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質疑 1

 祐樹は瞬時にビルが立ち並び、車が行き交う都市に連れて行かれた。祐樹の隣にはガトゥが立っている。ガトゥは祐樹に早速要件を告げる。

「とある新聞紙の記者が私達へコンタクトを取って来た。ラングレーを告発する文書が正しいか確かめるためだ」

 ガトゥは自信ありげに祐樹を後押しする。

「交渉は君がやれ。心配はいらない。告発文書を書いた時に、刻み込んだ知識があれば乗り切れる。状況は私達の狙い通りだ」

 ガトゥは気高い口振りで祐樹に伝える。

「カフェショップ『オマージュ』へ行け。そこのカウンターでマスターにカプチーノを注文しろ」

 祐樹は目まぐるしい展開に息を飲む。

「カプチーノ?」

「そう。すると『泡の量は?』とマスターが尋ねて来る。『溢れるほどに』と答えろ。そうすれば記者と引き合わせてくれる。行け。この勝負の勝利を決定付けるために」

 ガトゥは祐樹を励まし、力づける。祐樹は襟元を一度正すと、見知らぬ都会の街並みへと迷い込む。そして祐樹はすぐに、目の前200メートルほどの距離に、「オマージュ」の看板が掲げられているのを見つけた。

 祐樹は自分を奮い立たせて足を踏み出していく。自分が変えてしまった歴史を元通りにするために。そう。その思いだけで祐樹の心と体は動いていた。

 祐樹はオマージュの店内に入る。店の中は煙草の煙で白くくすんでいた。客層は貧しい人々が多いようだ。

 マスターは祐樹の姿を目に留めたが、関心がなさそうに視線をそらし、グラス磨きに精を出す。祐樹はオマージュには不釣り合いな若者だった。そのせいか客の一部が不愉快そうな視線を祐樹に投げ掛ける。

 それでも祐樹はためらわずに、カウンターの一席に腰を降ろす。そして一言、マスターにこう注文をした。

「カプチーノを」

 マスターは一瞬、眉をピクリと動かして、怪訝な顔をする。記者との交渉相手がこんな若者だとは思ってもいなかったのだ。だがマスターはすぐに自分のやるべきことに心を向けたようだ。マスターは祐樹に訊く。

「泡の量は?」

 祐樹はカウンターのテーブルに両手を据えると、意を決して返事をする。

「溢れるほどに」

 マスターの顔つきが険しいものに変わった。多分スクープの仲立ちを何度もしてきたのだろう。マスターにとって祐樹は、最も若い交渉相手だったようだ。マスターはグラス磨きの手を止める。

「泡の量は自分で確かめて欲しい」

 そう言ってマスターは、祐樹をカウンターの奥へと連れていく。カウンターの奥には細長い通路が伸びていて、突き当たりで右方向へ曲がっている。

 マスターは祐樹の背中に一度軽く触れて促す。祐樹は心が震えるのを感じた。祐樹の手足には微かな痺れが襲っていた。

 突き当りを曲がった通路の先にある階段が、狭い室内へと通じている。祐樹が一人、階段を降りて行くと、そこには一癖ある印象の男が待ち構えていた。


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