くえすと8 そして少女はしにまくる。
「95~96~97~98~99~ひゃっく~よっこらしょ~い」
ざぱ~と湯船から立ち上がる私の体を水が滴り落ちる。その体に……
「髪やっぱりほどくんじゃなかった」
髪の毛がまとわりついていた。
「う~ん、そういえばお母さんはお風呂に入るとき髪をお団子にしてたなぁ洗うときだけもしゃもしゃ洗ってたっけ。あれ? そのあとどうしてた?」
う~ん、と過ぎ去りしお母さんとのお風呂シーンを思い出そうとするが、ナイスバディに目を奪われていた記憶しか出てこない。小学校低学年の私はきっと大人になるとあんな風に成る筈だ! と夢や希望を胸いっぱいに膨らませていたんだけど……いやまだ夢や希望は詰まってるよ? 現実に反映されないだけで……あれか! お父さんの血か! とお父さんのせいにしてみる、うん血筋なら仕方ないね私のせいじゃ無いしね。
「うん、しかたないしかたない」
そう言いながら脱衣所につながるドアを開ける。
「さてとどんなのを選んだかなぁ」
ほほう、こうきたか。それならば答えてやろうその願いに! そう心の中でつぶやきいそいそと装備メニューを開きぽちぽちと……あれ?
「体はタオルで拭けばいいけど、髪の毛どうしよう」
そうなのだ体は拭けばいいのだが髪の毛は先日の学んだようにちょっと拭いただけでは乾かない、つまりこのまま着てしまうと髪の毛の水分で浴衣がビショビショになってしまう。ふむ、どうしたものやら、と辺りを見回す、と。
「なんだこれ?」
『髪はこれで乾かせ』と張り紙が付いた不思議な物体が置いてあった。
「巻物? というかどうやって乾かすんだ? 何々この巻物もって“ふぁいやー”と唱え、ぎょわあああああああ」
巻物を持ったまま説明を読んでいたら唐突に巻物から火が立ち上る、というか体を包んだ。かと思ったら一瞬にして火が消える。そして巻物も消える。
「なんだったんだいまの、あれ? 乾いてる体も髪も」
なんとなく釈然としないがとりあえずいそいそと装備メニューをいじる。浴衣の下ってはかないんだっけ? まあどうせアックスだけだしはかないでいいか、ぽちぽちっとそんで髪型をぽちっと。
「これでよしっと」
くるっと鏡の前で回ってみる……我ながらすばらしいな! くっくっくと笑ってる姿はどう見ても悪の女幹部のダークエルフだけどな。まあそれは置いといていざ決戦の場へ!
「ご期待に答え私参上っ!」
ばーん! とドアを開け放ちアックスを発見するや。
「さいしょっからクライマックスだZE!」
と可愛いポーズをとってみる。
「おーかわいいかわいい……けど何故ツインテール?」
「え? あんたがこの青色系の浴衣を選んだからじゃない?」
「それでなんでツインテール?」
「え? ルリルリじゃないの?」
「あ~でもルリルリって浴衣着てた時でっかいお団子って言うか纏めてる感じかストレートだぜ? ってかホントお前何でも見てるな」
「っは! そういわれると……くそうハーリィくんが可愛すぎてあんまり髪まで見てなかった!」
ガガーンとショックを受けてがくりと膝をつくと二本の尻尾が視界の両サイドから床にたれてくる、なんか面白いなコレなどと変な思考にとらわれそのまま体を揺らしてみたりして髪の毛で遊んでいる私に。
「お前は何をやってるんだ」
という声が上から降ってきた。
「へ?」
と這いつくばって遊んでる体勢から上を向いてみる、凄いあきれた顔のアックスさんがいらっしゃった。
「えっと……床掃除?」
「汚れねーよ」
「お風呂上りの運動?」
「どんな運動だそれ……」
「もうっ別にいいでしょ!」
ごまかし気味に強く言いながら勢い良く立ち上がった私は。
「そういえばなんか脱衣所に巻物見たいのがあったけど何あれ?」
と上目遣いに聞いた私の顔をいろんな角度からじーっと見ながらアックスは。
「あ~あれは【スクロール】って言って簡単な魔法がこめられてるんだよ」
「ふ~ん、てかあんなのあるなら昨日使いなさいよ」
「いや昨日はお前がこんなだとは思わなかったからあれ使うのはどうかなと思ったんだよ」
ふむ、確かにお嬢様モードの私にあんな物を渡す勇気は私にもないな……まあそれはいいとして。
「あんたさっきから何じろじろ見てんのよ」
しかめっ面でそういって見た。
「やっぱりツインテールはしかめっ面が良く似合うな」
なにやら褒められた。
「むぅ」
「何ぶーたれてんだよ可愛いって言ってんだから喜べよ」
ぽむぽむと頭を撫でながらそういってくる。そういや幼稚園くらいのときはお父さんも良く頭撫でてくれたなぁとしんみりしてると。
「んじゃ寝るか、お前あっちの部屋な」
と言われる。
「あっちの部屋?」
視線を向けたらお風呂に入る前まで何もなかった場所にドアができていた。便利だなおい。
「んじゃお休みリリィ」
「あ、うんお休みアックス」
軽く手を上げ寝室のドアをくぐるアックスに私も手を上げつつ挨拶する。おおう、お父さん以外の男の人におやすみ言ったの初めてじゃないか私! と内心どきどきしつつ私の寝室らしい部屋のドアをくぐる。
「おお?」
部屋に入ってみるとなにやらアックスの寝室とは異なり若干ファンシーなつくりになっていた、何がどう違うのかはハッキリとしないがなんとなく。
「丸いのかな?」
と、はてなエモを出しつつ辺りを見てみる、丸いというか角がないというかそんな感じだ。
「ほんと変なとこは細かいなぁ」
部屋の中を一通り観察し終わりさて寝るかとベットに入り込む。
「電気はどうやって消すんだろ?」
新たに立ちはだかる難問をそうだアックス先生に聞いてみようと思ったところでシステムメッセージがポコンと現れる。
『部屋の明るさ調整』
便利だなほんとに、目の前に表示されるバーを動かしてみると部屋の明かりがだんだんと暗くなる。真っ暗なのが好きな私だけど薄闇に見える木の質感が気に入り少し明かりを残して眠りにつこうとセットボタンを押す。
今日はいろんなことがあったなぁ……明日はどんなことがあるかなぁとぼんやり考えているうちに意識が途切れていく。
「ぉ…ぃ…お~い」
誰かが呼んでる…
「りりぃ~ぶる~むさ~ん」
誰かを呼んでいる。
「もしも~しおひるですよ~」
うるさいなぁ今日からゴールデンなウィークなんだから別にいいでしょう……
「しかし何でコイツはこんなに寝相悪いんだ? この世界でこんなに寝相悪いの見たこと無いぞ?……そもそも人が寝てるのあんまり見たこと無いけど」
む~ほんとにうるさいなぁだれだよこの男は~。
「まあいいか昼飯でも食いながら待ってよう」
何かが部屋から出ていく音がするなんか言ってたな、ひるめし……ごは、ん?
「むぅ、おなかすいた」
うっすらと目を開ける、窓から優しい陽の光が差し込んでいるすごく快適な目覚めだ……が。
「うにゃ? どこここ~」
頭をわしわし掻きつつあたりを見回す。見たことがない場所だ……というかログハウスなんて行ったことがない。む~と考えるが思考が追いつかない。私の朝はすろ~すた~っとなのだ……
「おなかすいた……」
取り敢えずお腹が空いてるのでなにも考えずに唯一存在するドアを開ける。そこには暖炉の前のテーブルに一人座り何やら美味しそうなものを食べる一人のおっさん……おにいさん?
「わたしのごはんは? それとおかあさんは?……あとあんた誰?」
タオルケットを引きずりながら半眼でそう問いかけた私に対する答えは……
「いやああああああああああああ、はいてないいいいいいいっ! おまえはなにをやってるんだああああ! ちゃんと服を着てこいいいいい!」
悲鳴だった、ふく?なんだろなと思い目線を自分の体へと持っていく……意識が、急速に、覚醒する。
「にょわああああああああああああ、なんだこのかっこおおおおおおおおおおお」
浴衣の帯がずり落ちかけ胸の谷間と足のつけ根部分があらわに成りかけているが、かろうじて大事な部分は引っかかっていて見えてはいない。
「みるなあああああああああああああああ!」
叫びながら私はもうダッシュでいま出てきたドアの中に戻りズバン! とドアを閉め。
「ぜはーぜはー、いったい何が……何で私はこんな格好ってかアレはだれ……あれは、あーアックスだ」
ぱふっと手を打ち合わせる、完全に脳が覚醒する。ここはFQOの中で昨日は露天風呂に入ってそのままこっちで寝たんだったそうだそうだ思い出した。
「んじゃごはんごはんっと」
そのままガチャリと再度ドアを開ける。
「おっはよーあっくすーいい朝……昼だね~私のご飯はまだかなー?」
「いやあああああ何でまた同じ格好で出てくるのぉぉぉぉ」
お? おおう忘れてた忘れてた、ん~と現在の恰好を見てみる。まあ、きわどいけど見えてはいないしこれだと水着のほうがまだヤバイくらいだ。だがアックスには目の毒なのだろう仕方ないなぁといそいそと佇まいをなおす。
「コレでどう?」
そう問いかけると。横目でちらっと確認した後に。
「こほん、まったくお前はどういう親にしつけられたんだよまったく」
「え? なにウチに遊びに来たいの? んじゃ週末にでも来る?」
わーい、お友達がおうちに来るの久しぶりだなぁ皆何故か着たがらないんだよなぁ何でだろ?
「いやちょっとまて何がどうしてそうなった」
「とりあえずご飯まだー?」
「え? あ、ちょっとまってろ」
そう言うとあれ? とか首をかしげつつ席をたって私の分のご飯を宝箱のようなアイテムボックスに取りに行く。
「洋風と和風と中華あるけどどれがいい?」
「ん~洋風で~」
「おー」
そう答えるとアイテムボックスの中から何かを取り出しこっちに戻ってくる。
「ほらよ、器用度10UPボーナス付きピザお待ち」
コトンと置かれた皿には熱々のピザが乗っていた。普通に美味しそうである。
「何これ凄い。コレもアイテムなの?」
「そうそう料理アイテム、料理スキルを習得してるプレイヤーやNPCが売ってるやつ、食堂とかで食べるのよりかは味は若干落ちるけどな」
ほうほうと説明を聞きながら、「いただきます」と手を合わせもふもふと食べ始める。
「おお美味しいな」
意外と美味しかった。夢中になってもぎゅもぎゅ食べていると。
「そう言えばお前ってクリスチャンじゃないの?」
などと問うてきた、もぎゅもぎゅごくんと飲み込みピザと一緒に置かれた白い白濁の液体の匂いをかぎミルクっぽい物だと判断しごきゅごきゅ飲んだ後に。
「いや根っからの……何教なんだっけわたし?」
そう問いかけてみた。
「いや知らんがな、でもお前の学校ってたしか」
「あー学校は確かにカトリックだけど生徒が必ずしもそうとは限らないよ」
「そなのか」
「そうなのさ」
ふ、っと遠くを見つめてみる……
「まあいいけど今日はどうする? ココらへん見て回るか? それとも進む?」
「んー取り敢えず一回ちゃんと死んでみる、じゃないとダメな気がするんだ」
「そか、強いなお前」
「ふ、褒めないでよ照れるじゃ無い」
「訂正、神経図太いなさすがは変態、あ! お前アレかマゾか! 昨日ので目覚めちゃったのか!」
「腕切り落とされて喜ぶってどんだけやねん!」
ずがしゃーと私のツッコミがアックスを襲う。うぎょーと言いながらリアクションを取るアックスを見ながらコイツがいれば……うん、きっと大丈夫。
ご飯を食べて装備を整えた私たちは小屋の周りで早速狩り、もとい私の死に場所を探し始める。
「お、あいつならどうだ見慣れてるし」
何やら指をさしつつ私にお勧めの死に場所を提示してくる。
「お花さんかぁ、えーとなになに〈Lv10レイク・フラワー〉確かにレベル的にもいい感じに殺してくれそうね。でもさ、あのウネってる茎は何かな?」
「植物の敵とくれば触手攻撃は男のろま「お前が死んでこいいいいいい!」えーでもー誰かさんはー腕とか切られたらぁパニクっちゃうしー絞め殺されたり毒液でじわじわ死ぬのなら大丈夫かなってー思ってーちゃんと考えたのにーあーあー」
なにやら酷く癪に障る言い方だがたしかに絞め殺されるのならば痛みもないわけだしさくっと綺麗に死ねるのかな? と思う……ううむ。
「し、仕方ないわね今日のところはおとなしくあんたの変態趣味に付き合ってあげるわ!」
「ツンデレきたー」
はぁ、と若干のめまいを感じつつも殺されにお花さんへと元に戻ったポニテを揺らしながら近づいていく。うぅ近くで見ると意外とキモいなやっぱり。うねうねとうねりながら手足のように葉っぱのついた茎をわさわさ動かす〈Lv10レイク・フラワー〉さん。
「女は度胸! てりゃぁ」
掛け声一発お花さんの攻撃範囲に飛び込む、それとほぼ同時にお花さんの顔というか花の部分が大きくのけぞりゴボァっ! と言う効果音とともに紫色の液体を私めがけて吐き出す。
「うにょわぁ、なにこれなにこれ!」
慌てふためきアックスを振り返ると何故かすぐそばに来ていたアックスが。
「あぁそれは毒液だよ三秒毎にドットダメージが三十秒間続く、って後ろくるぞー」
「ほうほうほうって何がっ!」
解説をふむふむと聞いていた私はとっさに振り向く、そこに見えたのはまさしく茎というか蔦というか触手だった。
「にょわあああああああああきもちわるいいいいいい感覚がないからまだいいけどコレはきもいいいいい」
見事に蔦に絡まれまくって縛り上げられる私、コレは気持ち悪い、縛られて痛いとかはなく何というか金縛りというか動きが取れないという感じだ。
「おおう、やはり俺の見立ては間違いなかったっ! これはエロいっっ!」
「やっぱりそれかああああああこの変態めええええええ」
「だがやっぱり胸がなぁ」
「なんだろうなぜか悲しいよおおおおおおおお」
必死にすくりーんしょっとを撮っているだろうアックスを睨みつつも何故かちょっと悲しい私はなんなんだろうなぁ、と減りゆくHPバーを見つめながら思う十六歳の春、皆さんはどうお過ごしですか? 私はもう少しで死にます。
などと自生のポエムを書き始めるところでHPバーが真っ黒になる、それと同時にふっと力が入らなくなる体、そして次第に鮮明度を無くしバシャンと光の粒子になって消えた……そして空中からお花さんを眺める私が居た。
「おおう? なんだこれ?」
「おーいそこら辺に居るよなー」
とアックスが若干違う場所を見ながら私に声をかける、それに返事をしようとしたところで。
「そっちの声聞こえないから返事しなくていいぞーだからって変なこと言うと後でぶん殴るぞーわかったかーこの変態ー」
「お前が変態言うなこの変態!」
「んじゃ視線の上の方に『セーブポイントに戻りますか?』ってあるだろそれは押すなよ? 押しちゃうと最後に立ち寄った街や村の教会で復活しちゃうからな、とりあえずそれをキャンセルしろ」
「ほうほう、きゃんせるきゃんせるっとぽちっとな」
キャンセルボタンを押して見る。さてどうすればとアックスを見るとタイミングを測ったのか丁度喋り出す。
「んじゃ起こすぞーっと」
そう言うと何やら卵サイズのクリスタルを私の墓標のようにふよふよ浮かんで回っているマーカーに向かって投げつける。パキーンと綺麗な音共に何か魔法的なものが発動したようでマーカーを中心に魔方陣が展開され虚空に光の粒子が集まり姿を成す。あれは私? という疑問と同時にふっと暗転したかと思うと目の前にはアックスが居た。
「よっ! おかえり~そしてごめん、わざとじゃないんだ」
なんとも良くわからない挨拶をされた。
「え? どうかしむぎょ!!」
どうしたのと聞こうとしたその口が塞がれる、後から伸びてきた蔦に。
「あほでおほえでおびょ~~~!」
そう叫びながら私は少しだけしか回復していなかったヒットポイントをまた刈り取られ……搾り取られ? 光の粒子となって消えていく。
「ふう、眼福眼福♪」
などとのたまう相棒らしき変態を睨みつけるがこっちが見えてないので反応はない。こいつは絶対泣かす! と心に近いアックスがお花さんを一撃のもとに屠ったのを確認し、また復活してもらう。
「今のがリザキルと言ってだな高等なモンスタープレイヤーキル略してMPKだからやってはいけないぞ! ってことをだなその……教えようとだな、ほんとごめんなさい」
復活して何やら語り始めた変態をジトォ~~~~~とした目で見つめ続けると何やら謝り出した。
「このスクショあげるからさぁ機嫌直してくれよ、コレは凄いぜまさにファンタジー世界には必須といっていい絵面だね」
などと言いつつ私宛のメールを打ち終わったのか顔を上げてきた。だが私はまだジト~とした目で見つめている、ソコにぽこんっとメール着信のお知らせが現れる、無言でそれを叩くようにタップする。展開される画像、ソコには毒液を頭から被り体を締め付けられた私“もちろんパンチラ”が映っていた。
「つまりコレを添付してセクハラされたと通報すればいいのね」
笑顔でそういう私の前に変態がひれ伏していた。
「おっかしいなぁファンタジーならああいうシチュエーションは大事だと思うんだけどなぁ」
などとアホな事を言っている変態を後ろに率いて湖の周りを探検する事数時間ゴブリンなどにも遭遇し良い感じに殺されてバリエーション豊かな数々の死に方を晒した私はだいぶ慣れてきた。まあ未だにお腹に剣が刺さってたり首をはね飛ばされたりするのはちょっとヤダけどこういう物だと思ってなんとか耐えれるようになったのだが。
「あんたは何時までその事をグチグチ言ってるのよもう」
変態は未だに触手プレイの何がいけないのかがわかってないようだった。なんだろうコイツに彼女がいないのはそこら辺が問題なんじゃないのか? ほんとに私も一緒にいて大丈夫か? などと少し身の危険を感じ始めたが。まあコイツに限って変な気は起こさないだろうなと信じちゃってる私を信じてみる事にする。
「今日はこの辺で帰ろっか」
それを聞いたアックスはブツブツ言って俯いていた顔を上げ。
「そだな~帰るか~。そういやお前何時までログインしてるんだ?」
と聞き返される。
「えっと~現実の7時くらいまでかな」
「てことはこっちだと明日の朝くらいまでか。ふむ、そんじゃさこのまま次の小屋を目指さないか?」
「え、今から?」
「そそ、夜間戦闘もちょこっとはやっとかないとな、それに次の小屋はそこまで遠くないし」
う~む、そう言われると断る術はないな。
「じゃぁ行ってみよっか」
「おう! んじゃ山に入る前まではサクサクっとコイツで行こう」
そう言いクエスト中なのでずっとついて来ていたお馬さんを指さす。
「よろしくシルバー」
「いやシルバーじゃねーし」
「あんたが言ったんでしょ」
「そうでした」
いつも道理の言葉の応酬をしつつお馬さんに跨る、我ながら慣れたものである。
「しくしく、もう見える気配すらない、しくしく」
何やら泣きながらアックスもま跨ってくる。今度チラッと見せてあげるかな、でもそれだと「故意のパンチラなどもはやパンチラではない!」とか言い出しそうだしな。メンドクサイ奴だなぁとため息を吐いていると。
「いっくぞー」
ペシ! っと手綱を操作する音が聞こえる。
「おーまだ見ぬ森の奥へー!」
ぱっかぱっかという軽快な音を立てつつ走り出すお馬さんの背中の上でこれからの冒険へと思いを馳せた。
「ふぇぇぇ冷たいよう寒いようグチュグチュするよう」
お馬さんが軽快に走りだして二十分あまり私たちは豪雨のぬかるみの中をギュポギュポっと歩いていた。
「いいから前向いて歩け」
「でもぉ足元がグチュグチュして気持ち悪いよぅ」
「いつかそのグチュグチュが気持ちよくなるから」
「なーらーなーいーぜったいにーなーらーなーいー」
もう突っ込むのさえメンドクサイので適当に流す私に。
「はぁ、わかったよおぶってやるからほら」
そう言ってアックスは私に背中を向けしゃがみ込む、その背中を見つめ、固まる……おんぶ、おんぶ……コレは! 乙女チックなイベントの上位ランカーのアノおんぶイベントかっ! 相手がアレだけど! しかもゲームの中だけど! よし私は今まさに一歩乙女に近づくのだっ! そう意気込みアックスの背中に近づき首に手をまわ……あれ?
「どうやるんだっけ?」
「え、どう殺る? っは! まさか俺を殺る気か!!」
がばっと私の方を振り向くアックスになんとも言えない表情を返す。
「あれ? 違うの?」
こくこくと頷く私。
「何がわからないの?」
何故かすごく優しく声をかけられる私。
「小さい頃にお父さんにおんぶしてもらって以来おんぶとかしてもらったこと無いからどうすれば良いのかわからないの」
「おーそうかそうか取り敢えず肩幅に足を開いて俺の首に腕を回せ、良いか絶対にきつくするなよ」
「……フリ?」
「違う」
「わかった」
「それではお嬢様どうぞ」
再び私の前にしゃがみこむアックスの首に腕を回す、そして背中に体重をかけるとアックスが私の足を抱え込みつつ立ち上がる。
「よっと、どうだ? きつかったら自分で少し動いて調整しろよ」
そう言って歩き出すアックスのモサモサの髪の毛に顔をうずめながらなんだか懐かしい感覚にとらわれる……私の家には昔おっきな犬がいた毛むくじゃらでこんな感じのモサモサ感だった。あのモサモサした体を抱いているのがとても好きだった気がする。でももう居ない……私が上に乗ってはしゃいだり、悪のケルベロス対勇者様などをやっていたらそれに嫌気が差したのかお散歩途中に猛ダッシュで公園の彼方に消えていった。
「あいつ元気かな……」
思わず出た言葉に。
「ん、どいつのことだ?」
前を向いたままのアックスが反応した。
「昔仲の良かった友達が突然居なくなっちゃったの」
「そっかその子の事好きだったのか?」
「好きっていうか家族みたいに思ってた」
「ほうほう、それはそれは深い仲で」
「やっぱりオリハルコンの剣に見立てた木の棒で叩いたのがダメだったのかなぁ」
「おいまて、お前は一体何をやってたんだ」
「え、勇者様対ケルベロス?」
「ケルベロスって……犬か?」
「犬よ?」
「さいですか」
「何と思ったのよ」
「でも何で突然そんな事思い出したんだ」
「ん~アックスの髪の毛のモサモサ感が似てるの」
「それはそれは光栄の極みでございます」
「うん……くるしゅうないぞ」
「しかしお嬢様もう少しお胸があると更に嬉しいのですがこうむにゅっと感があんまり感じられず……あれ?」
何かアックスが言っている……
「むぃ、むねが、どうし、むにゅぅ……す~す~」
「寝ちゃったか。まあいっか、それではゆっくり姫様のむにゅっと感を堪能……できないんだよなぁあんまり」
何かまだ聞こえた気もするが既に私は夢のなか……だったのかな。
ボガン! という素敵な爆発音でさわやかに目を覚ました私の目の前には。
「ここは誰私はドコ?」
何もなかったというか落ちていたぁあああああああああああああああ。
「なんだこれえええええええええええええ!」
「おーらい、おーらいおーへっくしょい!」
ぐしゃっ!
「ふぎゃっ!」
「ぁ……」
そのまま地面に叩きつけられた私を上から覗き込みつつ。
「あーごめんファイヤーがちょうど切れちゃってさぁ俺のスキルでも一応瞬間的には火属性の効果があるから乾くかなぁと思ったんだけどお前軽すぎてちょっと飛んじゃった♪」
「飛んじゃった♪ は良いからちゃんと受け止めてよね……なんかヒットポイント減ってるんですけど」
私は地面に大の字に横になったままそんな愚痴をこぼす。悪い悪いといいながら赤い液体の入ったビンを手渡される。
「テッテレー【レッドポーション~!】さぁコレをぐびっと」
むす~と体を起こした私はとりあえず匂いをかぐ。
「む、これは!パイナップルジュース?」
「あ~確かに似てるな」
毎度のことながら色と匂いと味が合って無さ過ぎである。まあ良いやとごきゅごきゅ飲み干す……味はマスカットだった。あっさりと回復したヒットポイントゲージを眺めつつ。
「で、ここはドコなの? っていうか雨やんでるね」
そう、アレだけの豪雨がからっと晴天、空にはお星様が輝いていた。
「アレから四~五時間経ったからな、そんでここはリアルで言ったら阿蘇の外輪山の南の端、俗に言う南阿蘇だな」
との説明に記憶の片隅にある知識を呼び起こしつつ。
「あ~水源がある所らへん?」
何となく思い出した事を言ってみる。
「そう、そこらへん」
ふ~ん、と辺りを見回す、阿蘇には何度か家族旅行で行ったことがあったがさすがに見たことある風景ってわけには行かなかった。
「てかさ四~五時間もおんぶしっ放しで疲れないの?」
おんぶされてた事はこの際置いといて聞いてみた。
「ん? お前くらいの重さなら装備の重さとか回復財の重さとかの方がはるかに重いよ」
「そっか、ならよかった」
「まあ、それにむにゅむにゅしてて気持ちよかったしな」
こいつはほんとに一言余計だよなぁと思ったがおんぶしてもらった挙句に爆睡していた身としては何もいえない。逆にその程度でよければって感じだ。いちいち言わなきゃいいのになホント。そう思いつつ呆れた顔でアックスを眺めていると何を勘違いしたのか。
「べ、別にやましい事はしていないぞ!」
ホントに残念なヤツだな。
あれ? そう言えば。
「木が全然ないけど、森は抜けたの?」
そう周りにはまばらにしか木が見えなくなっている。
「あぁもう森は抜けたよ、後はこれを越えたらカルデラだ」
「コレってどれ?」
アレだよ、という様にアックスが指をさした先には素敵な山? がそびえて居た。
「何これふざけてるの?」
「リアルでは観光道路が在るからそうでもないけどこっちだと結構ヤバイよなー」
ヤバイとかそういうレベルなのかこれ?
「なんか無駄におっきいと言うか広いと言うかどうなってるのこの山?」
なんか山と言うよりあんまり尖ってないせいもあって壁の様な気もする。
「んー遠くからみるとなんとなくわかるんだけど、ずーーーと昔はこの上にもまだ山が乗っかってたんだよ」
あっ!
「ひょっとしてこれが阿蘇山?」
「ご名答、流石に九州に住んでるだけあって知ってるな、細かく言えば一つ一つ尖ってるのにナンチャラ岳とか付いてるんだけど元々は馬鹿でっかい一個の山だ。これを越えると世界最大のカルデラ大地だ、リアルも凄い景色だけどコッチも凄いぜなんせ人工物が殆ど無いからな。しかもさっきの雨のお陰で確実に雲海が出る設定になる筈だ全くお前はついてるよ」
「やけに詳しいね? あ、そっか熊本に住んでるんだっけ?」
「それもあるけど、バイク乗りにとって阿蘇は聖地の一つだからな」
へー、と昔の家族旅行を思い出すと確かにバイクがいっぱい走ってたなぁなどと思い出し……うんかいって何だ?
「ハイ先生うんかいって何でしょう」
「見ればわかる。だからがんばれ」
え、何を頑張るの?
「夜明けまでにこれを登り切るぞ! 一番良いのは大観峰の辺りまで行ければ良いんだけど流石にそれは無理だろうからな」
何やら言ってる馬鹿を放っておき前方にそびえる険しい斜面を見る……既にくじけそう、はぁっと躊躇いを一息で吐き。
「それは綺麗なのね?」
チラッと横目で確認をとる。
「さぁな」
おどけて答えるアックスの目は、自分で答えれば? だ。はぁ~、今度は覚悟の溜息を吐く。
「よしっ! がんばる!」
勢い良く一歩を踏み出した。直後振り返り。
「ダメそうな時はまたおぶって行ってっ!」
念には念を押して見た。
「用意周到と言うか何と言うか検討しとくよ」
と言う言葉に後押しされ後先考えずに山を駆け登り始めた。




