その儀の整理
薄暗い部屋は、ガラスで分けられた向こうの部屋の明かりと数代のモニターの光のみで照らされていた。向こうの部屋には椅子に固定された1人の少女と白衣を着た1人の男がいて、白衣の男は電子機器の調整を行っている。こちらの部屋には、赤野徹と目の下に大きな隈のある具合の悪そうな男の二人だけだ。ガラスは防音効果もあり、あちらの声はスピーカーを通ってでしかこちらに届かず、こちらからも同様だが、スピーカーは起動していなかったため、こちらの声はあちらに聞こえない。
「あなたが超能力兵器の基礎の『能力移植技術』の開発者だそうですね。隈下藤次郎博士」
赤野徹は5台のキーボードを器用に操る隈下博士の後ろから声をかける。
「それがどうした。そんなものは過去の栄光にすぎない。しかも、もう罪科とされた栄光だ。軍事的に必要とされていても、社会的汚物はどうしても生きにくい。そんなことより、どうしてこんな所に出てきてやがんだ。あんたが扱うような仕事を依頼した覚えはねえが」
『手品師』こと赤野徹は、この業界の中でもかなりの有名人で、高い依頼達成率と達成高率、低依頼費、細かい要望まで正確にこなすことで稼いでいる。本人は低依頼費で仕事を受けよるのだが、その人気から自然と彼の前には大金が積まれることが多いほどだ。
そして、今では超重要執行人の赤野徹の受けよる仕事は、この街の中でも大金持ちか街議会議員、または街自体からの依頼がほとんどだ。そんな彼が、ただの超能力研究の研究動物の捕縛ごときの依頼を受ける訳がない。それとも今回のスポンサーはそこまでしてこの実験を成功させたいと言うのか?
「今回の計画、『諏訪燃料発電……』、いや、『過度蓄電能力移植』か。この計画が成功することはない」
「は?」
藤次郎のキーボードを叩く手が一瞬だけ止ったが、その手は再び5台のキーボードを叩く。
「この計画から手を引いてください。隈下博士。我々にはあなたを迎え入れる準備があります。すぐにこの計画を放棄し、この施設からの離脱にご協力ください」
藤次郎はキーボードの手を止めることなく応答する。
「あんたはこの計画を中止させる依頼を受けたってことか?いや、違うな。あんたはこの計画を中止させたい組織の一員なんだ。そして、計画の中止に乗じて俺をスカウトしようとしている。しかも、計画の中止はただの中止ではなく、もっと特別な意味がある。だから、力技で計画を潰そうとはしてないんだ」
藤次郎はキーボードの手を止めて、徹の方を向く。
「俺の仕事は何だ?」
「あなたには能力移植の向上、前進にご協力いただきます」
その言葉に具合悪そうな隈下の口元がかすかにほほ笑む。
「分かった。その依頼、受けよう」




