科全て補習になったら、半月ほど潰れてしまう。
今年は絶対いやだ!と覚悟を決めてシバに勉強を教えてもらったのが功を奏したんだ。
『笑うなよ~!ダイチだって去年は仲間だったのに~』
裏切り者~とぶーぶー文句を垂れるセト。
うるせえ、俺の隣でソシャゲしてたの誰だ。
俺の推しキャラをその場で当てたの、まだ根に持ってるからな。
「フッ、去年の俺とは違うんで」
スカしながら、首に手を添えた。
セトも一緒に勉強してれば、今頃ハッピーだったろうよ。
ざまあねえな。
『うわ、絶対イケポーズしてるでしょ今~!むかつくわ~!』
『俺も同じこと思った』
なんとでも言え。
補習なしって最高だ。
ああ、心が広くなっちまうぜ…。
大海超えそう。
今なら何言われても許せちゃう……
『明日からパンイチって呼ぶから~』
『はは、合ってんの語尾だけじゃねえか』
「おい、やめろ沈めんぞ」
電話越しにゲラゲラ笑う2人に、さっきの心の広さは何処へやら。
俺の大海は、あっという間に乾いた砂漠地帯へと化した。
コイツら、ほんとに人をバカにするのが上手いな。
同じところでツボんなよ。
せめてシバ、お前は俺の味方をしろ。
首に添えていた手は、いつの間にか握りこぶしになっている。
コイツら、いつか絶対仕返しするからな。
俺、根に持つと長いぞ。
気を紛らわすべくベランダに出れば、曇り空が出迎えた。
『あ、なんか雨降ってきた』
ちょうど、セトの言葉と重なるように、鼻の頭に水が落ちてくる。
雨か…。
……姉ちゃんとシュリ、2人で出かけたけど大丈夫かな。
起きたらもういなかったから、傘もってったかわかんないや。
一応、姉ちゃんのメッセージを確認するも、特に何も来ていない。
迎えと荷物持ちが必要なら即座に連絡してくるだろうし、大丈夫か。
念の為通知だけ気にしておこう。
『…外出る予定ないから気にしてなかったな』
シバの声が少し遠くなる。
多分、スマホを置いたままちょっと離れたんだろう。
「同じく」
…俺も予定作るかあ。
て言っても、シュリを連れ回すくらいしか思いつかない。
去年は補習に文化祭の準備とか、何かと忙しかった。
のんびりの夏休みもいいけど、毎年数日で飽きるんだよな…。
バイトのシフト、もっと入れておけばよかった。
「セト、補習何教科?いつまで?」
『んえ?全教科だけど…今年は補習テストで満点取れたら終わりらしい~』
全教科、満点…。
絶対無理だなおい。
遊びたかったけど、望み薄そうだ。




