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第五話

「それで」

 と、難しい顔をして腕を組んだのはトムだった。

「副長の右手のことは隊長もご存知だったわけですか」

「ああ」

「それで、俺たちにも内緒にしろと」

「まあ、そうだ」

 申し訳なさそうにユーリはそこにいる全員の顔を見渡しながら言った。

「黙っていたことがお前たちには不服だろうが、しかし私自身も我がことながら、この右手がこれからどうなっていくのか予測がつかない。殿下が秘密にしろと言ったのは私の身を案じてくれたことと、そして私の家族やお前たち仲間を守るためでもある。それは判って欲しい」

「判っていますよ」

 トムはそう言うと、盛大に溜息をついた。

「それでも、すべて話して欲しかったというのが本音です。しかも隊長は一人で何か危険なことをしようとしているんじゃないんですか? 水くさいですよ」

「そうだな。すまない」

「俺たちがそんなに信用ならないですか」

「そうじゃない。お前たちに迷惑が」

「そこですよ」

 フランが声を荒げた。

「俺たちはそんなに弱いと思われていたことが心外なんです」

 その言葉に第一部隊全員が頷いた。そんな重い空気が流れる中、不意に明るく声を上げたのはニールだった。

「まあ、いいんじゃない。みんな無事で、こうして生きている。不満があるのも生きているからこそだよ」

「はあ? 何言ってんだ?」

「僕たちは生きているってこと。なら、これからなんでもできるよね」

 ニールはふと、考えるように(くう)に目を投げてから言った。

「副長の右手のこととか、隠し事されていたのは僕も嫌だけど、その気持ちはみんな、判るでしょ。だったら、これからたくさん、僕たちに頼って迷惑かけてもらえばいいよ」

「……おい、ニール?」

「副長、どうぞこれから目一杯、僕たちに迷惑かけてください。もう、ここまで来たんだ、これからはそういう遠慮とか、隠し事とかなしでお願いしますよ」

 そう言って、にっと不敵に笑った。その途端、硬い表情だったみんなの顔が柔らくなっていく。

「そうだな。小恥ずかしいことを言うようだが、俺達には何の遠慮もいらない。がんがん迷惑かけてくださいよ」

「そういうことだな。畜生、ニールにいいとこ取られちまった」

 トムとフランが顔を合わせて笑い出すと、そこにいた全員もつられて笑い出した。

「おい、お前たち、少し静かに」

 ユーリがにぎやかになった場に慌てて言った。

「店には迷惑を掛けられないぞ」

「あ、そうですね」

 はっと口をつぐむと、全員、おとなしく椅子に座りなおした。

 彼らが今、潜伏しているのは、いつも第一部隊が宴会に使っている酒場の二階だ。常連のセドリック殿下のためならと、店主は豪快に笑って第一部隊をかくまってくれたのだった。

「それで、これからどうしますか」

 遠慮がちに声を掛けたのはアンだった。部屋の隅の長椅子にケイティとふたり、寄り添うように座っている。

「これから何をするにしても、先ずは、ケイティのことを考えた方がいいと思うんです。彼女を危険に巻き込むことは隊長の意に反すること。ケイティを安全な場所に送り届けなければ……だけど自分のお屋敷に帰るのは今となっては危ないわよね。だったら、ガーランドのお嬢さんのお屋敷はどうかしら」

「嫌よ」

 うつむき加減に座っていたケイトリンが不意に顔を上げるとはっきりと言った。

「私はここにいます。みなさんと行動を共にします」

「ケイティ……!」

「だめだよ。君をここに連れてきてしまったのは成り行きだ。これ以上は」

「ユーリさま」

 すっと立ち上がると、ケイトリンは真摯なまなざしでユーリと、そして第一部隊の面々を見回して言った。

「みなさんも聞いて。私は軍人ではありません。強くも賢くもありません」

「いや、強いし賢いと思うけど」

 ぼそっと呟いたニールに軽く首を振ると、ケイトリンは続けた。

「そうじゃないの。ただ、必死だっただけ。本当は弱いの。だけど、みなさんと一緒にいたい。みなさんのために、セドリックさまのためにと思う気持ちは本当だから。私もセドリックさまを救い出す手助けをしたいの」

「君の思いが本当なのは判っているよ。だから」

 ユーリが静かに言った。

「危険なんだ。思いだけで動くとひとつ間違えば、身を滅ぼしかねない。だから、君は安全な場所に」

「嫌です」

「ケイティ、いいかい、君に何かあれば悲しむのは殿下なんだよ」

「判っています。だけど、私は……!」

「何を騒いでいるんだ」

 突然、男の声が割り込んできて、ケイトリンは言葉を飲み込み、身体を硬直させた。

 いつの間にか、入口に一人の男が立っていた。

 目深に被った帽子の闇から、鋭い眼光がこちらを射抜くようにみつめている。

「おい、ここは俺たちの貸し切りだぞ。勝手に入ってきてもらっては困る……」

 フランが恫喝するようにそう言ったが、男はどこ吹く風だ。

「そうなのか? だとしても、こうも二階がうるさくては、下で飲んでいる俺は少しも酒を楽しめないんだが」

「それは……失礼を」

 緊張が走る中、音もなくユーリが男に歩み寄っていく。

「それでは、あなたもこちらで飲まれては? お詫びにおごりますよ」

「それはそれは」

 男は口元だけで笑うと、ゆっくりと帽子を取った。


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