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20.約束の日



 朝から私は浮かれていた。

 ようやく約束の土曜日になったのだ。


 本日は快晴。お出掛け日和だ。


「サラ、今日は街にでかけるから地味で目立たない格好にしたいの」

「かしこまりました」


 私が持っている服は公爵家の令嬢としては少ない。

 それはマリアが社交の場に出向かないからだ。

 しかしそれでは今後困るだろうと思って地味な服、つまり、街へいくための服を帝都に来るときにいくつか用意してもらったのだ。

 こんなに早く使うことになるとは思わなかったが、少し前の私によくやったと言いたい。



 サラが持ってきたのは薄い緑のワンピースだった。

 装飾もレースも少なく、非常にシンプルだ。

 そのワンピースを着て髪を結ってもらう。

 先日殿下に買ってもらったバレッタとイヤリング、ネックレスをつけて準備完了だ。


 おっと、お金をいれるための小さなバッグも持っていかなきゃ。

 今日はサラもいないのだから。


「お嬢様、本当にお一人で行かれるのですか?」

「ええ、そういう約束ですもの」


 護衛が一人ついて回るのはちょっと邪魔だけど、女の子同士でめいいっぱい楽しみたい。

 洋服やアクセサリーを見たり、美味しいスイーツなんかも食べられたらいいな。

 食べ歩きは……どうだろう。

 リリーはともかくアデルハイトは正真正銘の貴族のお嬢様だから難しいかな。

 とはいえ私がやりたいといえば少しくらいは付き合ってくれる気がする。


 正直毎日毎日お上品な貴族のご飯食べてるからジャンキーなものが食べたいのだ。


 ハンバーガーやコーラはさすがにないかもしれない。

 唐揚げとかフランクフルトとかフライドポテトはどうだろうか。

 ここは近世ヨーロッパの皮を被った日本だから意外とコンビニのホットスナックみたいなのが売ってるんじゃないかと期待している。


 ここらへんの知識は当然マリアの記憶にはないので自分で確かめるしかない。


 もしそれらがなくても庶民のジャンクフードを食べてみたい。

 屋台とかあればいいな。


 公爵令嬢として外に出たら絶対に食べれないものたち。

 今日は思う存分食べてやろうではないか。


 意気揚々と自室から出た。


「マリア、もう準備は終わったのか?」


 目の前に立っていたのはいつもよりもいくぶんか質素な服を着たお兄様。

 一瞬で、それがどういうことなのかを悟ってしまった。


 が、一縷の望みをかけて理由を聞いてみる。


「お、お兄様、その格好は……」

「お前が護衛をつけるのが嫌がっていたから代わりに俺がついていくことにしたんだ」


 終わった。


 唐揚げもフランクフルトもフライドポテトも食べられない。

 バイバイ、ジャンクフード。


「本職の騎士ではないがマリアを守るのに不足はないはずだ。安心するといい」

「……ありがとうございます」


 なんたって乙女ゲームの攻略キャラ様だ。

 全員文武両道の素晴らしい方々なのだから護衛くらい朝飯前だろう。

 お兄様に任せておけば何も危険なことはない。

 ええ、そうでしょうね。

 何かあっても攻略キャラ補正でどうにかなるでしょうよ。



 どうしてこうなった。


 こうなるなら護衛の件で駄々をこねるんじゃなかった。

 多少目立ってしまったところで護衛は護衛。

 危険がなければ私のやることに口出しはできない。

 なんなら好き勝手して口止めすればいい。


 でもお兄様ならそうはいかない。


 しかもお兄様は昔のマリアを知っているから下手にはしゃげば疑いを持たれてしまう。

 こんな休日でも私は公爵令嬢のふりをしなければならないのか。


 お兄様と共に馬車に乗り込む。

 待ち合わせ場所の近くまで馬車で送ってもらうのだ。

 馬車が動き始めた。

 何か手違いがあって護衛交代にならないかな。

 無理だよね。





 気持ちを切り替えよう。


 別に買い食いしなくったっていいじゃないか。

 お昼も外で食べるのだ。

 ジャンクフードとは違うかもしれないが、いつもの上品な食事とは違った超庶民的メニューがあるかもしれない。




 これも社会勉強なのだ。私は箱入り娘で外のことを知らない。

 貴族としての義務を果たすため、庶民の暮らしへの理解を深めることは悪いことではないはず。


 よし、説得はこれでいこう。



 馬車はすぐに目的の場所についた。

 待ち合わせの噴水は目と鼻の先にある。

 広く人通りの多い帝都の中心街においてこの噴水は待ち合わせの場所としてよく利用されているそうだ。


「お兄様、とても人が多いですわ! こんなに街はにぎやかなのですね」

「ああ、大抵の店がここにあるからな。生活用品も娯楽品もほとんどがここで揃う」


 今日の私のテーマは『未知の世界にはしゃぐ箱入り娘』だ。

 今決めた。

 街に来るのは二度目だけど気にしてはいけない。

 全てが初めてかのように振る舞わなければ。


 無邪気にはしゃぐ妹を見ればきっとお兄様も甘々になって見たことのない食べ物でも許可してくれるはず!

 期待を込めた目でお兄様を振り返った。





 ……甘々とは程遠い顔をしてらっしゃる。


 眉間の皺が深い。

 マリアと同じくつり目で冷たい印象のお顔立ちなのに、しかめっ面しているせいで極悪になってしまっている。

 いったいどこの組のものですか。


(作戦失敗……! でもまだまだ諦めない)


 とりあえず二人と合流しよう。

 噴水の方に目を向けると、淡い黄色のワンピースを着たリリーとモノトーンで統一したパンツスタイルのアデルハイトが立っていた。


 なんだかカップルみたいだ。

 

 馬車から降りると二人は私に気付いて手を振ってくれた。

 だからリリーはそんな全力で手を振るのをやめなさい。あなたは貴族令嬢なのよ。


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