第1話 9歳 「また宿題を忘れた」
第1話 9歳 「また宿題を忘れた」
「ああああああああ、だーーーー」
入れたはずの漢字のプリントが山吹色のランドセルの中に入っていない。
夕べ、父がそばでついてくれて日課を揃えたはずなのに
「なんでーー?なんでだよーーー」
私は泣きそうになりながら、ランドセルから教科書やノートや筆箱を出して
机の上に並べた。
「おまえ、またかよー」
同級生の中村君があきれ返ったような声でつぶやく。
「まじ、つかえねーなー。鶏みたいなやつだよな。
何回言われてもおんなじことを何度もやる。
3歩歩くと忘れちゅうんだもんな」
「1年坊主ならまだわかるけど、3年生だよ。僕たち」
どうしようもない人間を見るような目で
みんなが私を囲む。
わたしは乱雑に取り出した教科書やノートの上に突っ伏して今にも泣きそう。
「馬鹿じゃないのに、不思議な奴だよなー」
校庭には夏椿がはんなりと水無月の風に溶けていく。
『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。
奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
猛き者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵におなじ。
9歳で平家物語を読んでいるおかしな子。
それがわたしだった。
人間なんだから多少の凹凸があるのは仕方ないとしても、
この段差は、この落差は何なんだ。
わたしはわたしにうんざりしていた。
どんなに頑張ってちゃんとちゃんとしようとしても
どこか抜け落ちてる。
それを克服しようとしてないならわかる。
でも、毎日寝る前、日課を調べ、忘れ物を確認して
着ていく服まで枕元に畳んで揃えているのに。
沙羅双樹の薄い花弁は何もなかったかのようにそ知らぬふりで揺れているのに……。
ああ、毎日毎日、大ポカの連続。
叱られて、怒られて、あきれられて。
この頃はもう、もう生まれてくるんじゃなかったとさえ思い始めていた。
できれば早く死にたいとさえ、布団をかぶってバスタオルを口にくわえて泣いた。
「一を聞いて百を知る」
耳は二つ、目は二つ、鼻の穴も二つ、口は一つ。
父は優しくいろんなことを教えてくれる。
李白や杜甫の漢詩だったり。
孔子や孟子の教えだったり。
そして、村始まって以来の天才と呼ばれた父と
女学校始まって以来の秀才と呼ばれた母の間にできたのが私だった。
「一番になれなきゃ、びりで卒業する方がまだまし」
落第するからだそうだ。
「鶏口となるも牛後となるなかれ」
うるさーい。
そうなりたくてもなれないんだよー。
それどころか、牛後さえむずかしいんだよー。
インナーワードが忙しい。
わたしはわたしが大嫌い。
父さまや母様を困らせてばかり。
そして、学校の先生をしている叔母たちは盆や正月の度に私の通知表の行動の欄を見ては
「勉強よりも、基本的生活態度が大事」
と上から目線で母を責める。
そりゃあそうだよね。
オール5に近くったって、行動の欄はオールCなんだから―。
びえーん。
誰も私が9歳で夜中の3時に起きて勉強してるなんてほめてくれない。
できてないものばかりつついてくる。
ある時、五右衛門風呂を焚いているときに
火吹きだけでフーフー吹いていたら頭がボーとして
少しの間、気を失った。
デジャヴ。
前にも、その前にもこうだった。
何度生れなおしてもいつも、忘れ物、遅刻、なくしもの。
そして、お豆腐を買いに行くと必ず転んで中身がぐちゃぐちゃ。
違う人生のはずなのに、中身だけはいつも同じ。
もうーーー。なんなんだよー。
ごめんね、十三不塔! バラバラ過ぎるローカル役満みたいな文章。
頭の中がパルプンテ♡




