ガトゥ・バラディンという男 4
「私はアメリカで生まれ、幼年期、青年期を過ごし、二十二才の時、泥沼化するベトナム戦争に従軍した」
話を進めるガトゥの瞳は深い悲しみに満ちていた。
「私は冷戦の真っ只中、戦地に送られベトナム兵と必死に闘った」
祐樹はガトゥの話をひたすら聴いていた。ガトゥの口調には哀しみが滲んでいる。
「私はイデオロギーなんてどうでも良かった。ベトナム人への憎しみなんてものもまるでなかった。私はただ家族と祖国を守るためだけに闘った」
ガトゥは寂しげな瞳をして唇を撫でる。
「私はただただ多くのベトナム兵を殺し、凄まじい戦闘を幾度も経験した」
ガトゥの瞳は温かく、自ら犯した過ちをも許すようだった。
「結果、報復のターゲットとなった私の部隊は、激しい奇襲に遭った」
ガトゥは懐かしむように腹部に手をあてる。
「私は腹部に重傷を負い、生と死の境目を彷徨った。そして私は長い闘病の後、歩ける程に回復した。私は死の影を遠ざけたんだ」
ガトゥは少し悔しそうに目を伏せる。
「だがそんな私に下されたのは祖国への帰還命令だった」
ガトゥは全てを許すように微笑む。
「ただ歩けるだけ。もう私は戦力にはならない。用なしというわけだ」
ガトゥは辛い現実を否定も肯定もせず話していく。彼は自己弁護するつもりなどまるでないようだった。ガトゥは言葉を紡ぐ。
「負傷兵として帰国した私を待っていたのは愛国者への賛辞などではなかった」
ガトゥに一瞬だけ落胆が垣間見える。
「私を待っていたのは従軍兵を蔑む世論だった。私は歓迎されずに罵倒された」
淡々とガトゥは辛い現実を思い返していく。
「政府の犬、権力の追従者、殺人犯。罵倒の言葉は数え上げればきりがない」
ガトゥは未来都市を遠く見下ろす。
「私には反戦論者が勝手気ままで無責任な連中に見えてね。心底嫌になったのを覚えている」
ガトゥはそんな自分でさえも客観視していた。やがてガトゥは核心に触れる。
「そして反戦運動がピークを迎えた1969年、私は自宅の一室で意識と体が二つに分かれる不思議な感覚に襲われた」
ガトゥの瞳は少しだけ切なげだった。
「激しい痛みに襲われた私の『何か』が、その時壊れた」
ガトゥはエレベーターの硝子にそっと触れる。
「私は気がつくと見知らぬ展覧会の会場にいた。華やかな人々の賑わいが現実とは思えない輝きを放っていたのを今でも覚えている」
ガトゥは目を細めて懐かしむ。
「私はしばらく辺りを歩いて回った。人込みに紛れてやがて私は気付いた」
ガトゥの口元がほころぶ。
「その場所はパリ。時代は1900年。万国博覧会の会場だと。それが私にとっての、初めてのタイムワープだった」
ガトゥの表情が一際精悍になった。彼は切なさを噛み締めるように話を続ける。




