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根絶やし伯爵と枯れ枝令嬢  作者: 片山絢森
根絶やし伯爵と黄金の果実

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31/93

不思議なことが起こりました

 ひとりになってからも、不安は募るばかりだった。

 枯れ大樹の枝に祈っても、光は飛ばない。

 あまりにもぶっ通しで働き続けていたせいか、レティは作業場から追い出された。休むようにと命じられたが、まったく眠れる気がしない。


 歩いているうちに、いつの間にか枯れ大樹の枝を植えた場所まで来ていた。

 もう一度祈ったが、やはり光は飛ばない。すうっと光っては消えていく。


(パメラ)


 あの子はおとなしいけれど、やさしい子だった。

 利発で、可愛くて、レティを慕ってくれていて。グレーデを追い出された時、唯一の心残りがパメラだった。せめてさよならを言いたかったと、ここに来てから何度も思ったものだ。

 だけど、こんな形で別れるなんて。


 ――そんなのは、絶対に嫌だ。


(大樹さま)


 膝をつき、レティは枯れ枝に祈った。


 他には何もいらないから、あの子の命を助けてください。

 村のみんなを助けてください。

 グレーデの人達も、ボールドウィンの人達も、全部まとめて救ってください。

 どうしたらいいか分からない。でも。



(お願いだから、助けて……!!)



 その時だった。


 レティの体から、ぶわっと光が立ち上った。


 強い輝きが満ちあふれ、昼間のように明るくなる。まぶしくて目を開けている事もできない。こぼれた光は次々と、地面に向かって落ちていく。まさに光の洪水だ。

 土の中の一点を目がけて、どんどん光が集まっていく。


 その時、変化が起きた。


「……え?」


 最初は気のせいかと思った。

 土の中で何かが動き、もぞもぞと背伸びするように震えた後、かぶっていた土を押しのけて――、



 ()()()()



「な、何……?」


 なんの変哲もない、植物の芽だ。

 瑞々しい若葉を広げ、ちょこんと土から生えている。

 目を丸くするレティをよそに、芽は少しずつ成長を始めた。


 ゆっくりと背を伸ばし、足元の根が張っていく。幹はするすると伸びていき、いくつも枝が分かれていくと、見る間に小さな若木になった。枝の先に新芽がつき、緑の葉が広がる。さわさわと音を立てながら、木は少しずつ枝を伸ばした。


 レティが見守るうちに、それは背丈よりも少し大きい、見た事もない木になった。


 とても美しい木だった。

 幹はほっそりとして、葉は宝石のように輝き、全体が淡く光っている。ぽかんとするレティをよそに、その木につぼみがつき始めた。ひとつ、またひとつとふくらんでいく。やがてそれは次々に、小さな花を咲かせ始めた。


 それは素晴らしい光景だった。

 雪のように白い花が、次々にふくらんでは咲いていく。次から次へと咲き誇り、一面に花が咲き乱れる。あまりの美しさに、レティは唖然として見とれていた。


 そして、ひとつの花が落ちた後。

 木には黄金の果実が実っていた。


「これは……」

 レティが手を伸ばすと、枝がそっと下りてきた。


 それはほのかに輝いていた。

 リンゴに似ているが、少し違う。手のひらに収まるほどの大きさで、プラムよりもやや大きい。ずっしりと重く、つやつやと光っている。鼻を近づけると、ひどく爽やかな香りがした。


 こんなものは見た事がない。記録にも日記にも書いていない。

 でも、レティはこれを知っていた。


(あの時の……)


 ルカに聞かせてもらった昔話だ。



 ――白い花を咲かせ、黄金の実を実らせる。



 永遠の緑を有し、病を治す奇跡の果実。


 もしかして、これが?


 迷っている時間はなかった。

 果実をもぐと、レティは身をひるがえした。その直後、はっと気づいたように振り返る。


「……ありがとう!」


 応えるように木が揺れた。

お読みいただきありがとうございます。さあ、巻き返します。

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