名前を呼ぶ日
第19話は、“名前をつけること”をテーマに描きました。
今回は、
* 名前を考える時間
* 出生届を出す瞬間
* 「家族になった」実感
を中心に描いています。
名前は、
これからずっと呼び続けるもの。
だからこそ、
奈々と悠斗らしい、
優しくて安心できる響きを意識しました。
小さな家族が、“悠真”として歩き始める瞬間を楽しんでもらえたら嬉しいです。
冬の午後。
病室には、柔らかい陽射しが差し込んでいた。
奈々はベッドへ座りながら、小さな男の子を見つめる。
「……まだ不思議。」
悠斗も隣で苦笑いした。
「ぼくも。」
赤ちゃんが生まれて数日。
少しずつ、
“家族が三人になった”
実感が増えてきていた。
⸻
その時。
美咲が椅子へ座りながら、小さく笑う。
「で、名前は決まったの?」
奈々と悠斗が同時に止まる。
数秒の沈黙。
そして奈々が吹き出した。
「……まだ。」
美咲も思わず笑う。
「えぇ!?」
悠斗は苦笑いしながら頭をかく。
「候補はあるんだけど……。」
⸻
テーブルの上には、名前候補を書いたメモ。
奈々はそれを見ながら、小さく息を吐く。
「ずっと呼ぶ名前だもんね。」
「うん。」
悠斗も静かに頷く。
安心できる名前。
優しい響き。
二人はかなり真剣に考えていた。
⸻
奈々は赤ちゃんへそっと触れながら、小さく笑う。
「この子、すごい穏やかな顔してる。」
悠斗も小さく笑った。
「奈々ちゃん抱っこしてると安心してる。」
奈々は少し照れながら笑う。
「……悠斗くんもでしょ。」
その時。
赤ちゃんが小さく声を出す。
三人とも一瞬でそっちを見る。
その空気がおかしくて、美咲が吹き出した。
「もう完全に親。」
⸻
しばらくして。
奈々が小さく呟く。
「……悠真、とかどうかな。」
悠斗がゆっくり顔を上げる。
「悠真?」
奈々は少し照れながら頷いた。
「“悠”は悠斗くんから。」
「“真”は、まっすぐ優しい子になってほしいなって。」
部屋が少し静かになる。
悠斗は数秒黙ったあと、かなり優しい顔で笑った。
「……いい名前。」
奈々も少し安心したように笑う。
美咲も大きく頷いた。
「うん、すごい二人っぽい。」
⸻
その夜。
病室は静かな空気に包まれていた。
奈々は小さな赤ちゃんを抱きながら、そっと呼ぶ。
「……悠真。」
赤ちゃんは小さく動く。
奈々は少し笑った。
「反応した。」
悠斗も吹き出す。
「偶然でしょ。」
でも、その名前を呼ぶだけで、
少しずつ実感が増えていく。
“この子は家族なんだ”
と。
⸻
翌日。
市役所。
悠斗は少し緊張した顔で、出生届を持っていた。
奈々は隣で苦笑いする。
「悠斗くん顔固い。」
「だって緊張する。」
「そこ緊張するんだ。」
奈々が吹き出す。
でも、その空気がかなり二人らしかった。
⸻
受付。
出生届を渡す瞬間。
悠斗は少しだけ深呼吸する。
そして、静かに書類を差し出した。
“悠真”
という名前が、そこに書かれている。
受付の人が微笑む。
「おめでとうございます。」
その言葉に、奈々と悠斗は顔を見合わせる。
奈々は小さく笑った。
「……ほんとに家族になった感じする。」
悠斗も静かに頷く。
「うん。」
⸻
帰り道。
冬の空気は冷たい。
でも、奈々はかなり暖かい気持ちだった。
悠斗は小さく笑う。
「悠真、どんな子になるかな。」
奈々も優しく笑った。
「きっと安心して寝る子。」
悠斗が吹き出す。
「奈々ちゃんの遺伝。」
「ひどい。」
二人は笑い合う。
その空気は、昔から変わらない。
安心できる空気。
帰れる場所。
そして今は、
その真ん中に、
小さな“悠真”がいる。
⸻
夜。
病室へ戻ると、悠真は小さな寝息を立てていた。
奈々はその寝顔を見ながら、小さく呟く。
「……おかえり、悠真。」
悠斗も静かに笑った。
小さな男の子。
新しい名前。
新しい家族。
三人の“帰り道”は、
これからまた、
ゆっくり続いていく。
第19話「名前を呼ぶ日」を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、
“家族になる”
から、
“家族として生き始める”
へ変わる瞬間を描きました。
特に今回は、
出生届を出すシーンを大切にしています。
紙一枚かもしれない。
でも、
その名前が、
これからずっと人生に寄り添っていく。
そう考えると、
かなり大きな瞬間です。
また、
「悠真」という名前には、
悠斗の“悠”と、
二人の願いを込めています。
これから悠真が、
どんな「帰り道」を歩いていくのか。
またゆっくり描いていけたら嬉しいです。




