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 昼休みの遠くのざわめきの上に、カン、と金属の鳴る音が響いた。先輩が校舎のドア枠を踏んだ音だった。音で振り向き姿をみとめて、郁はぽかんと口を開ける。

 先輩は郁に目を向けたまま大きく息をついだ。

 朝美は先輩が来るのをわかっていたかのように、少しも驚く様子なく郁から手を離してゆっくり近付いた。あと数歩のところで一旦立ち止まる。どう声をかけようかとためらっている先輩に、朝美は前置きせず無遠慮に聞いた。

「一昨日のあたしたちの話、部室の中まで聞こえてました?」

「あ……ああ。うん」

 とまどいながら先輩が答えると、朝美は肩越しに郁を振り返った。

「だってさ。あとは一人で大丈夫よね?」

 郁は感謝の笑みを浮かべてうなずいた。先輩の脇を抜けて朝美は校舎に入っていく。先輩は朝美を少し振り返りながら郁の前まで来た。一人で向き合うと、郁は緊張に強張った。すくんでしまって顔が上げられなくなる。

「その……さっきはごめん」

 遠慮がちな声が降ってきた。ちらりと見あげた先輩はすごく反省したふうにしょんぼりしている。

朝美の言ったように先輩はいい人だ。悪いことをすればちゃんと謝ってくれる、子供みたいに素直な人。記事から受けた印象そのままに。

 でも郁は思う。

 謝らなくてはならないのは自分の方だ。聞こえてないと考えて、先輩が悪いと言ってる訳じゃないから、それでいい気になって好き放題言った。誰だって理由が何であれ、近付きたくないと言われれば傷つくのに。

 郁はいきおいよく頭を下げた。

「わたしの方こそごめんなさい!」



おしまい

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