本編4
姉ちゃんはひたすらスマホをいじっていて、どうやらこの子の服を見繕っているところのようだ。
そんな姉ちゃんに、無言で持っていたアイスを投げる。
…うちに置く提案をしてくれた恩があるからな。
「さんきゅ~~あ、」
そんな思いを知ってか知らずか、姉ちゃんはのんきに受け取りアイスを一瞬くわえて、ふと俺を見た。
そしてそのまま口から離したアイスの先端を俺に向ける。
「この子、名前何?」
「知らねえ」
即答。
ボタッとアイスの先から溶けた液体が落ちた。
聞けるわけねえだろうが。
喋るどころか目すら開かないんだぞ。
顏に出ていたのか、姉ちゃんは眉にしわを寄せながらアイスをくわえなおした。
「あんたは拾った犬に自分の名前聞くわけ?聞けないなら、つけてあげなよ。あとそこ拭いといて」
「……すんません」
うぜえ…けど正論過ぎて何も言えない。
顎で指示され、姉ちゃんのせいでこぼれたアイスをふき取る。
名前、名前ね…。
山で拾ったから、ヤマ?
青いカプセルの中にいたし、アオ?
あ、今夜だし、ヨル?
「却下却下!センスなさすぎマジで!」
頭に足を置かれてカチンときたとき。
あ、そういえばカプセルになんか書いてあったよな。
確か蓋の上の方。黒い字でなんて書いてあったっけ…。
頭の上の足を振り払って顎に手を当てる。
かなりかすれていたけど、ローマ字だったような気がする。
あーっと………
「なんとか……シュリー…?」
「シュリ!?あんたにしてはかわいい名前出してきたわね。それにしよ!決まり!」
姉ちゃんは俺に親指を立てながら、食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に投げる。
しっかり受け取ったゴミ箱からは、小さな音がした。
うろ覚えだしはっきり思い出せないんだけど。
まあ、姉ちゃんは気に入ったみたいだしいいや。
どうせ本人が目覚めて名前聞くまでの仮名だしな。
「んじゃ!また明日~~」
騒ぐ姉ちゃんは電話が来たみたいで、一足先に部屋に戻っていった。
父さんはまだ写真撮ってるし、俺も部屋戻るかな。
ポケットに入れっぱなしだったスマホを手に取ったとき、二階から降りてきた母さんが俺の肩をたたく。
「今ダイチの部屋に布団敷いといたから、彼女部屋に持ってってね?」
「えっ」
面倒見るのよね?と言いたげな顔。
母さんがキッチンに入っていくのを固まりながら見送った。
いやいや、マジかよ…。
俺、女の子と寝たことないけど大丈夫か?
布団が別とはいえ、っていうか俺が床の方がいいよな!?
あ、でも俺のベッドで寝るのも嫌か…。
「…………はぁ」
…とりあえず、部屋に行ってから決めよう。
「僕、落ち着いたらお義父さんにも連絡してみるよ」
「そうね。ちょっと心配だし…あ、ダイチ。もう部屋行く?」
「うん。ちょうど明日日曜だし、後のことは明日考えるわ。おやすみ」
夏休みまで、まだ半月もある。
二人もそれをわかってくれているのか、笑顔で頷いた。
それを尻目に、俺は彼女を背負って階段をのぼる。
……あっちい。
エアコンつけて寝たら、この子冷えるかな。
汗だくの俺は彼女をベッドに降ろし、一切水分のなさそうな彼女の頬を手の甲で触った。
俺の部屋はベッドの真上にエアコンがある。
彼女をベッドで寝かせたら、たぶん寒いだろうな。
かといってエアコンがなかったら俺が死ぬ。
でも女の子を床に寝かせるのはどうなんだ?
とりあえず彼女を壁際に追いやって布団をかけ、隣に転がってエアコンに当たる。
「よし」
ここですこし涼んだら俺が床で寝よう。
仕方ないからエアコンは温度高めにつけて寝ることにした。
起きたらいなくなってたとかやめてくれよ…と願って。




