くえすと47 番外編 アイリと剣とアックスと
人里離れた山の中にポッカリと口を開ける洞窟の奥深く、聞こえてくるのは剣戟とグシャっと何かが潰れるような音とガラガラと何か固くて軽いものが崩れる音、それと。
「せいっ!はっ!」
という気合を込める声。それに。
「〈ヒール〉」
傷を癒やす艶やかな声。
「これでっラストぉっ!」
ブシャッと何やら緑色の体液を撒き散らしながらライトエフェクトとともに消えていくグールを一瞥したアックスは周りを確認した後で剣を鞘に収める。そこに少しばかり装飾の入った修道服の様なものを装備したアイリが声をかけてくる。
「おつかれー相変わらず良い動きするわね」
「おつかれ、それ言ったらお前のほうが凄い気がするけどな、敵の攻撃躱しながら回復呪文唱えるのなんて早々できないだろ」
そんなアックスの問いとも言えない問いに頬をポリポリかきつつ。
「ま、まあ色々やってたからね」
と曖昧に答えるアイリ。
「ふーん、まあ良いけどなお前の心配しなくて良い分俺が動きやすいしな」
そう言いながら一度鞘に戻した剣を抜いて軽く振るアックス。それを見たアイリが問いかける。
「どうしたの?」
「ん、いや、このゲームってスキル以外の基本攻撃はプレイヤーの技量で攻撃力変わるだろ?」
「ん~言われてみれば人によって同じ装備でもダメージ違うわね」
「細かく言えばスキルもプレイヤー次第で若干の補正がかかるらしいんだけどな」
「ふ~ん、それでそれがどうしたの?」
「んーそういう仕様なら俺もちゃんと練習とかしたほうが良いのかなって思ってさ」
そんなアックスの言葉に軽く笑みをこぼすアイリ。
「なんかおかしな事言ったか?」
「いや全然、私そういう向上心のある人好きだよ」
「男じゃなければだろ」
「人間としてってことよ」
「へいへい」
そう言いつつ再び剣を鞘に戻すアックスにアイリは少し考える素振りを見せた後こう問いかけた。
「んーそれじゃあさぁ、教えてあげよっか?」
「何を?」
「何をってこの話の流れなら剣術じゃないの普通」
若干呆れつつそう返したアイリにアックスは。
「じゃあお願い」
そんな軽い答えを返す。
「随分素直ね普通疑問に思わないの? 私が剣術教えられるのか? とか」
「教えられるから言ってるんじゃないの?」
「ま、まあそうだけど……普通もうちょっと訝しんだりするでしょ」
先程に増して呆れた声でため息をつくアイリ。
「うーん、そう言われても今まで何回か組んだ時から思ってたけど立ち振る舞いもそうだけど戦闘中の立ち回りとか敵の攻撃の避け方受け方見てて何かやってるのかなぁって思ってたしさっきお前も自分で言ってたしああやっぱりそうなのかって感じだろ」
「よ、よく見てるわね」
「ふ、戦闘中というのはだな良い感じにアッチコッチがプルンプルンでヒラっヒラしてポヨンポヨンでチラッチラなんだぜ?」
キリッという効果音が聞こえそうなくらいの良い顔でそんな事を言うアックスに嫌そうな顔をしながら。
「……いやキモいキメ顔でそんなキモいこと言われても」
とアイリは答えるが。
「まさかお前は見てないとでも言うのか?」
そんな疑問がアックスから返され。
「……もう少し格闘系の女の子増えるといいわよね」
それにあらぬ方向を見ながら誰ともなしにそう答えるアイリ。
「お前もそう思うかやっぱり」
「でもよくアンタ戦闘中に女の子見る暇あるわね」
「ふ、俺くらいの上級者になるとチラ見でも完璧に脳内補完できるからな!」
「なんの自慢にもならないんだけど」
そんな事を言いつつ内心では動体視力は凄そうねと感嘆していたりする。
「でもその点お前はいいよなぁ」
「ん、なんで?」
「だってヒーラーだからパーティーメンバー凝視してても怪しまれないじゃん」
そんなアックスの言葉にアイリはニヤリと笑いながら。
「そこに気づくとは流石ね、ふふーんいいでしょー」
良いだろうとばかりに豊かな胸を張りつつそんな残念なことを言うアイリに。
「まさかお前最初からそれを狙ってプリーストやり始めたのか?」
動きが良い割になんでプリーストなんてやってるのか前から気になっていたアックスはここぞとばかりに聞いてみる。
「あーう~ん、えっとね私お医者さん目指してるんだ」
「ほーそりゃまた素敵な目標だな」
変な答えが返ってくるかと思ったらなんともまともで素敵な答えが返ってきてしまい純粋に驚くアックス。
「そ、だからかな」
「なるほどな……まあなんで医者目指してるかは聞かないほうが好印象のままこの話が終わりそうだからあえて聞かない」
「……もうそれ言っちゃう時点でダメじゃん」
「そう返しちゃったら認めちゃってるじゃん」
「……不毛ね」
「そうだな」
「それじゃサクッと教えてあげますか」
「よろしくお願いします師匠!」
「私が手とり足取り教えるんだから強くならないと承知しないわよ」
「おう!」
「よし、じゃあ腕立て100回」
「おー!」
即座に地面に這いつくばって腕立て伏せを始めるアックス。それをポケーッとしばらく眺めた後、はっと我に返ったアイリは。
「って普通ここで不満を表すもんじゃないの?」
そんなツッコミを入れる。
「なんで?」
「いや普通腕立てとか基本的なことはやりたがらないでしょ? しかもここゲームの中なんだしさ」
「う~ん、ゲームの中だろうが何だろうが必要ならやるけど? やらなくていいならやらないけど」
「……ほんとアンタって変わってるわね」
「割とよく言われるな」
「そうでしょうね。オーケー腕立ては無しでいいわよ」
「え、いいの? 基礎練習要らないの?」
「基礎練は主に基礎体力の向上が目的だけどこの世界だと筋肉とかはつかないからまず動きを覚えないとどうしようもないのよ。まあ動きを覚えるためにやる素振りは必要だとは思うけど」
「言われてみればそうだな、腕力なんかはステータス依存だし通常攻撃じゃスキルも成長しないしな」
「そう、だからとりあえず私の動きを真似して後はその通りに動けるようになればいいのよ……たぶん」
「たぶんって……まあまだ手探り状態だしなこの世界は」
「そうなのよねイマイチこの世界が何処まで現実を再現してるのかわからないのよね」
「エロい方面で?」
「そっちも興味深いわね……じゃなくて重力とかそこら辺のことよ」
「なるほどそっちか、確かに剣術って力点とかそこら辺重要そうだよな」
そういいながら剣を軽く振っているアックスに。
「んーじゃあちょっと試してみよっか、ねぇ予備の武器持ってない?」
「予備の武器? うーん店売りのロングソードならあるけど」
「直剣かぁ刀とかあるといいんだけどまだ実装されてないもんね」
「そうなんだよなぁ俺も刀使いたいんだけどな」
と薄汚れた野武士のような自分の格好を眺めつつそういうアックス。
「まあいいわ、これでもアックスくらいなら何とかなるでしょ」
「へ? どういうこと」
「どういうことって今から私と戦うのよ」
「でもこのゲーム対人戦はできないぜ?」
「ダメージが通らないだけでしょノックバックも発生するし普通に模擬戦するくらいなら問題ないわよ」
「ほほう、そうなのか知らなかった」
「そ、だからいつでもかかってきて良いわよ」
そう言って軽く構えるアイリ。
「それじゃあ遠慮なく」
ソレに対してアックスはそう言うやいなやロングソードを構えアイリに向かって踏み込み袈裟斬り気味に斬りつける。
「はっ!」
そんな気合の入った斬りつけを避けるまでもなく簡単に反らすアイリ。
「ほい」
キィン。
「へ?」
「ほらほらどんどん来なさいよ」
「お、おう」
それからしばらくがむしゃらに剣を振るうアックスとそれをひょいひょいと躱したり弾いたり反らしたりしながら演舞のように動き続けるアイリ。
「ぜはーぜはー、くそっ一発くらいは」
「んー今のままじゃ無理かなぁ」
「マジで?」
「うん、これだと剣道やってる小学生のほうが強いよ」
「ぐへ……まじか」
「まあしょうがないよモンスター相手なら問題ないだろうし対人戦とかじゃない限りは今のままでもいいと思うけどね」
「なるほど。ん~じゃちょっと俺を攻撃してみてくれないか?」
「別にいいけど……手加減する? それとも本気がいい?」
「う……てかげ、いや本気で頼む」
「おっけーそういう所好きになれそう」
「変態はお断りいたします」
「殺す気で行くわね」
「やめていただきたい」
「ふふ、ちょっと試したい事もあるし」
「何それ怖い」
「いいから行くわよ」
そう言うとアイリはロングソードソードを右手に持ち半身になり腰を落としてアックスに剣先を向けつつ水平に構え左手を添える。それを見たアックスはつぶやく。
「突き? でもどっかで見たことあるような……右手だけど牙突?」
とつぶやいた瞬間。
「はっ!」
スキルだったらシュパっという効果音でも付きそうな踏み込みから数メートルの距離を駆け抜けスキル並みの速度でアイリの剣がアックスを襲う。
「うひゃっ」
それにアックスは奇妙な悲鳴を上げつつも着弾地点に剣を滑り込ませ。
ガキンッ! となんとか止めることに成功する。
「あれ? 止められちゃったアックスって意外と反応いいのね、ステータス補正もあるとは思うけどなにかスポーツでもやってる?」
動体視力はいいと思ったけどここまでとは思ってなかったため思わずそう聞いてみるアイリ。
「へ? いや、これと言っては」
「おかしいなぁスキル補正なしとはいえ今のを初見で止められるとは思わなかったんだけどなぁ」
「あ、スポーツじゃないけどバイクのってるのは関係あるのかな」
「あーそれかも、車とかバイクを本気で乗ってる人って結構突発的な反射神経良かったりするから」
「あ、あと今の技初見ってわけでもないし」
「……つまりアンタオタクなのね」
「いやいや今のを使えるお前もだろ」
そんなアックスの言葉にアイリは頬をポリポリと掻きつつ。
「あー……これはね……えっと、うちのおじいちゃんがさ剣術道場をやってるんだけどさ」
そんな事を話し始める。
「え、今時そんなので食っていけるの?」
「それが今は意外と行けるのよ、勘違いした海外の人とかが結構入門してくるの。まあそれはおいといてお爺ちゃんのお父さんの代の2000年頃は流石にやばかったらしくてそれで何か若者に受け入れられるすべはないかと思案した結果」
「結果?」
「漫画とかのフィクション系の技の再現を始めちゃったみたいで……」
「迷走してんな」
「ほんとに藁にもすがる気持ちだったみたい」
「ふーんなるほどなーそれでなんで牙突なの」
「あー、えっとね女の子とかの護身用に一番熱心に教えてたのが突き技だったんだけど、それで一番使えそうだったのがこれなのよ。でもリアルでやってもいまいちだったからこっちだとどうかなって、ね」
微苦笑しながらアイリがそう言う。
「ふーん、しかし突きを熱心に教えるって凄い爺ちゃんだな」
「あーそれはね、通学中とかになにかあっても手にできる武器なんて傘とか棒くらいじゃない、だからその状態で一番効果がある技って言ったら突きなのよね」
「まあそうだな、でもヘタするとやばくないか突きは」
「それはまあそうなんだけど、おじいちゃん的には女の子になにかあるくらいなら相手をどうにかして後から考えようって感じなのよ、まあ私もそう思うんだけどね」
「なるほど、その意見には俺も賛成だな、うちの妹にも合気道やらせたし」
「へー袴かぁ」
「変な妄想するなよ変態」
「妄想くらいいいじゃないのよ」
「隠しもしない」
「妹さんって可愛いの?」
「変態に教えてやる義理はない」
「ってことは可愛いんだ」
「ぐ……ま、まあ身内補正を抜きにしても可愛いと思う」
「ふ~ん、会ってみたいなぁ」
「あいつもこのゲームやってたら会えるかもな」
「一緒に住んでるんじゃないの?」
「言ってなかったっけか、今離れて暮らしてるんだよ」
「ふ~ん、嫌われた?」
「ち、ちがう……と思う」
「まあ嫌われてても良いんじゃない」
「なんでだよ」
「嫌われたからってアンタの想いは変わらないんでしょ? なら良いじゃない」
「確かにそうだな、あいつがそれで幸せならまあいっか」
「あんたほんと変なやつね」
「割とよく言われるけどほんとに好きならそういうもんじゃないか? 俺が嫌われることであいつが幸せならソレでいいよ」
「じゃあ私の幸せのためにこき使ってやるわよ」
「まあお前の幸せは俺的にも幸せそうだし問題無い、主に目の保養的に」
「それじゃあその幸せを掴みやすくするためにもアックスにはせめて動きだけでも格好良くなってもらは無いとね」
「動きだけでもって……」
「文句は言わないじゃあ早速やるわよ、っとその前に一通り使えるスキル見せてもらおうかな」
「なんで?」
「さっきあんたも言ってたじゃないプレイヤーの動きでスキルの威力も変わるってだからスキルの威力を上げれそうなヤツを探してみようかなって思ったんだけど正直どのくらい変わるのかしらね」
「まあレベルが上がって威力も上がれば目に見えて来ると思うしそう言うもんだと思ってやってくか」
「ふふ、そう言う考え方って好きよ」
「惚れるなよ」
「それは無いわ」
「バッサリだ」
「はいはい、いいから始めるわよ取り敢えず初期スキルから見せて」
「おー」
それからしばらくはアックスが繰り出すスキルを見てアイリが「ん~ここをこうしてあそこをこうしたらいいんじゃない?」と言った風にちょこちょこアドバイス的なものを入れつつ色々と試していった。
「んーちょっと休憩にしましょ」
「おー、なんか飲むか?」
「ん、大丈夫自分で持ってるから」
「そう言って自分の四次元ポケットから飲み物らしき小瓶を取り出して飲み始める。
そんなコキュコキュと喉を鳴らすアイリを眺めならがふと思ったことを言って見る。
「なあ、アイリも剣系のスキル取ったらいいんじゃないのか?」
「バカねぇ何かの拍子に使っちゃったら私のイメージが崩れるでしょ」
「いや……見た目がそれだからあんまり変わらないと思うんだけど」
「何それどういう意味よ」
「いや立ち姿とかも凛としててカッコイイと思うんだけど。まあ確かに可愛いというか綺麗っていうのが前面には出てるけどな」
「そ、そう。ありがと」
「それにどっちかって言うとカッコイイ女の子の方が女の子寄ってくるんじゃないのか?」
「……言われてみれば。流石ね、伊達に女の子を常時視姦してないわね」
「そりゃお前のことだろ」
「それは置いておいて」
「否定しろよ」
「あーもうともかく私はこっちではプリーストでいいのよっていうか意外とプリーストも覚えたりすること多いから他の武器スキルまで手が回らないのよ」
「あー、詠唱職は基本暗記だからなぁ確かにきつそうだな」
「聞くところによると上位魔法はモーションも同時にやらないといけないみたいよ」
「マジか」
「まあ暗記は結構得意だしモーションも剣術の型みたいな感じで覚えれば大丈夫とは思うんだけどね」
「ふーん、それって歌手とかはまさに天職だな」
「そうねーでも歌手がこんなゲームやるかしら?」
「わかんないぞ結構業界の人とかって昔っからネットゲーやってるみたいだしな」
「でもそれって普通にモニター越しにやる奴でしょ? このゲームだと顔はそのままなんだから身バレしてゲームどころじゃなくなると思うんだけど」
「まあ確かにそうだな。やるとしたらよっぽど度胸あるか売れてないか、はたまたただのお馬鹿さんかってところだろうな」
「ドジっこアイドル歌手……いいわね」
「まあ確かに可愛いけど……変な事したらリアルで大変なことになりそうだからもしそんな奴がいても自制しろよ」
「はいはい、わかったわよもう。 とにかくそんな感じで他の武器までまだ手が回らないっていうのが現状ね、余裕ができたら考えなくはないけど」
「そっか、まあまだテストが始まったばっかりだしな」
「そうそう最初っから頑張りすぎても後でやることなくなっちゃいそうだしね」
「お楽しみは後にとっておくか」
「ふふふ、ほんと楽しみね」
また何かよからぬ事を考えてるんだろうなぁと思いつつアックスは幸せそうに微笑むアイリを眺めていた。
仕事の暇な時間に書いてるわけですが配信サービスの充実により暇がなくなってしまってこのありさまでございました。
のんびりと書いてはいるので完結?はたぶんするんじゃないかなぁといった次第です。




