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追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜  作者: はりねずみの肉球
第7章:【永遠のオアシス】聖なる源泉の決戦と、愛しき日々への凱旋

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シーン1:【奈落への境界】崩落する源泉と、覇王の慟哭

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

ゴォォォォォォッ……!!


王都から北へ。荒れ狂う砂嵐と、急速にひび割れていく荒野を不眠不休で駆け抜けた先にあったのは、神話に語られる『世界のヘソ』――聖なる源泉だった。


かつては世界中の水がここから湧き出し、澄み切った清流となって大陸中を巡っていたという伝説の地。だが、私たちの目の前に広がる光景は、神聖さとは程遠い奈落の底そのものだった。

巨大なすり鉢状にえぐれた断崖絶壁。その遙か底にあるはずの源泉からは、どろどろとした赤茶色の汚泥が、まるで星が痛みに耐えかねて吐血しているかのように、ゴボォッ、ゴボォッと不気味な音を立てて噴き出している。


「……ひどい。世界が、こんなにも苦しんでいるなんて……」


私は崖の縁に立ち、そのおぞましい惨状を見下ろした。

空はどんよりと暗く澱み、吹き上がってくる突風には、鉄錆と腐乱した泥が混ざったような不快な死の匂いが立ち込めている。

私の胸の奥に抱かれたチクタクは、完全に泥の塊のように重く冷たくなり、時折『キュ……』と力なく痙攣するだけになっていた。その小さな命の灯火が、今にも風前の塵となって消えてしまいそうで、私の胸がギリギリと締め付けられる。


「ルリア、下がれ! 崖が脆くなっているぞ!」


背後から、レオン様が私の腰を抱き寄せ、強引に崖の縁から引き離した。

彼の黄金色の瞳は、かつてないほどの激しい焦燥と、悲痛な光を宿している。

ここまで来る間、大陸のあちこちで水が枯れ、人々が倒れ、緑が黒く変色して枯死していく様を私たちは目の当たりにしてきた。そのすべての原因が、私を搾取し続けた祖国の『究極の大罪』にあると知ったレオン様の怒りと絶望は、もはや言葉にできる次元を超えていた。


「グレンの報告を忘れたか。ここは今、大陸中の目詰まりした澱みが、行き場を失って逆流してきている最悪の場所だ。……あそこに足を踏み入れれば、ただの人間など一瞬で汚泥に飲み込まれて、魂ごと消滅するんだぞ!」

「……ええ、分かっています。だからこそ、私でなければいけないんです」


私はレオン様の分厚い胸板にそっと両手を当て、静かに、けれど決然と顔を上げた。

私の内側には、今もなお、祖国の呪縛から完全に解き放たれて純度を増した、無尽蔵の浄化魔力が脈打っている。この数十年分の世界の澱みをすべて真っ向から押し返し、水脈の詰まりを貫くことができるのは、世界中で私一人だけだ。


「行かせてください、レオン様。あそこへ降りて、あの祭壇で私の魔力をすべて解放します。そうすれば、大陸の循環は必ず元に戻ります」

「ふざけるなッ!!」


レオン様の魂を削り出すような絶叫が、荒れ狂う砂嵐を切り裂いた。

彼は私の両肩を、骨が軋むほど痛いほどに強く掴む。その無敵の覇王の大きな手が、微かに、けれどはっきりと震えていた。


「『命の保証はない』と言われただろう! 浄化の反動がすべて君の細い身体に返ってくるんだぞ! やっと……やっとあの地下室から助け出したんだ。やっと、俺の隣で幸せそうに笑ってくれるようになったんだ! なのに、今度は世界のためにその命を捨てろというのか!? そんな理不尽が許されるはずがない!」

「犠牲ではありません、レオン様。これは私の……人生で初めての、わがままなんです」


私は震える右手を伸ばし、レオン様の頬にそっと触れた。

戦火の中を駆け抜け、いかなる強敵の前でも決して膝を折らなかった最強の皇帝が、今、私を失う恐怖で子供のように顔を歪めて、涙を堪えている。


「私を助けてくれた時、あなたは言ってくれましたね。『君の幸せのためだけに生きていい』と。……私の幸せは、あなたが統べるこの美しい国が、あなたと共に笑う優しい人たちが、明日も清らかな水を飲んで生きていくことなんです。あなたが悲しむ顔を見ながら、私だけが安全な場所で生き延びることは、私の幸せではありません」

「ルリア……頼む、行かないでくれ。世界などどうなってもいい、君さえいれば俺は……俺は……っ」

「……愛しています、レオン様」


私は背伸びをし、彼の悲痛な言葉を、柔らかな口づけで塞いだ。

サンダルウッドの落ち着く香りと、彼の唇の不器用で熱い温度。これが最後になるかもしれない。そう思うと、強がっていた私の目からも、ホロリと一粒の涙がこぼれ落ちた。

けれど、私の決意は一ミリも揺るがなかった。


「あなたに貰ったこの命と心を、私は誇らしく使い切ります。……必ず、戻ってきます。あなたの隣に、私の本当の居場所に」

「ルリア……ッ!!」


レオン様の制止の手をすり抜け、私は光り輝く水色の魔力の翼を広げるようにして、奈落の底――赤茶色の泥が渦巻く源泉の祭壇へと、真っ直ぐに身を投げた。


背後で響く、彼の張り裂けんばかりの慟哭を聞きながら。

私はただ、愛する人が生きる明日を守るため、最強の浄化の光をその身に宿した。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


ルリアのこれからを「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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