彼の人影
「和哉、大丈夫ですか?」
磁力の力で電灯の上へ着地した美月から心配していない声が掛けられた。細身の3つの人影にレールをぶち込んだ美月は、機構に刺さったスコップを磁力で操り機構を空の彼方へと打ち出した。その時に、美月はレールで和哉と自分の身を守り、レールに和哉を乗せて遠心力で穴から放り出し、美月は磁力の力で電灯に飛び移って脱出した。
遠心力で穴から放り出された和哉は、窓ガラスがもともと割れていたところに突っ込み、ビルの柱にたたきつかれていた。肩関節を痛めたようだが、痛いのは最初だけだ。和哉の『超回復力』は少しの関節の異常はすぐに回復する。痛みがすぐに引いた和哉は、身体を起こし割れた窓ガラスから身を乗り出す。
「んあ、大丈夫だけど、もっと優しく投げてくれませんかね!死ななくても痛いんですからね!」
美月からは、にこっと、ごめんだけ帰ってきた。
和哉は穴から這い上がってくる細い人影を見た。
奴らは、美月の音速を超えるレールを片手で受けて、レールを炎で消し飛ばしていた。和哉が考えた可能性は、熱力学を自由自在に操る『熱伝操作』であるということだ。しかし、美月は言っていた。奴らは人間に似ているが、それとは異質のものであると。ということは、超能力者ではないとしても、『熱伝操作』に似た力を持っていると考えたほうがいい。
「美月、電撃は効くのか?人間に近いなら効果があるかも」
言ってから和哉は割れた窓から飛び降りる。勿論下にマットやトランポリンはない。足から着地した和哉は、地面に落っこちて両足を複雑骨折した。足からはばっきばきに折れた骨が飛び出していたが、そんな外傷はすぐに回復する。
薄暗い南第1輪区第2地帯の空に雷の光が駆け巡った。空気中をまっすぐ進む電子の槍は細い人影を捉える。
足の回復を待ちながら和哉は人影を見ていた。人影の1つが電撃にその細い両腕を伸ばす。電撃は光の速さで人影の細い両腕に突っ込むが、細い両腕は高圧高電流に痙攣することも焼かれることもなく、まるで掛けられた水が物に当たり弾けるように、電流の槍は両腕に当たって弾けた。
その光景は明らかに不可解だった。少なくとも和哉が高校で習う物理学や、興味本位で調べている物理学には、明らかに当てはまっていない。
電撃が水の様に弾かれていることもさることながら、さらにおかしなことがある。炎だ。雷撃を防いでいるのは両腕ではなく、両腕から出ている炎だ。炎が両腕でとぐろを巻いて雷撃を外に弾いている。
複雑骨折状態だった足も回復し和哉は立ち上がる。すると、雷撃を防いでいない人影のうちの1つが和哉を見て、近づいてきた。
「っち、やる気か、野郎」
その睨む目と思しき光はじっと和哉に焦点を合わせる。




