11:入道雲の夏 流れの神様
11:入道雲の夏 流れの神様
入道雲が膨らむ夏。雨が続いた。娘も来なくなって、社はまた壊れつつあった。
ある日、ちび神様は、ながれの神様を村で見た。
沢山の人々が付き添って、神を信じよと叫んでいる。こう祈ればあなたは救われる!
と書かれた紙もまいていった。古い神様は怒って追い払ったが、その内に土地の人の何人かは、新しいながれの神様についていった。
「みんな、形や安心がほしいんだね。」ちび神様は残念そうに言った。
「お葬式とか、儀式とか、したらなんか安心しますもんね。」狐は笑った。
「きっと、そういう神様の方がいいんだよ。絶対に私が正しいって言ってくれるような。」
「自信がない神様と自信のある神様だったら、そりゃある方を選びますね。」
「でしょ。でも、安心のためとか、未来の為に、あれしろこれしろって、僕はいいたくないんだ。別に人間は神様の操り人形じゃないし。人間のことや自分の人生は、自分が決めたらいい。」
「でも、一生懸命頼まれたら、断れないくせに。つい手助けしすぎて、いつも後悔してるでしょ。まあ、私はそんな変な神様がいいですけど。」
「君は変わり者だからね。」ちび神様と狐は笑った。
「ちび神様。神様やる気になりました?」
「ううん。」
「はやくまたいつもの元気なちび神様になればいいのに。」狐は残念そうに言った。
「いつもこんなだよ。元気なのは昔の話。・・・でも、お隣さんの神様にはなりたいかな。」
「お隣さんの神様?」
「前に来た娘さんが言ってた、普通のお隣様の神様。流行らないかな。」
「そりゃあ。人間じゃないんですし。一応神様なんですから。」
「そうなんだよ。大変。願いがかなわないと困るものね。」ちび神様は笑った。
「そりゃあ。でも、叶わないとしても、悪い神様じゃなければいいです。自分のために人間を使うような」狐は村の方を向いていった。
遠くで、「信じるだけで全ての願いが叶う!」と、叫び声が響いていた。
ちび神様は悲しそうに見つめた。
「信じるだけで叶う、か・・・。でもさ、叶わないからこそ、願いって願いだと思うんだ。いつでもお金持ちになれたら、きっとお金があるのが当たり前になって、お金じゃ幸せにはなれなくなるから。」
「あー、どこかの神様が、そんなの言ってた気がしますよ。」
「人間、願うから叶わないと悲しいんだって。だから、願わなければ、失うこともない。なのに賽銭箱やご利益グッズがあるんだよね。まあ、そういうのが好きな神様も多いけど。敬われたら、僕も調子乗ってしまうし。まあ一応、賽銭箱は、自分たちの代わりに社を守ってくれてる人への感謝の気持ちだったり、お守りも、縁を感じて安心するためのお守りだったりするから、悪いことじゃないんだけどさ。」ちび神様は笑った。
「でも、そりゃ、祈りたいですもの。お金払ったら叶えてくれそうな気がするじゃないですか。それに、何を自分が願ってるか、たまには確認したいんですよ。人生って何してもいいですし。迷いも多いですしね。」
「でも、バイト君じゃないんだから、神様は。でも、教師の時は、成績はお金で買えって考えの塾もあったなあ。うーん。」
「夢や希望があるからこそ、人生は前に進むんじゃないんですか?その為の成績なら、買ったっていいじゃないですか。」狐はつんとした顔で言った。
「夢や希望が叶わない人生も、きっとそれは人生なんだよ。それでいいんだ。」
「それ、前世の先生だったちび神様に言ってあげたらどうですか。」狐は意地悪を言った。
「それで前向きになれるほど、明るい気分ではなかったもの。」ちび神様は言った。
「今も前も、一緒ですね。」
「・・・そうだね。一緒。神様は意地悪だね。」ちび神様は笑った。
「ちび神様は、今は何がしたいですか?」狐は尋ねた。
「僕は・・・なんだろう。欲望をなくす練習をしすぎて、わかんなくなった。」
「ふふ。じゃあ、きっと何でもできますね。決まってないなら、選び放題!」狐は笑った。
「神様にも、選び放題ってあるのかな。・・・したいことができたら、古い神様にお参りにでも行こうかな。」ちび神様は笑った。ながれの神様の声は、次第に遠ざかっていった。
ながれの神様が去った後、いくつかの不幸が続いた。人々はタタリを恐れて、新しい社を立てて、誰かわからないながれの神様のごきげんをとった。ちび神様も、こっそり皆の平和を祈った。古い神様は、ながれの神様の社に印を結び、その力を封印した。ちび神様の社は、いよいよ形がなくなりつつあった。




