彼の影
地下鉄とは本来、気象や事故など外的影響が少なく、列車の位置を詳細に確認しやすいことから、短時間の内に多くの列車を走らせるのが基本である。列車間が10分空くことはまずあり得ない。しかし、地下鉄の線路をたどり始めて約15分、列車が走り抜けるどころかネズミ一匹通らない。諏訪美月によると、南第1輪区第2地帯一帯が封鎖されているのだろうとのことだ。そんなことは、先ほどの黒服達や錐香だけではできない。美月はこの街の中枢機関が絡んでいると踏んでいるようだった。風紀委員会が動けないって徹が言っていたのはそう言うことだったのか。
「『諏訪燃料発電』なんて、1年前に凍結されたと思っていたんですけどね。この間、急にそれをやっていた研究施設に連れていかれて、逃げてきたんです」
「んで、逃げていたらあいつらと鬼ごっこしてたってわけか?」
「でも、あの計画が中枢機関指導で行われているとしたら、鬼ごっこでは済まなくなるかも」
ふん、と、和哉はライトが吊るされたトンネルの天井を仰ぐ。ライトで照らされた狭い範囲では、コンクリートの間から染みになっていた。
「そういえば、俺たちどこに向かってんだ?」
「どこって、『諏訪燃料発電』の研究施設?」
「なぜに敵の本拠地へ?」
「なぜって、あれ?どうしてだろう。あれっ、あれ?」
おいおいと、半ば諏訪美月の計画性の無さにあきれる和哉だったが、しかし、空間移動に狙われている中で、磁力で携帯電話をコンデンサー化したランク5がこんな失敗するだろうか?
とも思う。
そこで和哉は、向え10メートルほどのところに人影があることに気が付いた。
右手で諏訪美月に止るように促し、前を見る。
ライトで照らされていないところに立っているそいつは、暗がりで顔はおろか服装まで判別できない。かろうじてパーカーのフードを被っていることが分かった。
どうしました?と、諏訪美月は不思議そうな顔を和哉へと向ける。和哉は前を見るように促す。暗闇に立ち尽くす人影を見つけた諏訪美月は、磁力で転がっていたドラムやらスコップやらを引きつける。
「どうしますか?」
「俺思うんだけどさ。俺たちが何の疑いもなしにこっちに歩いてきたのって、あいつの能力とかなんじゃねぇ?あいつのじゃないとしても、その仲間の能力とかだ。じゃぁ、この周りに人はいるのか?」
諏訪美月の眼の色が鋭くなる。諏訪美月は『過度蓄電』の副産物として周囲の電子の位置を見ることができる。本気を出せば視覚外まで電子の位置を把握できる。また、動物は神経の信号伝達に電気的特性を利用している。そこから、人間の位置も割り出せるのだ。
「ん~、いません。はい、いません」
「だったら、あいつをどうにかすれば、どうにかなる!」
「分かりました。では、寝ててもらいましょう!」
錐香から逃げれたことに興奮しているのか、異性が隣に居て張りきっているのか、2人ともハイになっている。大きいのは和哉の自信ありげな態度だろうが、そんなことは今の2人が知る由もない。
目の前に居るのがいつも教室で出会う友達だとも、相手が超能力とは違う力を揮うものだということも、今の2人が知る訳もないのだ。




