彼は手品師
コンクリートの壁と同距離を保ち続けるレール、壁に取り付けられたケーブルにライトだけの地下鉄道を赤野徹は歩いていた。夏であるのに地下鉄道は涼しい風が吹き通る。この中では、徹のフードをかぶったパーカー姿も違和感がない。
音もない薄暗闇に携帯電話の着信音が鳴り響いた。初期設定の携帯電話の着信音だ。徹はジーンズのポケットから現在で主流中の主流、スマートフォンを取り出した。画面に表示された『通話』をスライドする。
『猪苗代和哉と諏訪美月の接触を確認しました。現在、地下鉄の線路をたどりながら西へ移動中です』
「了解しました。では、計画通りにお願いします」
簡単に通話を終える。状況報告に時間をかける意味はなし、あんな奴らと会話する意味なんてない。よって、簡単に済ませる。
徹はこの街の集団で1人を追い詰める方法が嫌いだ。正確には慣れない。徹はもともと一対一で相手を打ちのめす戦い方が多かった。そういう環境で育ったからと言うこともあるが、どうしても卑怯に感じてしまうのだ。だから、徹は今回のように集団戦ではあるが、内容としては1人で1人、時には複数人を相手にする作戦を担当することが多い。
「ごめんな。和哉」
猪苗代和哉は奥からこちらに向かって歩いてきているだろう。そういう風にセッティングした。徹の『力』はそれを可能にする。
徹の『力』はこの街では『不可視力』と名付けられたランク3だが、この業界ではその多様な効果を使う『力』から『手品師』と呼ばれている。
何度も言うようだが徹は超能力者ではない。だが、超能力のように異常な力を揮う者。
この街の保護対象から外れた彼は、ある目的のために作戦を実行する。
たとえ、相手が友人であったとしても。




