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12:嵐の秋 洪水と神様の戦い

12:嵐の秋 洪水と神様の戦い

 落ち葉が旋風に舞う秋。目の見えない猫は、すくすくと大きく成長していた。耳の聞こえないカラスは、卵を産んだ。ちび神様は、時間が進んでいることを実感した。いつしか、猫もカラスも、社には来なくなった。少し寂しくなったけど、元気にしているなら、それが何よりだとちび神様は笑った。神様が必要がなくなったのなら、それが何よりの幸せなんだとちび神様は不満そうな狐に言った。もう、社は形しか残ってなかった。若い女も、もうずっと来ていなかった。

 ある秋の日。嵐が来た。村には水が押し寄せ、沢山の家に被害が出はじめた。ちび神様は、人や土地との縁が薄れて力を失いかけていたが、そのない力を振り絞って、必死に守れる家を守った。中でも、社を直してくれた若い娘の住んでいる家は、何とかして守りたいと思っていた。

 「こんなことしても、誰も感謝してくれないですけどね。」狐は、動物たちを逃がしながら言った。

 「感謝される為にするんじゃない。だから目にみえない神様になったんだよ。」ちび神様は暴れる川の水を誘導しながら答えた。

「助ける自信はあるんですか?あんなに神様の仕事、失敗するからしたくないとか言ってたのに。」狐は意地悪を言った。

「自信がなくても、必要とされなくても、失敗しても、僕がそれは嫌だから。特にあの人はほっとけない。」

「へー。ちび神様が珍しい。でも、あの娘だってきっと気づかないのに、いいんですか。猫もカラスも、あの娘も、もうずっと来てないじゃないですか。」狐はいった。

「いいよ。しょうがない。」

「でも、願いが叶わない方がいいとか、助けないっていう助け方もある、とかいってたのに。どうして気が変わったんですか。」狐は尋ねた。

「何がその人にとっていいのか、何が村にとっていいのか、神様だけど正直わかんないさ。それに、誰かだけを助けるのも嫌だけど。」ちび神様は言った。

「それに、どれだけ助けたとしても、あの娘も猫もカラスも、彼らにはきっと見えないし聞こえない。だから、きっと僕のことなんか忘れている。でも・・・これは助けなきゃって、理屈じゃわかんないけど、思ったから。それに、誰も気づいてくれなくても・・・」ちび神様は少し迷って、それから続けた。

「君が僕のことを知っていてくれたら、それでいいんだ。」ちび神様は笑った。

「・・・そういうところが、ちび神様ですね。ずるいなあ。」狐は少し悔しそうな顔をした。

 そこに、ながれの神様が現れた。嵐で社の封印が解かれたのだ。ながれの神様は暴れ回り、近くの人々を巻き込もうとしていた。嵐はますます大きくなり、風がうなり声を上げた。

「あれも神様なんですか!?」狐は風に飛ばされないように必死で社にしがみついて、ながれの神様の様子を伺いながらちび神様にきいた。

「人が奉るものは全て神様になる。それが悪いものであっても、人間に都合が良ければね。偉い人間がみんないい人間って訳じゃないのと一緒だよ。」ちび神様は、突き刺さる雨を払いながら言った。そこに、一つの家を見つけた。そこには、あの若い娘がいた。すっかりお腹が大きくなっていた。近くでながれの神様が咆哮をあげた。

「助けなきゃ。」ちび神様はながれの神様の進行方向に向かった。

「明らかに向こうの方が強いですよ!危ないです。ちび神様がもってかれちゃいますよ!」狐が叫んだ。

「考える!じゃないと、僕がここにいる意味がない。それにあの娘は君の・・・。」ちび神様は、娘の家を見た。そこに、ながれの神様が手をのばそうとしていた。


ちび神様は考えるのをやめて、ながれの神様の懐に飛び込んで、手を強く払った。怒ったながれの神様は、唸り声を上げて叫んだ。

「人間の一人や二人、なくなったところでどうということはないだろう!我に捧げよ。どうせ村の悲しみなど一時のことよ。我を鎮めたいのだろう。我に人を捧げよ!贄を捧げよ!我は神なるぞ!」

ちび神様は、満月の日に狐に言った言葉を思い出した。

『僕がいなくなっても、誰も悲しまない。誰がなくなっても。』

 ちび神様は、ながれの神様に弾かれた。ちび神様は社に飛ばされた。

「ちび神様!」狐はちび神様の前に立った。

「・・・小さな欲かもだけど、守りたいものがあるんだ。その為にここに・・・。」ちび神様は、何かできないかとあたりを見回した。すると丁度社の奥に、以前に古い神様から貰った御札を見つけた。ちび神様は御札をとろうとした。

その時。ながれの神様は、ちび神様に襲い掛かった。狐はその前に立ちはだかって、覚悟を決めた。ちび神様は社に手を伸ばすのをやめて、ちび神様は狐をかばった。そして、社の反対方向に転がった。そして、その後ろで社と御札は吹き飛んでしまった。

「ばかですか。ちび神様は。お使いが神様守るものなのに、これじゃ、反対じゃないですか。それに、社がなくなったら、ここにいれなくなるんですよ!」狐は怒った。

「神様にだって、守りたいものがあるんだよ。」ちび神様は笑った。

ながれの神様は、ちび神様と狐に向き直った。

「邪魔をするなら、お前たちからだ。」

しかし、そこに古い神様が飛び込んできて、ながれの神様を押し返した。

「古い神様!」狐は驚いて言った。

「ありがとうございます。でも、どうして。お札はさっき弾かれてしまってお呼びできなかったのに。」

「・・・カラスと猫が来て、お前を守るように言うのでな。他は概ね避難も終わった。後はここだけだ。」

「カラスと猫?」狐はあの二匹を思い浮かべた。

「わしも地域を守る神である。別に天罰を下す為にここにおる訳ではない。・・・まあ、嵐が去ったら、社は建てなおさせるがな。」古い神様は不満そうに言った。

「ありがとうございます。」ちび神様は、ぼろぼろになった身体を起こして、頭を下げた。

「礼には及ばん。それが私の勤めだ。まあ、今回はわしだけの力では難しいがな。お前も手伝え。」古い神様は、ちび神様と協力して、ながれの神様を天へと浄化した。

 嵐が去った。ちび神様は社は、その残骸だけが残っていた。古い神様の社はぼろぼろではあったが、しっかりと残っていた。

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