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 僕たちが住んでいるのは、古びた木造の小屋。

 広さは八畳程度で、壁や床には黒カビが生えている。

 不衛生極まりないし、男四人が共に生活するには不十分過ぎる。但し、朝から晩まで働き、自由時間は昼休憩と寝る時だけ。そう考えると、案外広さは問題にはならない。


「おい、お前ら。今日はお楽しみの給料日だぞ」


 ニタニタ顔のボスが部屋の中へと入ってきた。

 その後ろには、黒スーツとサングラスの男達が数人。

 通称、黒服。ボスの子分だ。


「お前ら全員もっと喜べよ。給料が欲しくないのか?」


 高鳴る気持ちがあるものの、地獄のような肉体労働生活。

 元気を出して声を出すことさえ、上手にできない。

 栄養失調と睡眠不足が原因だろうな。家畜の餌かと見間違うような飯しか与えられていないし。


「まぁーいい。本日は給料日だ。豪遊してくれ」


 何か裏があるのかと思うが、お金さえ手に入ればいい。

 約束通り60万円入っていれば、三ヶ月で180万円稼げる計算だ。周りの人たちに聞けば、破格のバイトだとさ。


「ど、どういうことですかぁ!! 僕の給料……?」


 1万円札が10枚だけ。60万円とは程遠い。


「はぁ……? 何言ってんだ? ボンボン」


 ボンボンとは、僕のアダ名である。元伯爵の息子ということで、散々な言われようだ。

 でも現在は落ちぶれた存在なので、周りの奴等から咎められることはない。


「家賃15万円、食費20万円、水道光熱費5万円、その他日常生活費10万円。それを差し引いて、お前の給料は10万円だ」


 空気が一変。

 他の人達も異常性に気付いたのだろう。最初から誰もが不信感を持っていたので、爆発したとでも言えばいいのか。


「ふざけるなぁ!? 人間を馬鹿にしている。この悪魔!」


 毎日一生懸命働いて、これっぽちしか稼げない。

 ありえない話だ。聞いた話と全く違うじゃないか。

 僕の声に呼応するように、他の人たちも抗議の声を出した。


「ボス、これはあんまりだ。話が違うじゃないですか!」


「ボスさん、今までの違法バイトには目を瞑った。それでも給料がしっかりと出ないのは、あんまりですぜ」


 僕たちが反抗するとは思ってもなかったのだろう。

 ボスは縄を振った。バチンと音が鳴るだけで、僕の頭には拒絶反応が出る。何度も殴られたのだ。恐怖症になるのも無理もない。


「先に言うが、お前らは全員クズだ。ゴミだ。生きる価値がないんだ。どいつもこいつもクズ人間ばかり。そんな奴等が働かせて貰えているだけでも有り難いと思え、このゴミ共がぁ!」


 クズ……ゴミ……生きる価値がない。

 そこまで言われる筋合いはどこにもない。


「おい、黒服共。このボンボンを連れて外へ出ろ」


 ニタァと愉快気に顔を歪めて、ボスは指示を出した。


「おいっ!? な、何をするのだ。僕に何をするのだ」


 両腕を黒服達に掴まれて、僕は部屋の外へと出された。


「コイツの服を脱がせろ。その後、縄で縛って、木へ吊るせ」


 ボスの指示を聞き、黒服達が近付いてきた。


「えっ……? な、何をするのだ。ぼ、僕に……」


 手足を動かして必死に抵抗するものの、完全無視。

 お構いなしと言った感じで服を脱がされ、縄で足を縛られて、木へと吊るされてしまった。手も足も出ない。


「こんなことをして許されると思うなよ。お前ら……絶対に殺してやる……殺してやる……お前ら、全員……ここで、八つ裂きにして……」


 外で全裸。おまけに縄で縛られる姿は、まるで罠に引っかかった獣。仲間だと思っていた奴等は、僕を見て口を抑えてクスクスと笑ってやがる。恥晒しにも程がある。


「悪いな、ボンボン。だがな、これが社会だ。見せしめだよ。ボスに逆らったらどんな酷い仕打ちを受けるのか」


 見せしめだと……? ふ、ふざけやがって。

 貧乏くじ……この僕が……このルーク・シュバルツ様が引いただと……? 舐めやがって……絶対に殺してやる、全員。


「おい、黒服。アレを渡せ」


 ボスは何かを受け取った後、


「おい、クズ共、今から面白いものが見れるぞ」


 縄で吊るされた僕の顔へ酒を垂らしてきたのだ。

 と言っても、荒いので、殆どが口の中には入らない。


「ほらぁ、飲め。喉が渇くだろぉ? 炎天下の吊るされたら、脱水症状になるからな。いっぱい飲んどけよ」


 あぷあぷしながらも、僕は出来るだけ多くの酒を飲んだ。

 ここでは酒瓶一本5000円で取引されているほど貴重なのだ。


「よしっ。準備完了だ。蜂蜜も塗りたくれ、急げ」


 蜂蜜を塗りたくった後、ボス達は帰って行った。

 僕は炎天下の森の中で一人縄に吊るされるのみ。

 見せしめと言っていたが、脱水症状が狙いだろう。

 そう思っていたのだが——僕の予想は大間違いだった。


 ブゥーンブゥーンブゥーン。ブゥーンブゥーン。ブゥーン。


「ひぃひぃ……く、来るなぁ! ぼ、僕の綺麗な顔にへばり付くな。こ、この害獣がぁ!? この虫けら供がぁ!?」


 酒と蜂蜜の甘い香りに導かれ、大量の虫が来訪したのだ。

 振り払おうとするも、手足は縛られている。

 つまり、現在の僕は無力。お得意の魔法は役に立たない。


「やぁ……や、や、やめてくれぇえええええ!! た、助けてくれええええええ。誰かぁあああああ、た、助けてぇええええ」


 解放されるまでの数時間、僕は顔中を這う虫に耐えるしかなかった。後で、鏡を見ると、綺麗な顔は赤く腫れていた。蕁麻疹を起こしたか、到底数時間前の僕とは思えない有り様だ。


「……ひぃ……ひぃ……覚えとけよ、クズ供が」


 僕には野望がある。

 こんな目を遭わせた元凶アメリアを徹底的に潰すこと。

 そして、もう一つ——威張り散らかすクズ供の処分。


「待っててね、アメリア。死よりも恐ろしい苦しみを味合わせてあげるから。どんなに君が泣いて喚いても許さないから」


 シュバルツ家を追放されたが、僕にはまだ宛てがある。

 ミーシャ・クリムゾン——僕の初恋相手。

 彼女は僕に恋心を抱いている。結婚して僕の地位は元通り。


「ミーシャだけだよ。僕を救えるのは。僕だけのお姫様だよ」

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