第24話「夢のマイホーム」
約束されていた家を国王からもらった。今は場所を案内してもらい、着いたところだ。それにしても大きい。普通に貴族の屋敷程の大きさがある。ミカと2人で住むにしては大きすぎるな。マイホームをくれると聞いていたが、まさかこんなに大きいものを渡してくるとは。わざわざ作ったのか?
「確かに家を貰えるのは嬉しいですが、こんな良いものは貰えません。格差を是正する人間として、住んでいい気がしません。」
ミカとソレイユは呆れたといった顔で俺を見てくる。国王は予想通りといった表情だ。
「1から作ったのではなくて、元々私の父が持っていた家の1つです。私はそれ程家を持っていても仕方がないので放置していたのです。無駄になるよりはいいでしょう?どうですか、合理的でしょう。」
「えぇ……無駄は良くないですね。ありがたく頂戴します。」
最近言いくるめられることが多い気もする。いや、俺は人の言葉にもそれなりに耳を傾けるし、筋が通っていればどんなことも受け入れるから、別におかしなことではないはずだけど。
「まあ先輩良かったじゃないですか。大は小を兼ねると言いますし。でもこんなに大きいと、確かに2人で管理は難しいですね。」
「使用人も事前に雇っておきました。丁度、仕事がなくなりそうだった者でしたので気にしないでください。」
「普通は、『優秀な者を雇っておきました』と言うところなのに、先輩の考えを先読みして、不思議な会話になってますね。」
ごもっとも。しかし、どうやら俺が気兼ねなくいられるように色々と配慮してくれているようだな。
「気難しくて申し訳ありません。」
「だから私は陽さんを信頼しているんですよ。」
「私もですよ先輩。」
「でもある意味、分かってしまえば陽は単純だけどね。」
ソレイユの言葉は確かに的を射てはいる。
「さて、それでは私とソレイユは宮殿に戻ります。家は自由に使ってください。」
そう言って2人は行ってしまった。
中に入ると、既に3人ほど人がいた。これが王の言っていた使用人だろうか。そういえば彼らに金を払うのは誰なのか。俺の給料から天引きかな。まああっても使えない額を貰っていたし気にしないが。
「ええと、これからよろしくお願いします。」
「はい、こちらこそ。誠に勝手ですが、私ども使用人用の部屋は向かって左にあります。それ以外の場所をどうかご自由にお使いください。家事については私どもにお任せください。」
若い男性が代表で説明をしてくれた。あまり育ちの良さそうには見えないが、品性はある喋りだった。
俺とミカは、まずは各部屋を見て回ることにした。まあ知らないところに来たら、まずは探検だよな。とりあえず窓際の部屋から見ていく。部屋は綺麗にまとまっていて、大きさは1部屋8畳ぐらいはある。ベッドや棚はどこも既に置いてある。
「先輩、こことか綺麗ですね。庭も見えます。ただ庭はあまり片付いていないのが残念ですが。」
「まあそこまでは手が回らないのだろう。仕方ない。なんなら、趣味で弄ってもいいけどな。」
ミカは窓やベランダから外を見ていたようだ。外には雑草が鬱蒼と生え茂っている。窓を開けて見ていたら、急に何か小さなものが飛んできた。
「うわぁ!」
悲鳴を上げた後に見てみると、ただの虫だった。
「先輩、ただの虫ですよほら。」
分かったからもういい。また情けないところを見られたか。まあ苦手なものは苦手なんだから恥じても仕方がない。さて、捕まえて外に逃がすか。
「潰さないでわざわざ逃がしてあげるんですね。」
逃がしているところを見てミカが変わったものを見る目で見つめながら言った。
「わざわざ殺す必要ないからな。それに、殺して体液が……って考えると気持ち悪いし。」
外に放って、窓を閉めた。これで良し。
普通の寝室は見たので、他の部屋を探しに廊下に出た。
「先輩は家畜や魚が喋りだしたらどうしますか?」
ミカが唐突に質問してくる。
「多分、もうそいつらを食すことはなくなるだろうな。」
「もっと先輩は楽に生きられないんですかね。」
「面倒な奴だろう。あんまり近くにいすぎない方がいいぞ。」
「まさか。そんな真面目なところも先輩の魅力じゃないですか。」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、今は仕方ないにせよ、やっぱり近寄りすぎない方が無難だぞ。」
そう言うと、ミカは黙ってしまった。しかし、この忠告の姿勢は崩さない。俺はこの性格ゆえに、面倒ごとに首を突っ込むし、面倒ごとを自分で起こす。下手したら危険な目に合わせるかもしれない。
さて、ここはトイレか。
「おお、広いですね。そして綺麗ですね。しかも、他の場所にもいっぱいあります。」
感想は全部ミカに言われてしまった。
ここは風呂場だな。
「ここも広いですね。これはちょっと形が違いますが、シャワーのようですね。宮殿にあったものと似てます。」
そういえば、この世界はシャワーが普通にあったな。まあ原理的には特別難しくもないからあり得るか。そもそもほとんど日本の風呂場と一緒だし。
「あ、先輩……覗きはダメですよ?」
「覗かないから……ああでも、風呂の時間とかは決めた方がいいか。気まずいことにはなりたくないし。」
「いや覗きぐらいはちょっとぐらいなら……ああでも、流石に一緒にはまだ早いっていうかなんといいますか。」
1人で何か言っている。しかも顔を赤らめている。そういうヒロインは嫌いじゃないけど、現実だとちょっと痛いぞ。それと、明らかに俺に向けて言っているから、俺まで赤面ししまう。
ここは何だ?物が敷き詰められているから物置か。
「おお、なんだかお宝が埋まってそうですね。」
「確かにそうだな。」
しかし、ほこりで鼻がむずむずするので、足早に出て行った。
次は……何だかさっきと似たような匂いがする
「ああ、衣装室ですね。ここにいっぱい服があるというのも憧れますね。」
「俺は金持ちの真似事をする気はないぞ。」
「でも先輩、『今日はどれがいいと思う?』なんて聞かれたりしたいでしょ。」
「うーん……興味がないとは言わないけど、似たような台詞は服屋でも聞けそうだ。」
特に目新しい物はないため、他の部屋を見に行った。
次は何だろうか。寝室の5倍ほどの大きな部屋と……あれは台所か。
「キッチンと……ああ、食堂ですね。」
「食堂か。それにしても広いな。会食でも……してたのか。」
広すぎて落ち着かない。宮殿のでも、こんなに広くなかったのではないだろうか。まああそこは仕事特化だったからかもしれないが。
さてここは……食堂ほどではないが、寝室の2倍程度の大きさがある部屋だ。
「居間や応接間として丁度良さそうですね。」
そうかもしれない。まあ寝室が広いから、仕事はそっちでいいけどな。
大体見て回ったか。本当にどう使うんだって程の部屋の数と大きさだ。正直落ち着かない。
「今日からここに住むんですねー。楽しみです。」
「まあ、その内慣れる……かな。」
そうして、荷物を運び、国王と政策について話し合ったりしている内に1日が終わった。それにしても、夢のマイホームが簡単に手に入るというのは、なんだか思ったよりも気分は良くないな。しかし、この家も上手く使いこなせるなら使いこなしたいものだ。
凄い家を貰えてしまうというのも、またテンプレ展開ですね。さて、陽は、そして作者である私はこの広い家をどう活かすのか…ご期待ください。




