21.約束の日2
「こちらは兄のレオナルドです」
「はじめまして。リリー嬢はマリアと仲良くしてくださっていると聞いています。今日はぜひ楽しんでくださいね」
見事に外用の仮面を被ってお兄様はリリーに挨拶をした。
イケメンだ。身内贔屓するわけじゃないけどこのうえなくカッコいい。
一方、リリーはパニックを起こしていた。
「は、はは、はい! よ、よよよよよろしくお願いします!!」
ものすごい勢いで頭を下げている。
突然イケメンがやってきてこんな爽やかな笑顔を向けられたら仕方ない。
気持ちはよくわかる。イケメンっているだけで周囲にフェロモン撒き散らすよね。
「レオナルド様、お久しぶりです」
「ああ。アデルも今日は肩の力を抜いて楽しむといい」
お兄様はアデルハイトに親しげに言葉を返した。
「お二人はお知り合いなのですか?」
「アデルの兄が近衛騎士でな。去年からたまに帝都にやってきては顔を合わせていたんだ」
アデルハイトは完全にモブだと思っていたから攻略キャラとの絡みがあったなんて思いもしなかった。
でも彼女はモブというには美人すぎる。お兄様と並んでもまったく見劣りしない。
本当にアデルハイトはモブなのだろうか。
あ、そうだ、今日はリリーとお兄様が親しくなり過ぎないよう全力で邪魔しなければ。
本来のお兄様のルートの出会いとは全然違うけれど、いつ何が起こってどう変化するかわからないのだ。
お兄様には悪いがリリーと結ばれてもらうわけにはいかない。
「さぁ行きましょう。私、アロマオイルを見に行きたいのですが、お二人はどうでしょう?」
「わ、私はマリア様がいらっしゃるところならどこでも……じゃなくて、私もアロマオイルを見たいです!」
なんて可愛いことをいうんだ、この子は。
頬を染めて恥ずかしそうにしているリリーは妙に庇護欲を掻き立てる。
こういう仕草が男性を虜にするのか。覚えておこう。
「私も賛成です。確か通りの向こうに人気のお店があると聞いたことがあります。そちらに行くのはどうでしょう? 」
アデルハイトの提案に頷いて歩き出す。
もちろんリリーとお兄様が近付きすぎないよう気を配りながら。
お兄様は護衛に徹するつもりなのか、私達に話しかけようとする素振りはない。
想定とはだいぶ狂ってしまったが楽しく休日を過ごすことはできるのではなかろうか。
まあお兄様がイケメン過ぎて周囲の視線を集めてしまっているのはちょっと、いやだいぶ居心地が悪いのだが。
*****
アロマオイル、化粧品、靴、本。
今日は本当にたくさんの買い物をした。
さすがに食べ歩きは出来なかったけれど満足だ。
女の子同士でお喋りしながら買い物って楽しい。
お昼は通りにある評判のいいお店で食べられたし、今は四人で大通りの端に位置するカフェでお茶を飲んでいる。
これまでにないくらいたくさん歩いたから脚力強化の魔法を掛けているにも関わらず脚が疲れてしまっていた。
きっと明日まで疲れが残っちゃうんだろうな。
そういえば明日は殿下と会うんだっけ。
うーん、ちょっとめんど……大変そうだな。
ため息を堪えながらお茶を一口飲んだ。
お砂糖をたくさんいれた甘い紅茶が身に染みる。
疲れたときに甘いものをとるのは格別の美味しさが味わえる。幸せだ。
「今日はありがとうございました。とても楽しい時間を過ごせましたわ」
「こちらこそ、マリア様と一緒に過ごせてとても楽しかったです」
最初はどうなることかと思ったが、本当に無事楽しく過ごせてよかった。
お兄様もなにもせず見守ってくれたおかげでリリーとの仲が良くなることもなかった。
まあ無言でついてくるイケメンって圧が強すぎて私の精神に負担がかかったんだけど。
だってやたらと注目されてるから。
マリアもリリーもアデルハイトも顔が整っているから周囲の人たちには奇妙な関係に見えたのかもしれない。
アデルハイトともずいぶん仲良くなれた気がする。
彼女はクールな見た目とは裏腹にとても可愛いものが好きなようだ。
ただ、本人はその可愛いものが似合わないと思っているのか何も買おうとしなかった。
今度買い物に付き合ってくれたお礼に可愛い髪飾りをプレゼントしようかな。
「あの……最後に行きたいお店があるのですが、一緒に行っていただけますか?」
「もちろんですわ。そのように遠慮せずもっと気軽におっしゃってください」
「私も問題ありません。どこに行きたいのですか?」
「ありがとうございます! その、通りの向かいにあるジュエリーショップなのですが……」
通りの向かいにあるジュエリーショップ。
それは先月に殿下と一緒に行ったお店だ。
(あのお店は初デートで入るお店……! 今この場に攻略キャラはお兄様だけ。つまり……)
お兄様は護衛ではなく、リリーのデート相手という判定だったようだ。
エスコートもしないし会話もしてないけど。
そんなくっそつまらないデートなんてデートとは認めたくはない。
しかも本来ならこのイベントはもっと後、5月下旬に発生するイベントだ。
だからこそ安心してここに来てたのに。
ガバ判定過ぎるでしょ。もっとフラグ管理しっかりして!
やっぱり護衛を拒否するんじゃなかった。今さら後悔しても遅すぎる。
(いいと言った手前、それを覆すのは難しい……)
「マリア様のバレッタが素敵だったので私も欲しくなってしまって……」
眩しい笑顔。この笑顔を前にしてやっぱり行きたくないなんてことは言えない。
(大丈夫、宝石の色を間違わなければ大丈夫……)
お兄様の髪は銀髪だからダイヤモンドを避ければいいかな。
空虚な笑みを浮かべて覚悟を決める。
先程までの買い物と同様に私とリリーとアデルハイトの三人で購入するものを決めればお兄様の好感度を左右することなんてないはず。
本当に? 今この時点でフラグ管理もできてないシステムを信じられる?
事前にわかってれば同じものを用意してリリーにプレゼントしたのに!
しかしもう遅い。
(リオンの髪の色は茶色……本人不在で選ぶことに意味はあるだろうか。それとも今回は別のバレッタを選ぶべきか……)
なんてことない顔をしてカフェを後にする。
お店は目と鼻の先にあるのにどうすべきかまとまらない。
(ここにリオンがいてくれたら悩む必要なんてないのに。今からでもあらわれてくれないかな。それこそ前会ったときみたいにいきなり現れてくれれば……)
そんなどうにもならないことをつらつらと考えながらお店の扉に手をかけた時だった。
「マリア、偶然だね。僕も一緒にいいかな?」
聞き慣れた声に驚いて振り返ると、そこには殿下とリオンが立っていた。
二人ともシンプルな服装だけど、顔が整い過ぎてて背も高いからめちゃくちゃ目立ってる。
思わず変な声が出そうになってしまったのを必死で我慢する。
願ったら本当にリオンがあらわれた!!!




