師匠とともに魔法学園へ
魔法学園。
そこは、多くのひよっこでもある魔法使いたちが魔法を学ぶ為に集まる場所であり、賢者アーチェに届いたその手紙にその場所へと来てほしいという内容が書き記されていた。
「…………」
賢者であるからして、魔法使いと縁があることぐらいはわかるし、神宿自身それについては別にとやかく言うつもりはない。
ーーーたが、そう内心で思いながらも、神宿は隣に立つアーチェに一つ質問をする。
「なぁ、何で俺もいかないといけないんだよ?」
「んー?別にいいでしょー? 森ばっかだと、そろそろ飽きただろうしー?」
「いや、全然」
「もう相変わらず意固地だねー、トオル君はー?」
質問に対して、のらりくらりと話を逸らして全くこちらの問いに答えないアーチェ。
この感じからするに、本人に答える気はないのだろう。
だから神宿は諦めムードで溜息を吐き、
「わかったよ、ついて行けばいいんだろ」
「素直でよろしいー?」
ーーーーーかくして、師匠でもあるアーチェと共にテレポートの魔法で別の場所へと飛んだ神宿は今。
あの場所から遠く離れた地にある魔法学園、その中でも、最も神聖な場所でもある学園長室へと訪れていた。
いや、訪れると言うよりも、直接だった。
まさかその校長室へ、そのまま飛ぶとは思いもしなかった。
「なぁ、普通って外とかじゃ」
「あー、まぁ、色々とあるからかなー? その……私関係で…」
どうやら、アーチェの姿は人目につくと色々と問題になるらしい。
だから、やむなくそのまま学園長室へと飛んだのだそうだ。
礼儀としては、明らかアウトな行動に白い目を向ける神宿。アーチェは渋い表情をしながは目線を合わせないでいたが…。
そんな中で、
「久しいな、アーチェ君」
神宿たちに対してとくに驚いた様子もなく、そこには白髪を生やしたシワのいった顔つきの老人男性が椅子に腰掛けアーチェの来訪を待っていた。
「ええ、お久しぶりですー? 学園長さまー?」
アーチェの言葉から察するに、どうやら彼がこの学園の学園長らしい。
挨拶を終え頭を下げるアーチェにならい、神宿も続くように頭を下げる。
「そうだな。所で、その子は」
「私の弟子ですよー? ほら、自己紹介ー?」
「っ、わかってるよ。……えっと、初めまして、トオルっていいます」
どこかぎこちない様子の神宿に対し、隣に立つアーチェは体を震わせながら、笑いを押し殺している。
コイツ、後で覚えとけよ……、と眉間をしかめる神宿。
だが、その一方で学園長である彼は神宿を見定めるように瞳を細くさせながら、
「ほぉ、トオル君か。ふふっ、なるほどアーチェ君の弟子か」
「?」
「おっと、失礼。それではこちらも自己紹介といこうかな。初めまして、私はこの魔法学園の学園長を務めるガークだ。以後よろしく」
そう言って学園長自ら頭を下げる姿に神宿は、驚いた表情を見せた。
学園長と聞いていた事もあり、威厳の強い頑固ジジイだろうと予想していた神宿。
だが、その本人はというと威厳どころか学園長らしくない、どこにでもいる優しげなお年寄りに見えてならなかったのだ。
そして、頭を下げるガークに対し、神宿は一瞬固まるも直ぐ様、返事を返すべく口を動かし、
「あ、いえ、こちらこそ」
「ふふっ、アーチェ君の弟子にしては、偉く大人しそうな性格をしているんだね」
「え?」
と、話した所で、
「コホン」
隣に立つアーチェはわざとらしく咳払いをしながら注目を自身へと戻した。
そして、ガークと向き合いながら、今回の招集に対する意図を尋ねる。
「それで、学園長は一体何の用事で私を呼んだんですかー?」
「ああ、実は……」
そう言って、事の内容を話そうとしたガーク。だが、不意にその途中で口の動きを止めた。
そして、チラり、とガークは神宿の姿を見たのだ。
「………」
どうやら、部外者に聞かれてはいけない内容らしく、
「あ、なるほどー? トオル君ー? ちょっと、外に出でいてくれないかなぁー?」
「? あ、ああ」
何故? という疑問を抱きながらも、神宿は言われるままアーチェたちを残し、学園長室を後にするのだった。
そうして、十分ほどした頃。
学園長室の向かい、通路側の壁に背を預けながら師匠が出てくるのを待つ神宿。
すると、閉められていた校長室のドアがゆっくりと開き、中からアーチェが出てきた。
そして、アーチェは神宿を見つめながら、
「トオルー? ちょっと話したいことがあるんだけどー?」
いつになく真剣な表情で神宿を学園の端、あまり人のこない空き地へと連れいくのだった。
誰も来ない場所での話はというのは簡潔な所、アーチェは手が離せない仕事が急遽出来たために一時的にもあの森から離れなくてはいけない、という内容だった。
「…なるほど、森を離れるねぇ」
「そうなんだよー? 私は嫌々だけど今回だけは行かなくちゃいけなくて、あの家も長く離れないといけないんだよー? まぁ、後であの家に誰も入らせないよう結界の魔法は張るつもりなんだけど」
「ふーん」
軽く聞いてはいたが、どうやらその仕事は長期的なものになるらしい。
結界とは何か穏やかじゃないな、と思いつつもそこで神宿はふとある事が気になり尋ねる。
「ん? それじゃあ、俺も師匠と一緒にいかないとダメってことか?」
「え、あー…………その、ごめんねー、トオル君ー? 今回のは私一人だけなんだよー? だからトオルには」
「あー、そうか。じゃあ仕方がねえよな。それにしても、俺もまた一人暮らしに戻るわけかー」
あの森の家でアーチェの帰りを待っていようかと初めは考えた神宿。
だが、結界を張ると聞いた以上、無理を言ってそれを止めてもらうわけにもいかない。
何故なら、神宿自身。居候的な立ち位置にいるのだから。
ーーーだから、神宿は、
(また、安全な場所を探さないとなぁ……)
アーチェに出会う前の生活を思い出さないとな…、とそこまで考えていた。
ーーーそんな時だった。
「それでなんだけどー? あの森に一人で居座るのは危ないと思うからー?トオル君のために、ちょっと学園長に頼み込んでみたのー?」
「……………は?」
そう言って、どこかいたずらっぽく笑みを浮かべるアーチェは、神宿に告げる。
「というわけで、トオル君ー? 君は明日からこの魔法学園に入学するんだよー?」
……………………と、固まる神宿。
そして、決まった! と親指を立て、笑みを見せるアーチェ。
ーーーーーかくして、急転落下のごとく異世界での魔法学園生活が開始されることになるのであった。




