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イズー・マドクルウァ 4

 タイムワープをした祐樹とレリュはもう一度地下鉄の車内に足を踏み込んでいた。見るとダデュカが武器の手入れをしている。

「終わったのか? ……それなら、行こうか」

 レリュと祐樹は静かに頷く。いよいよ祐樹は幾つもの時間と場所を巡る旅の終わりに近づこうとしていた。

 その時ガトゥが手渡してくれたモニターから音声が聴こえてくる。祐樹はポケットから慌ててモニターを取り出すと映像を見た。

 ノイズ混じりだが、そこにはガトゥが映し出されていた。ガトゥの置かれた状況は緊迫しているようだが、彼の口調は落ち着いている。ガトゥは祐樹に語り掛ける。

「祐樹、タイムワープの能力が覚醒したようだな。見つけるのに手間が掛かった。今どうしてる?」

 祐樹は隠すつもりは一切なく、ありのままを伝える。

「今、紫紺の羽根団のダデュカさんとレリュさんといます」

 ガトゥは特段驚いてもいなかった。祐樹は続ける。

「イズーが、イズー議長が誰なのかが分かりました。彼こそ歴史を変えてしまった張本人です。俺達はイズーの支配を止めるために未来へ、そちらへ向かいます」

 ガトゥは「本当の事」についておおよそ「知っていた」ようだった。彼は納得して返事をする。

「分かった。中枢審議会のタワーは現在、プロテクトで保護されている。私がプロテクトを解除しよう。速やかに侵入するといいだろう」

 ガトゥの口振りには仄かな悲しみが滲んでいる。

「私は議長を本来の姿に戻すために、最後の説得を試みる。表と出るか裏と出るか、結果は分からない。その後出来るならば、皆で合流しよう」

 ガトゥは悔しそうだ。

「辛うじてバランスを保っていた議長の心は、狂わされてしまったのだろう。たった一人の女性の存在をきっかけにして」

 その言葉を最後に映像と音声は途絶えた。ダデュカは無言で武器を掲げる。レリュはプランを説明する。

「タワーのプロテクトは二重、三重に仕掛けられている。ガトゥが解除出来るのは一部分に過ぎないはず」

 そしてレリュは左腕のタトゥーを見せる

「私のタトゥー『羽根』の力を使って、プロテクトを解除する。その時私は、大きなダメージを受けるかもしれない」

 レリュは覚悟を決めたようだ。

「ただ私には構わず進んで」

 ダデュカは暗黙の了解のようにレリュの言葉を聞いている。彼は武器の最終チェックに専念している。祐樹はレリュを気遣う。

「レリュさん……」

 だがレリュは祐樹の言葉を遮って祐樹の頬を軽く撫でる。

「祐樹、あなたは大切なキーパーソンよ。あなたの歴史の近くで、21世紀日本で大きく時代が動き始めたのには変わりがないのだから」

 レリュは優しく微笑む。

「あなたにタイムワープの能力が与えられたのも何かの運命。多分……、あなたとイズーは一つ。背中合わせ。裏表の関係にあるのよ」

「……」

 レリュの言葉を前にして口をつぐんた祐樹の唇に、彼女は右人差し指で触れる。

「あなたはガールフレンドを助ける事だけを、考えればいいのよ。分かった?」

 話が一段落ついたのを見計らってダデュカが口を開く。

「よし、二人とも俺の腕を強く握って離さないでくれ。今度のタイムワープは身心共に大きな負担を強いられるだろう。覚悟してくれ」

 祐樹とレリュはダデュカの腕を握り締めた。ダデュカは妖しげな野性味を漂わせて、心を一つにしていった。

 次の瞬間、旅の終わりへ向けて大きく風が「振れた」。そして同時に祐樹は体に凄まじい圧力を感じた。


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