第81話 査問会③
「ああー。全員落ち着いたところで、そろそろ冷静に話し合おうか。良いだろトシ」
タケさんの提案に、げんなりとしながらトシさんは応える。
「そうだな。天城のジジイのせいで気が削がれちまったよ」
「情熱は伝わるンゴ」
情熱っていうか、性欲なんだよね。
むふん、と満足そうにしているのを邪魔するのも可哀想だから、言わないけど。
「ホムンクルスも出来たっていうことは、いよいよ深層に行く準備が出来たってことで良いか?」
「はい。大変お待たせしました。近いうちに出発しようと思います」
俺の肯定に、皆が野心的な笑みを浮かべる。
待ちに待っていた計画のスタートに、我慢できなかったのだろう。
「いよいよ本格的な計画の第一歩か。年甲斐もなくワクワクしてくるな」
「ババア、テメェはどうなっても良いが楓太のことはしっかり守れよ」
「誰に向かって言ってんのよ。全員無事に帰ってくるに決まってるでしょ」
不敵に笑うミライさんに、誰も何も言わない。その実力を疑っている人は居ない。
必ずや、小畑会を飛躍させる情報を持ち帰ってくるだろうと、誰もが確信していた。
だからこそ、興味は別に移る。
「よし。じゃあそこは問題ないな。それで楓太。話を戻すが、グーフストリオのホムンクルスはいくらで譲ってくれる?」
「そうだ。収入が倍になると聞かされちゃあますます見過ごせねぇ。今すぐにでも売って欲しいくらいだ」
またホムンクルスの譲渡に話が戻り、皆が騒ぎ出す。だが、今度は争いではない冷静な取引だ。それなら俺がきっちりと話しを付けなければ。
「あれは今のレベルだと一日一体作るのが限界な上に、下手すれば失敗するかもなんですよね。作るのは深層から帰ってからでもいいですか? そうすればいくらか楽に作れるようになると思うんです」
【人工生命体創造】のレベルが上がったから、本当は作れるんだけどな。
だけど遠征前に、また魔力ポーションを作りまくるとか勘弁してほしい。やってらんねぇよ。
何も知らない皆は、素直にそれを信じてくれた。
「なるほどな。それなら後にしたほうがいいか。遠征前に無理をさせるのもな……」
「だけど値段は今のうちに聞いておきたいですね。どれくらいになりますか?」
マサ君の問いに、俺は悩む。
ゲロゲロ達の値段か……どれくらいが妥当なんだ?
マジで分からんので、仲間内でヒソヒソと話し合う。
「どう思う?」
「いや、性能は文句ないから、いくらとっても大丈夫だと思うが……」
「かといって、彼らを作る上で本来得られるはずだった金額まで請求すると、誰も買えなくなるよ?」
「いえ、性能だって考えものですよ。優秀なのは【学習】を覚えさせての話でしょう?」
「ゲロちゃんも遠征では本当に大変でしたし……初期状態で渡すのは。そうなると自然と頭の良い方ですけど、ますます値付けが難しくなりますね」
相談している俺達を愉快に感じたのか、トシさんが冗談っぽく笑いながら言う。
「おいおい。ここまで来て焦らすなよ。そんな難しく考えなくても、ホムンクルスの製作費用に技術料を足せばいいだけだろ?」
「とりあえず使った材料費から算出してみてはどうですか? あまり低いようでしたら僕らで適正な額を提案しますし」
援護するようにマサ君もそう言ってくれるし、それならまぁ言ってみるか。
「えっと、じゃあ――十三億」
――シン。
せっかく和気藹々とした空気が流れていたのに、一気に静まり返ってしまった。
やっべ。やっぱり素直に言うべきじゃなかったか……。
「ふっ、ははは! 流石に十三億はねぇだろ! 冗談にしてもリアルな値段にしないとな」
「あっ、冗談でしたか。やだな小畑さん、びっくりしたじゃないですか。ははははっ。……冗談、ですよね?」
トシさんに乗っていたマサ君が、恐る恐る聞き返す。
悪いんだけど、冗談じゃねぇんだよなぁ……。
「えっとですね。グーフストリオのホムンクルスを作るのに、設備的な理由で大量の魔力ポーションを用意する必要がありまして。ざっと計算したところ、十三億相当の金額になるんですよ。もちろん全部売り捌けたらという話ですけど、今はポーション類の供給が全然満たせてないから、間違いなく協会は全部買い取ってくれるので」
「それで、十三億ですか……いや、確かに納得できますが……」
「小畑さんの場合は薬草からポーションを作っている訳だし、実際に十三億かけて作る訳じゃないだろうが……いや、それにしてもその値段で売れる物を、わざわざホムンクルスにして渡す訳だしな。それに、その量のポーションを作る労力を考えれば……」
「〈錬金術師〉……いや。小畑さん、思った以上にとんでもない人だったな……」
兵藤さんが、なにやら畏怖の目で俺を見てくる。
いや、あの、たまたま作れる人が居ないってだけで、運が良かっただけです。強さって意味で、兵藤さんの方がずっととんでもないですよ?
「十三億……一回の取引で十三億か……もちろん毎回引き取ってくれる訳じゃないだろうが」
「俺らもそれぞれ年収で億を超えて、稼いでいる自覚があったのにな……格が違うわ……」
「やっぱり、お金を稼ぐなら商売なのね。本当に稼げる人は、人を使う側……現場で稼ぐ私達は所詮、働きバチってことなのね……」
「というかちょっと待て。まさかミライはその値でホムンクルスを買い取ったってことか?」
再び、ミライさんに全員の目が集まる。
その視線を浴びながら、ミライさんは微笑んだ。
「ふっ。ふっ、ふふふ……お願い、楓太君。なんだったら拠点も正式に譲るから、どうかベイグルを私から取らないでっ。あの子は……あの子はもう、私達の大事な家族なの……ッ! お願いだから……家族を離ればなれにしないで……ッ!」
「お姉さまっ! 泣かないでくださいっ! 気持ちは私達も同じですっ!」
「それに楓太さんは優しい人だからっ! ベイグルを私達から引き離すなんてひどい真似しませんよっ!」
顔を抑えて泣いているミライさんを、仲間の女性が肩を抱いて慰めている。
実に憐れみを誘う、美しい光景だった。
「騙されるなよ楓太! 明らかに嘘泣きだぞ!?」
「いや、さすがに騙されませんよ……」
トシさんに言われずとも分かるわ。そもそもミライさんが泣くとかありえないから。
だいたい四十のオバサンの涙なんかに何の価値もねぇ。あと俺の情を利用するやり口が気に食わねぇ!
とはいえ、俺も鬼ではない。
「今さら返せなんて言いませんよ。そもそもミライさんがグーフストリオの死体を獲って来てくれたわけですし。色々と協力してもらってますし」
「あらそう? なんだか悪いわね。でもありがとう」
「甘やかすな! しっかり金は取れ! 一度付け上がらせたら、コイツは何処までも要求が大きくなっていくぞ!?」
トシさんはミライさんにやはり厳しい。
でもまぁ、確かに甘やかして金を取らないのは違うか。
しかし、そこは良い意味で大人なミライさんである。トシさんに言われるまでもなく、自分からそれを提案した。
「ただで踏み倒すなんて美しくない真似しないわよ。ちゃんと正式に値段が決まったら、きちんとお金を払ってベイグルを迎えさせてもらうわ。ちょっとおまけくらいはして欲しいけど」
「おまけは置いておくとして……問題は値段ですよね。とりあえず、グーフストリオのホムンクルスが欲しい人は、材料の持ち込みをしてください。グーフストリオの死体と、大量の薬草です。特に薬草は大目に要求しますね。俺もかなり使うので、これにかこつけてストックを貯めて置くことにしますから」
「ああ、それで値段が下がるなら安いもんだ。遠慮なく要求してくれ」
「けど皆で一斉に集め始めたら、同じダンジョンだと下手すれば枯渇するわね」
「薬草類が多く取れるダンジョンで、被らないように話し合っておくか。あと、採るのは二層以降にしておこう。一層で活動する新人の飯の種を取る訳にもいかん」
俺が指示せずとも、皆で話し合ってスムーズに予定が決まっていく。この辺り本当にこの人達は頼もしいな。
しかし、これだけの探索者が集まって。皆で草刈りしようとしてると考えると、めっちゃシュールだな。
「で、素材持ち込みで値段を落とすのは良いんですが……その上で、適正な値段が正直分からないんですよね。ぶっちゃけどれくらいなら納得します?」
買ってもらう皆に値段を委ねるというのもどうかと思うんだけど、やっぱり分からないんだよな。
それぞれ悩んだ仕草を見せると、ぽつぽつと意見を出し始めた。
「どうだろうな。一千万とか? それなら普通に買うけど」
「バカかお前。それは安すぎるだろ。一億は払うべきなんじゃないか?」
「そこまで行くと結構キツイわね。それでも欲しいけど……」
「いや、実際一億はあり得る値段だぞ。考えても見ろ。良血のサラブレッドだって、中には二億三億で買われる奴がいるんだ。ダンジョンに入って荷物を運んで、いざとなれば逃げきれる。同じことが出来る馬が居るか?」
「そう考えると、確かに一億でも安いわね。収入が倍になるならすぐに取り返せるし。いや、でも普通に死ぬ可能性もあるし――」
皆で話し合った結果。グーフストリオ型ホムンクルスは一頭五千万ということで決まった。値段がこの程度に落ち着いたのは、まだホムンクルスにどんな問題があるか分からないからだ。もしかしたら短命ということがあり得るからな。
その代わり、持ち込みの材料である薬草を大量に納めること。そして各チームで俺からの指名があれば可能な限り依頼に応える事、ということを条件に含める。
そしてさらに、追加で一千万。計六千万払うのなら、【頑健】、【警戒】、【学習】のスキルを覚えさせた子を渡すことに決まった。
「それじゃあ、ミライさんはゲロゲロの分まで納めてくれたってことで、追加一千万円は相殺しておまけってことで」
「ええ。いいわよ。妥当なところだと思うわ」
「ゲロゲロって……それペットの名前か?」
「名前なんぞどうでもいいだろ。それよりそのスキルの話を詳しく聞きてぇな。【頑健】、【警戒】は分かるが、【学習】? そんなスキルが要るのか?」
なんとも言えない顔をしているタケさんをあっさりと流し、トシさんは怪訝な顔をしている。まぁ確かに【学習】なんて戦闘や探索で役に立ちそうにないからな。
実際はグーフストリオを使うなら何よりも重要な必須スキルだけどな! アイツらのバカさ加減を知らないからそんなことが言えんだよ!
これはちゃんと説明してやらなければならないな。俺達がどれだけ苦労したのかを!
「えっとですね、【学習】は――」
「そうね。私の感覚だけど、それがないとちょっと不便かなって程度かしら? 自信があるなら無くてもいいと思うわよ? あとで楓太君に【再錬成】を頼めば良い話だし、一度初期状態で試してみればいいんじゃないかしら? その方が欲しいスキルを自分で確かめられるでしょ?」
俺が言おうとしたところで、被せるようにミライさんが言った。
しかもその内容は、【学習】なしでも使えなくはないと誤認させるような言い方だ。微妙に嘘は吐いてない所が性格悪い。
詐欺もいいところなのだが、トシさんは一応それを信じたらしい。
「ほーん……なら俺らは【学習】無しでもいいかもな。ようはちゃんと躾ければいいって話だろ? そこのババアには無理でも、俺ならやれんだろ。それだったら【学習】より他のスキルを付けたい」
「確かにな。それに【警戒】はようするに【気配察知】と同じだろ? 俺らのパーティだと役割が被る」
「あとから直せるんだったら、本当に必要な物を付けたいしな。それを確かめるならやはり初期状態で連れまわしてみるのが一番か」
えっ。いや、あの……。
まずい、トシさんの発言で追従してしまう人がどんどん増えている。
訂正しようと口を開きかけたが、ミライさんが意味深な目を俺に向けた。言うな、という指示が伝わってきた。
このババア、自分と同じ苦労を味わせるつもりか。挑発的な言動とそれらしい理由はその為か。気持ちは分からんでもないが……いや、でもそれバレたら俺が怒られるんだが?
「楓太。その【再錬成】でどんなスキルでも付けられるのか? 何か問題はあるか?」
「え? ……いや、まあ【再錬成】事態に問題はないですよ。スキルも素材があればたぶんなんでも付けられます。あえて言えば、目的のスキルを見つける必要があるのと、俺が忙しくなるくらいですかね」
「そうね。楓太君の時間を奪う訳にはいかないし、【再錬成】は一回二千万くらい払わせればいいんじゃないかしら? これくらいでちょうどいいでしょ」
「二千万か……まぁ妥当か?」
「妥当だが、最初からおすすめを割安で貰うのもありか……」
「そうですね! 余計なお金もかかっちゃいますし、出来れば【再錬成】をやらない方向の方が助かりますね。あと、俺としては【学習】は要るんじゃないかなって思いますね」
ボソッと最後に付け加えてミライさんをチラリと見れば、小さく笑みを浮かべ頷いてくれた。どうやらぎりぎりで許されたらしい。
【再錬成】はしない方がいい。そして【学習】を付けた方がいい。俺はちゃんと言ったからな!? 気づけよ! 分かれよ!? それでもやるならどうなっても知らんからな!
「ん~、よし。それなら色々と考えておくか。どうせ作ってもらえるのも遠征から帰ってきた後だしな」
「確かに。それまでに資金の用意をしておきますか」
「ホムンクルスに関してはこの辺でいいか? それじゃあ俺から小畑さんに頼みがあるんだが、いいか?」
「なんです?」
気づいた人はいないかな……。
ちょっとした失望を覚えている俺に、世永さんは言った。
「ちょうどいい機会だし、ステータスの【鑑定】をしてもらえないか? 一人百万でやってくれるんだろ?」
毎度あり。
♦ ♦
「ヤマザキはつぎのレベルまであと49683じゃな。マツコはつぎのレベルまであと14236じゃな。リュウヘイはつぎのレベルまであと432じゃな。アリノはつぎのレベルまであと7842じゃな。このまま旅をつづけるかの?」
「「「「はい」」」」
「よし! ではいけ! ゆうしゃよ!」
四人が軽く頭を下げて、次の人に譲る。
ここに居るだけでも百人くらい要るからな。ふざけてないでちゃっちゃとやらないといけない。
「まじか。俺こんなスキル持ってたんかよ」
「いや、言われてみれば納得だわ。今までにも思い当たる節があるぞ。むしろこれからはそれを主体にした方がいいかもしれない」
「思った以上に力が低いな。ちょっとこれからは援護に集中してみようと思うんだが」
「いいんじゃない? 私は逆に前に出てみようと思う。立ち回りがガラっと変わるわね」
しかしまぁ、やはりステータスを知るというのは、皆にとって相当重要なだったらしい。
あちこちでパーティ内での相談の声が止まない。純粋に役に立てて俺も嬉しい。
ただ、一部では絶望に陥っている人も居るけどな……。
「俺の……今までの行動が……全部……裏目に……? そんなっ……今まで、俺は自ら……何のために頑張って……ッ!」
「世永! 気持ちは分かるけど元気出せ! なっ! 仕方ないってそれは!」
「そうだ! 役に立たないどころかむしろ有用だろ! いつか小畑さんがお前の嫁を用意してくれるから!」
その筆頭が、真っ先にステータスを聞いた世永さんだ。
膝を着き、涙を流しながら、天井を力なく見上げている。
まぁあんなステータスをしてたらな……そら誰でもああなるわ。
残念ながら、今の俺に彼は救えない。いつか救えるようになるその時まで、彼には強く生きて欲しい。
「やっと俺の番かよ。へへっ、随分と待ったぜ」
じゃんけんで負けたせいで、後ろの方に回されていたトシさんのパーティが、意気揚々と俺の前に来る。いつまでも世永さんを気にしてはいられない。俺は俺のやれることをしなくては!
「おおっ、トシよ! しんでしまうとはふがいない!」
「は? 死んでねぇが。むしろ殺しまくってるが?」
あっ。
「喋った」
「うん。喋ったな」
「あっ? なんだテメェら?」
「喋った! こいつ、はいといいえ以外で喋ったぞ!?」
「ゆうしゃじゃない! 異端者だ! 追い出せ追い出せ!」
「なにすんだテメェら! いや待て、そりゃねぇだろ!?」
「ああー、トシ。あのバカ」
「喋っちゃったら駄目だろうが。空気読めよな……」
順番待ちしていた人たちが、一斉にトシさんを担ぎ上げ体育館の外に運んでいく。同じパーティの人達がトボトボと追いかけていった。
ふざけんなぁあぁぁぁ~、というトシさんの叫びが妙に耳に残った。
駄目だよトシさん。皆少しでも早く自分の番が回ってこないかと考えてるんだから。隙を見せたらそりゃああなるって。
「楓太君~……ちょっといいかな~……」
トシさんと順番待ちの人達で揉めている間に、アキラさんが声をかけてきた。さらにマサ君と兵藤さんまで一緒にいる。
「グーフストリオについてなんだけどさ~……やっぱり楓太君的には~……【学習】付きがお勧め~……?」
「絶対にお勧め。無駄にお金を使う事になるんで、素直に【学習】付きを買ってください」
「やっぱりか~……それじゃあ私達はそれでお願いするね~……」
「分かりました。でも、いいんですか? 勧めておいてなんですが、カスタマイズを考えるなら確かに初期状態から考えるのも手ですよ?」
俺は絶対【学習】を勧めるけど、一応ね。
アキラさん達はそれぞれ顔を見合わせると、口々に理由を言った。
「なんとなくだけど~……ミライさんが意地悪な顔をしていたからね~……明らかに怪しい」
「小畑さんの必死なメッセージを感じ取りました」
「あの女が斧田に挑発されて大人しくしている訳がない。確実に何かある」
素晴らしい洞察力と警戒心。これが一流の探索者か!
あとマサ君は良い子だから今度おまけしてあげよう。
♦ ♦
【探索のヒント! その三十四】
〈シュガーレスファンタジー〉
『――この世界に、甘い物語はありえない』
株式会社ワンダーゲームクリエイションが手掛けたソシャゲー。愛称は〝シュガレス〟。
世界中の童話、御伽噺をモデルとしており、登場するキャラクターのほとんどがロリ系の美少女。
主人公の少年がそんな美少女キャラを率いて、夢の世界に閉じ込められた少女達を救っていく、というストーリー。
キャッチフレーズの通り、甘い物語はありえない。
各章を通してハッピーエンドでは終わらないことをテーマとしており、良くてビターエンド。悪いとメリーバッドエンドを迎えることになる。
ロリ系の有名イラストレーター達が結集し、その話題性だけで多くのロリコン共を引き付けた。
そんなロリ系美少女キャラが悲しい結末を迎えていくことで、キャラに愛着を持ったユーザーが離れるのではと危惧されていたが、むしろお兄ちゃんが見守らないでどうする、とロリコン共を奮起させることとなり、以来セールスランキング上位に名を連ねることになる。
とはいえ、リリース開始直後はそこまでの反応ではなかった。
むしろ一章、二章の段階では、
〝まぁ確かにビターではあるけどね?〟
〝ぶっちゃけキャッチフレーズ負け。言うほど悲しくないしきつくもない〟
とユーザーの間でネタにされる。
ところが第三章〈偽りのヘンゼルと無垢なるグレーテル〉が公開されその評価は一変。
〝なんでこんな可愛い子にこんな可哀そうなことが出来るの?〟と多くのユーザーの心に傷をつけてちょっとした炎上に発展。これが功を奏し大量のユーザーを獲得。
そして続く四章、五章を経て、癒えつつあったユーザーを更に傷つけたのが、第六章〈ザ・バブルマーメイド・ウィズ・ラブ〉。タイトルから予感されてはいたがそのあまりの救われなさに、
〝シナリオを考えた奴は美少女に恨みでもあんのか?〟
と、ユーザーに怒りを与えた。
ロリ系美少女キャラへの愛着。美少女達の悲しい結末を見守らなければという使命感。そしてディレクター兼シナリオ製作者である肥田野 流へのユーザー達の怒りにより、このゲームは支えられていた。
ところが、またこのゲームの印象が変わったのが、東京で行われたとあるゲームイベント。
そのイベントにシュガレスも参加することになり、なんとそこでディレクター肥田野のインタビューが行われると発表される。
今まで名前だけで一切の顔出しが無かった肥田野のインタビューということで、どんな顔をしているのか拝んでやろうとシュガレス過激派ユーザーが集まった。
怒りに燃えるユーザー達により、緊迫した空気が作られる。しかし、現れた肥田野を見て会場の空気はさらに一変。
女性としては高い身長。下品でない程度に膨らんだ胸、腰回り。流れるような黒髪に、思わず見とれてしまう美貌。その美貌を更に惹き立たせる眼鏡というアクセント。
名前からは気づかなかったが肥田野流は、ディレクター? いやいや、モデルだろ。と言われるような眼鏡美女だった。
あまりの美貌に集まったロリコン達も動揺するが、いや、あれはロリっ子を地獄に叩き落とす畜生だと気を入れ直し、インタビューに備える。
しかし、次の司会の質問でまた会場の空気は変わる。
Q、シュガレスのようなストーリーを作ったきっかけは何ですか?
A、婚約者に結婚式直前で婚約破棄をされたから。理由は自身がロリコンであるというカミングアウト。だから私とは結婚できないと。
当時は絶望のあまり、この世のロリコンと少女を地獄に堕とすことしか考えてなかった。そうしてシュガレスの原形を作りだした。ちょうど社内で行われたコンペにやけになって出したところ、何故か企画が通ってしまった。そして何故か今もそこそこ売れている。
ヒットして嬉しくもあるが、少女が苦しむ姿を喜ぶなんてやはりロリコンは理解に苦しむ。死んだ方が世の為になると思う。とはいえ、そんな彼らによって食わせてもらっているんですけどね。ははははっ。
婚約破棄されたことは今でも思い出したくないけど、あの当時の経験があったから、ここまで皆さんに愛されたゲームが生まれた。それを思えば、まぁ良い経験……だった……と……。
……良い訳ないよぉっ。本当に好きだったんだよぉ……っ! 本当に好きで……結婚したかったんだよぉ……! ロリコンってなんだよぉ……そんなのどうすればいいんだよぉ……! ふっ……うっ、うぇ……うぇぇぇぇん……ッ――
会場はお通夜となった。
ハッキリ言って事故としか言えないイベントとなったが、大の大人――それもロリコンですら認める美女がまるで子供のように泣き出した姿は、その場にいた過激派ユーザーですら同情と罪悪感が湧いた。
この情報が拡散されたことにより、満場一致で肥田野ディレクターを鬼畜扱いしていたユーザー達も、〝流石にあれはしょうがないよ〟派と、〝いやそれにしたって外道だよ〟派に分かれることとなり、それまでの怒りが一転、全ユーザーから愛される名物ディレクターに。
そしてこの事件で更に多くのユーザーを増やし、シュガレスを大人気ゲームへと押し上げることになった。
このシュガーレスファンタジーを本気で小説化したものが、カクヨムネクストにて連載中です!
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