女神の爪先
「――着いた」
それからしばらくして、ギルバートが馬を止めた。
「わぁ……」
彼に連れてこられたのは、岩の転がる荒れ地だった。
目の前には岩山がそびえている。陽光を浴び、白く輝いているようだ。変わった形の山で、鑿を垂直に立て、半分を一気に削り取ったような形状をしている。岩山というよりも、大きな一枚岩といった方がいいかもしれない。
その向こうには青い山々が連なっていて、こちらも陽光を受けて輝いていた。
「ここが花の咲く場所だ。何もないが、代々の領主には伝えられている。好きなだけ調べてくれて構わない」
「ありがとうございます」
岩がごろごろしているのを除けば、特に変化のない場所だ。ちらほらと草が生え、乾いた風に揺れている。灌木の茂みらしきものもあるが、ほとんどが砂と小石だけだ。木が生えているのはずっと向こうで、思ったよりも見晴らしはいい。
すぐそばが削り取られた岩山の麓で、まるで巨大な根のようだった。
無駄かもしれないと思いつつ、花の痕跡を探す。
あちこち探してみたものの、花はもちろん、葉の影さえない。膝をついて探すレティに、ギルバートは戸惑った顔になった。
「レティ、服を汚してしまうぞ」
「大丈夫です。汚れても問題ない服を着てきました」
「だが、虫もいるし、怪我をしたら大変だ」
「刺す虫は怖いですけど、それ以外は平気です。怪我は気をつけますね、ありがとうございます」
レティは森育ちなので、山もまったく問題ない。森で食料を探す時と同じだ。怪我をしないよう気をつけながら、目的のものを探索する。今は花の痕跡なので、探すのもそれほど苦労はない。砂で汚れた顔で笑うと、ギルバートは無言になった。
「……貴族の令嬢というのは、みんな君のような人なのか?」
「いえ私を基準にしたら駄目ですよ!? みなさんもっとおしとやかで愛らしくて上品でいらっしゃいます……!」
何しろレティは森育ちなので(二回言った)、これが普通と思われたら困る。貴族の令嬢というのは、パメラのようなすべてに秀でた女性の事だ。野性に馴染んだ自分を見て、結婚相手への夢と希望をぶった切られたらまずい。というか彼の部下に叱られる。主にガストルとか。
必死で説明すると、どうやら分かってくれたようだった。
「そうか、普通の貴族令嬢は虫をつかまえないのか」
「貴族令嬢じゃなくても苦手な方はいらっしゃると思いますよ?」
「地面に膝もつかないのか」
「それは私が悪いです」
「馬を怖がったり」
「人によりますね」
「宝石とドレスが何より好きと」
「それも人によると思います」
「貴族令嬢とは……難しいな……」
しみじみと語られてしまったので、レティはなんとも言えない顔になった。
(い……いい方がみつかるといいですね……)
彼は真面目で良い人だ。少し突っ走るところはあるけれど、そこを好ましいと思う令嬢は必ずいる。なんとかこの窮地を乗り切って、素敵なレディと出会ってほしい。
そのためにも、何か手がかりを。
小石のひとつに触れた時、ふと妙な感じがした。ぱちりと目を瞬き、じっと観察する。
「レティ、どうした?」
「いえ……なんでも」
気のせいかもしれないと首を振ったが、どうにも気になる感じがした。
だが、確証はない。
結局その日、手がかりは何も見つからなかった。
お読みいただきありがとうございます。パメラも元気にやっています。




