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追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜  作者: はりねずみの肉球
第1章:【追放と覚醒】枯渇する祖国と、砂漠に降る恵みの雨

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シーン3:【灼熱の死地】薄れゆく意識の中で出会った、優しき金眼の覇王

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

夜明けと共に、世界は容赦のない暴力的な光に包まれる。

地平線の彼方から昇る巨大な太陽が、赤い舌を舐めずるように砂漠全体を焼き尽くしていく。

ジリジリと肌を焦がす熱線が、薄汚れたドレスの布地を容易く貫通し、私の痩せ細った背中を容赦なく叩き据える。

空気が揺らいでいる。蜃気楼だ。

どこまでも続く黄金色の砂丘が、まるで生き物のようにうねり、私の方向感覚を完全に狂わせる。


「はぁっ……はぁっ……ぐっ……!」


一歩、また一歩。

砂に足を取られるたびに、太ももの筋肉が悲鳴を上げ、膝がガクガクと震える。

肺に吸い込む空気は、まるで煮えたぎる熱風のよう。

喉の奥は完全に干からびて癒着し、呼吸をするだけで紙ヤスリで削られているような鋭い痛みが走る。

祖国との繋がりが絶たれたことで、私の体内にはかつてないほどの清らかな魔力が満ち溢れている。ドクドクと脈打つ魔力は、私に無限の活力を与えてくれるはずだった。

しかし、肉体そのものが長年の幽閉生活で極限まで衰弱しきっているのだ。

どれだけ魔力があっても、それを変換して肉体を維持するための『体力』が、私にはもう一滴も残っていない。


(ここまで、なのかしら……)


視界の端が、じわじわと黒く染まり始める。

足元がふらつき、平衡感覚が消失していく。

太陽の熱で熱せられた砂が、フライパンのように私の足裏を焼いているのに、なぜか指先は氷のように冷たい。

限界だ。


バツンッ、と。

私の中で張り詰めていた最後の気力の糸が切れる。

そのまま、崩れ落ちるようにして前のめりに倒れ込む。

全身を打ち据える熱砂の感触。

ドレスの隙間から入り込んだ細かい砂粒が、汗ばんだ肌にこびりついてチクチクと痛む。

重い瞼が、ゆっくりと落ちていく。

砂に顔を埋めながら、私は薄れゆく意識の中でぼんやりと考える。


後悔は、ない。

あの暗く冷たい地下室で、心を殺してただの『道具』として搾取され続けるくらいなら、この見知らぬ自由な大地で、名もなき砂として消えゆく方がずっといい。

少なくとも、今の私の魂は、誰の所有物でもないのだから。


ドッドッドッドッ……!


微かな地響きが、耳に触れている熱砂を通して伝わってくる。

最初は私の弱々しい心音かと思った。

だが違う。規則的で、力強く、徐々に大きくなってくるその振動は、間違いなく複数の馬の蹄の音だ。


(……魔物? それとも、私を監視しに来た祖国の追手……?)


重い瞼をわずかに開け、地響きのする方角へと視線を向ける。

蜃気楼の向こう側から、もうもうと土煙を巻き上げてこちらへ向かってくる黒い影の群れ。

その先頭を駆けるのは、見たこともないほど巨大で筋骨隆々な、漆黒の軍馬だ。

そして、その馬の背に跨がる人影。

太陽を背負っているせいで顔はよく見えないが、長身で肩幅が広く、圧倒的な覇気を身に纏っていることだけは分かる。

風に翻る漆黒のマント。

黒い軍馬は私のすぐ手前で荒々しくいななき、前足を高く上げて停止する。


『――ッ!?』


舞い上がった砂塵が晴れ、その人物の姿が私の網膜に鮮明に焼き付く。

驚くほど精悍な、息を呑むような美貌の青年。

年齢は二十代前半くらいだろうか。

厳しい日差しに灼かれた褐色の肌に、夜の闇を切り取ったような漆黒の髪。

そして何より私の目を釘付けにしたのは、猛禽類のように鋭く、獲物を射抜くような黄金色の瞳(金眼)だ。


(死神……? 違う、この人は……)


祖国では、隣国の民は野蛮で残虐な戦闘狂だと教えられてきた。

水に飢え、他国を侵略することしか頭にない獣の群れだと。

ならば、あの恐ろしいほど冷徹な瞳を持つ彼も、倒れている私を身包み剥いで砂漠に捨てる野盗の類なのだろうか。


「おい、大丈夫か!」


青年が馬から軽やかに飛び降り、長い脚で砂を蹴立てて私のもとへ駆け寄ってくる。

その声は、見た目の威圧感とは裏腹に、深く響くような、どこか心地よいバリトンボイスだった。

彼が私のそばに膝をつき、大きな手が私の肩に伸びてくる。


(叩かれる……っ!)


反射的に身を竦め、目をギュッと瞑る。

ザイードや地下室の監視兵たちが私に触れる時は、いつも乱暴で、痛みを伴うものだったから。

しかし。


「ひどい熱だ。それに、このドレスの汚れ……一体、こんな砂漠の真ん中で何があった?」


私の肩に触れたその手は、驚くほど優しく、そして温かかった。

乱暴に引き起こされることもなく、彼は私の背中に腕を回し、壊れ物を扱うかのようにそっと私の上半身を抱き起こす。

彼の体温越しに、砂漠の乾いた風の匂いと、微かに香る香木のような落ち着いた香りが私の鼻腔をくすぐる。

その心地よさに、私は思わず目を見開く。


「へ、陛下! 念のため周囲の警戒を!」

「ああ、頼む。それより、この娘の容体が危険だ。誰か水袋を持参している者はいないか!」


彼に続いて馬から降りてきた数人の屈強な男たちが、素早い動きで周囲に散開し、警戒態勢をとる。

彼らは皆、青年に対して『陛下』と呼んだ。

陛下。つまり、この信じられないほど美しい青年が、隣国の――。


「あ、あなた、は……」


カラカラに乾いた喉から、擦れた声が漏れる。

青年――隣国の若き皇帝は、鋭い金眼を少しだけ和らげ、私の顔を覗き込むようにして言葉を紡ぐ。


「俺はレオン。この砂漠の国を統べる者だ。……君は、隣国むこうの人間だな? なぜこんなところに一人で倒れている?」


レオン。その名前に聞き覚えはない。

だが、彼の瞳の奥底に揺らぐ、純粋な心配と気遣いの色は、今まで私が向けられてきたどんな視線とも違っていた。

打算も、嘲りも、見下すような感情も一切ない。

ただ目の前で倒れている命を救おうとする、真っ直ぐな意志。

野蛮な国だと教えられてきたのに。

水に飢えた獣だと聞かされていたのに。


「……追放、されました……」


切れ切れの呼吸の中、私は必死に言葉を絞り出す。


「用済みだと、言われて……この、砂漠に……」

「なんだと……? このような細い腕の娘を、水一つ持たせずに死地に放り出したというのか! あの傲慢な愚物どもめ……ッ!」


私の言葉を聞いた瞬間、レオンの表情が怒りに染まる。

だがその怒りは、決して私に向けられたものではない。

私を痛めつけ、この残酷な砂漠へと追いやった祖国の者たちへの、激しい義憤だった。

彼が私を抱きしめる腕の力が、ほんの少しだけ強くなる。

それは私を安心させるための、確かな庇護の感覚。


「もう大丈夫だ。よく一人でここまで耐え抜いたな」


レオンの大きく温かい手が、私の砂まみれの髪を優しく撫でる。

その瞬間、張り詰めていた緊張がふっと解け、私の目から熱いものが溢れそうになる。

地下室に幽閉されていた何年もの間、誰一人として私にこんな優しい言葉をかけてくれる者はいなかった。

誰一人として、私の痛みに寄り添ってくれる者はいなかったのに。


「水だ。少しずつ飲むといい」


レオンが腰に下げていた革の水筒を外し、その栓を開けて私の口元へそっと近づける。

しかし、水筒を振る彼の手の動きから、中身がもうほとんど空であることが伝わってくる。

貴重な、本当に貴重な水。

深刻な水不足に喘ぐこの国で、皇帝である彼でさえ、これほど少ない水で過酷な砂漠を越えようとしているのだ。

それを、どこの馬の骨とも知れない他国の女に与えようというのか。


(だめ、そんな申し訳ないこと……)


私は首を振ろうとした。

しかし、乾ききった肉体は本能的に水分を求め、私の震える指先が、無意識に彼の手にある革の水筒へと伸びる。

冷たい革の表面に、私の指先が触れた。


その瞬間だった。

私の中で逆流し、行き場を失って渦巻いていた莫大な水魔力が。

明確な『水を与えたい』という対象を見つけ、凄まじい勢いで指先から流れ出していったのは。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


ルリアのお返し(復讐)を「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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