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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編
26/48

捜査開始③


 その時、ガーウィンが投げた剣が正確に刺客の利き腕を貫いた。


 刺客がよろめいているところに、ガーウィンがクリスティーナを床に押し倒す。


「痛いわよ!」


 硬い背中が足を踏みつぶしている。まだ、心臓は恐怖のためバクバク打っている。突き飛ばされたところがひりひりと熱い。


「おまえは例え、化け物であっても一応俺の妻となる奴だ」


 しかし、ガーウィンの目は刺客に向いたまま、クリスティーナに向いてはいなかった。相手が立ち上がり、新しい刃物を取り出した時、敏捷に体を起こす。


「武器となる物はないか?」


 クリスティーナはまごつきながら手に持っていた火掻き棒を渡す。それを一瞥したガーウィンはふと笑みを漏らす。その笑顔は一瞬だったが、しかめ面が印象に多いためクリスティーナには新鮮であった。


 鉄と鉄の不協和音が鳴り響き、生死をかけた戦いが始まる。


――すごい


 初めて見るガーウィンの姿だ。見たことのない躍動感の中で動いている。


 ガーウィンは確かな動きで刺客の手から短剣を叩き落とす。


 その時、向こうでティボルトがもう一人のとどめを刺す。それを見たガーウィンは短剣を拾おうとした刺客の鳩尾に火掻き棒を叩きつける。


「うっ!」


 短い悲鳴を上げて、刺客は倒れ込んだ。ガーウィンは休む間もなく近くにある布を二重に重ねて手と足を縛り上げた。


 再び執務室に静寂が戻る。机に積み上げられていた目録はバラバラとなり、床に散らばっている状況だ。ティボルトが刺さっていた剣を抜くと、新たにあふれ出した血が絨毯を汚した。


 クリスティーナが呆然とそれらを見ていると、ガーウィンが顔をしかめたままやってきた。


「どうした。腰が抜けたか?」

「いいえ、そうじゃないわ」


 けれど、足は動かない。


「手を肩に回せ」


 クリスティーナは顔をしかめたが、ガーウィンの手を借り立ち上がった。足が痛い。ガーウィンに倒されたときにひねったらしい。歩こうとすると、ぐらりと視界が揺れた。


「ほら、肩に捕まれ」

「腰が抜けたわけじゃないわ」

「歩けないんだろう。さっきはいきなり突き飛ばしてすまなかったな」


 無言で手を回すと触れている皮膚から直に熱い鼓動が感じられた。本の中では何度も読んだことのある表現だが。現実には初めてだった。


――む


 チラリと上を見れば、短い金茶の髪がかかっている首筋が木の幹のようにすっと伸びている。女にはない身体の直線だ。未だ波打っているしなやかな筋肉で覆われている身体はもたれてもびくともしないだろう。


――ガーウィンのくせに


 ちょっと格好いい。


 ガーウィンは、実際クリスティーナが挙げているロマンスの相手の条件を半分ほどしか満たしていない。その上、チキンで、人のことを化け物扱いして、とりわけ山羊面なのに。


 なのに、たまに見せる無愛想の中の強引さと優しさがなぜか鼓動を早くする。


「ん?」


 椅子に下ろそうとした際、クリスティーナの視線に気が付いたのかガーウィンが振り返る。


「どうした?」


 まっすぐな眉から覗くヘーゼル色の瞳には国王に相応しい硬い意志が宿っている。そこにクリスティーナが望んでいる甘さはない。けれどもその愚直な程に真面目な光はクリスティーナの心を離さない。


――本当、ガーウィンのくせに!


 精悍な目に見つめられて頬に熱が集まってくるのを感じる。


 けれども目を逸らせば負けだと思い、ガーウィンが未だ持っている火掻き棒に目を移す。


――そうよ、火掻き棒なんか持っているから格好いいなんて思うのよ!


 クリスティーナの異変に気が付いたのか、なぜかガーウィンは顔を引きつらせ、火掻き棒とクリスティーナを見比べる。


「…おまえ、また変な妄想とかしていないだろうな? ――火掻き棒を使った新手の技とか」

「…何よ、それ!」


 日頃の行いが悪いとこうなる。


 ガーウィンは、クリスティーナが見た火掻き棒が気持ち悪い物のように手放した。


「俺は、これから数日間は火掻き棒を見たくない」

「どういう事よ!」


 いきり立とうとしても足をひねったせいか立ち上がれない。


「ガーウィン、今、別の王兵達が来る」

「ああ、クリスティーナが足をひねったようだ。医務室に運ばせよう。とりあえず、火掻き棒を使った新手の技を考えつくようだから頭の方は大丈夫なようだが」

「だから、新たな技ってどういう事よ!」


 クリスティーナは声を挙げて抗議したが、ティボルトもガーウィンと同じように可哀想な目でクリスティーナを見た。


 しばらく無言で貿易目録や刺客達の身体を片づけているガーウィン達にわめき続けたが、最後の最後まで可哀想な視線で見守られ続けたのであった。


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