第10話 後編
俺とハチ、それに上位ランクのハンターが積極的にヘイトを集めることで、犠牲者を出すことなく恐竜を討伐していく。
恐竜はかなりのパワーとタフネスを有していたが、太刀打ちできないほどではなかった。
それに猪突猛進で攻撃を仕掛けてくるばかりなので行動を読みやすい。
もしも向こうが連携してきたら、事態はさらに深刻だったろう。
(このまま終わってくれればいいんだけど……)
恐竜の首を捩じ切った俺は、チラリと時空の歪みに視線を向ける。
歪みは徐々に小さくなりつつあった。
新たな恐竜も窮屈そうに出てくるサイズだ。
ダンジョンブレイクの終了条件は一定時間の経過である。
肝心の時間は早ければ数分、長い場合は数日と幅広く、特に法則性はないという。
特殊なスキルを持つハンターなら、歪みを自力で閉じられるらしいが、この場にはいない様子だった。
まあ、今回は比較的早く終わりそうだし、そういった心配は不要そうだ。
そんなことを考えていると、歪みを中心に大きな亀裂が空間に走った。
数百枚のガラスを同時に砕くような音を響かせながら、とてつもなく巨大な恐竜の頭が歪みを押し広げてこちらの世界に侵入しようとしている。
現時点で確認できる頭頂部だけで一軒家くらいのサイズがある。
全長がどれほどか想像もつかないが、このまま放置してはいけないのは間違いなかった。
『マスター、強大な敵性反応です。推定Aランク最上位……いえ、それ以上のようです。どうしますか』
「もちろん止める! こっちに出てくる前に倒そう!」
『承知しました。では操縦席の青いボタンを押してください』
言われて見回すと、いつの間にか見慣れない青いボタンがある。
おそらくハチが新設したものだろう。
(何の機能だ? ハチのことだから悪いものじゃないだろうけど……)
俺は恐る恐るボタンを押し込む。
次の瞬間、機体の前面が開いて、内部からミコトが飛び出してきた。
「何っ!?」
「やっと解放されたー……ありゃ?」
両手を広げて喜ぶミコトは、背中から生えた魔力の鎖に気づく。
鎖は機体内部と繋がっていた。
完全に自由行動できるわけではないようだ。
ハチが亜空間収納から鉈をミコトに差し出して命じる。
『さあ、マスターのためにあの魔物を攻撃しなさい。逆らえば再び格納して電撃洗脳を再開します』
「あのさー、そういうこと言って断ると思う?」
『理解が早くて何よりです』
鉈を受け取ったミコトは、せり出してくるボス恐竜を見て凶悪な笑みを浮かべる。
「へえ、面白い獲物じゃん。斬り甲斐がありそうだねぇ」
ミコトが振り返って俺を見上げると、鉈で指し示しながら早口で説明する。
「あたしが全力で魔力防壁をぶっ壊すから、フィニッシュはよろしく。そのロボットならいけるでしょ」
「え、魔力防壁って……?」
「とにかくあたしの後にぶん殴る! オーケー? ほら、ついてきてッ!」
俺が戸惑う間にミコトが突進していく。
鎖が伸びていくのを見て、俺も遅れて走り出した。
ボス恐竜が雄叫びを上げる。
地面のアスファルトが爆発するも、ミコトは破片の隙間を縫うように駆け抜けた。
彼女はスキルの効果で発光する鉈を掲げ、その先端をボス恐竜の片目に突き刺し抉る。
ボス恐竜が絶叫し、頭部を覆っていた薄い膜のようなものが消滅する。
あれが魔力防壁なのだろう。
俺は拳を振り被って一気に距離を詰める。
そこにハチも併走してきた。
『マスター、お手伝いします』
「ありがとう!」
俺とハチの同時攻撃がボス恐竜の顔面に炸裂する。
僅かな抵抗感の後、ボス恐竜の頭部が丸ごと爆散した。
夥しい量の血飛沫が迸り、死体がぐったりと力を失って倒れる。
さらに時空の歪みが閉じて、ボス恐竜の首を完全に切断した。
ダンジョンブレイクの終息を察し、周囲のハンターから歓声が上がる。
返り血まみれの機体に乗る俺は、人生最大の達成感と、これから訪れる波乱を予感する。
それでも夢のために進み続けることを誓った。




