第79話 査問会①
さて、査問会という恐ろしいワードを聞かされての、小畑会集会である。
場所は恒例となりつつある、公民館の体育館。
急だからたいして人が集まらんかも思ったが、全然そんなことはなかった。いや、もちろん何組かは姿が見えないが、どうやらたまたま仕事中でダンジョンに潜っているらしく、連絡を見てもいない人達らしい。
だが、そうだとしても――
「増えてね?」
おかしいな。連絡が届かなかったら減るもんじゃないのか?
というか、俺の知らない人が結構いるんだけど。
「信用のある奴らを引き入れるって話し合ったろ? 楓太の知らない奴らはその新入りどもだ」
「安心しろ。後で纏めて紹介するが、どいつもこいつも気のいい奴らだ。小畑会への忠誠も確かだぜ」
『よろしくお願いします!』
初めての人達が一斉に立ち上がり、頭を下げてくる。あ、はい。よろしくお願いします。
というか、査問会というから身構えてきたんだが、タケさんもトシさんもいつも通りだな。もしかして冗談だったのかな?
「あ。それなら俺も一人、仲間に入れたい人が居るんで紹介していいですか? 後で顔合わせしようと思って、今はこの近くで待機してもらってるんですけど」
突然、川辺がそんなことを言い出した。
思ってもなかった発言に、俺も伊波も目を点にする。
「え、何お前。そんな知り合いが居たの?」
「驚いたね。君からそんなに積極的に動くなんて。それだけの人なのかな?」
「ああ、間違いなく頼りになるぜ。ただ、契約書が無かったから、何の集会なのかは伝えてないんだよ。その人に小畑会の説明もしたいんで、いいですかね?」
川辺が伺うようにタケさん達を見る。
皆、意外そうにしつつも頷いてくれた。
「川辺さんがそこまで推薦する人なら良いんじゃないか?」
「ああ。いずれにせよ説明は必要だし、今なら俺たちで判断出来るからな」
「ありがとうございます。それじゃあ呼びますね。――あ、もしもし。今許可が出ましたんで、来てもらっていいですか?」
川辺が電話でその人を呼び出し、五分くらい経った頃。
体育館に入ってきたその人に、俺はギョッとした。
「――兵藤さん!?」
それは渋谷ダンジョンでの遠征で知り合った、実力者の兵藤さんだった。
最近では川辺が稽古を付けてもらったし、親交を深めているとは思ったが、まさかこの場に連れてくるとは!
「兵藤だと……?」
「また憎たらしい奴を連れてきたわね」
兵藤さんが仲間になってくれるなら頼もしい。俺はそう思っていたのだが、皆の反応は微妙……というか、やや険悪だ。
世永さんは険しい表情で睨み、ミライさんですら忌々しそうに彼を見ている。
え、なに? 兵藤さんって嫌われているの?
思わぬ空気に固まる俺だったが、そんなこと気づいていないかのように、川辺は兵藤さんの隣に移動していた。
「どうやらご存知の方も居るようですが、紹介します。俺の親友の兵藤君です」
「兵藤です。親友の川辺君に誘われて来ました。どうぞよろしく」
飄々と川辺に合わせて挨拶をして、兵藤さんは集まった面々を眺める。決して歓迎されてないだろうと分かっているだろうに、凄い胆力だ。
「タケに斧田。世永にミライ。若手のマサと拝賀。そして天城さんまで。他にもチラホラと知っている顔があるな。おいおい、川辺に誘われて来たが予想以上だな。こんなメンツを集めて一体何をするつもりだ?」
「兵藤。テメェ、俺らの前によくもまぁノコノコと顔を出せたもんだな。いつぞやの落とし前を付けてやっても良いんだぜ?」
トシさんの言葉を皮切りに、集まったメンバーのほとんどが剣呑な雰囲気を出し始める。
敵意を向けられているというのに、兵藤さんはフッと余裕のある笑みを浮かべて受け流した。それが更に皆を苛立たせるようだ。
ま、まずくないか? なんとかしないとっ!
「み、皆さん落ち着いてください。というか、なんでそんな敵意剥き出しなんですか? 兵藤さんに何かされたんですか」
「いや、兵藤さんというより……」
数少ない冷静な態度を取っているタケさんは、困ったような顔をする。
それに変わって、トシさんが指で兵藤さんを指しながら訴えてきた。
「こいつんところの連中に、何度も獲物を横取りされたことがあるんだよ! こっちはめっちゃ準備して依頼を受けてるってのによぉ! このハイエナ野郎共が!」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うな。指名依頼ならともかく、基本的に依頼は早い者勝ちだろ? それに横取りとは言うが、別にお前らが倒した魔物を本当に奪うような真似をしている訳じゃないだろ。ただうちの奴らの方が、お前らより早く依頼を達成しただけだ」
ん? そうなのか? だとしたらこれに関しては兵藤さんが正しくないか?
混乱する俺に、ミライさんが説明してくれる。
「深層に潜るような依頼を受ける時はね、バッティングしないように他の探索者の動向まで加味して動くのよ。依頼を先にこなされたら、その遠征にかけた資金と時間が無駄になっちゃうから。それでライバルがいないからと安心して、じゃあこの依頼を受けようってなった時に――」
「こいつの所から人材を借りて、他のパーティに先を越されることがあるんだよ」
世永さんが苦い顔をして引き継ぐ。
珍しくマサ君まで、同じような顔で補足した。
「僕も経験があります。同じところで活動している探索者を調べて、その戦力ではこの依頼は受けられないだろうって予想していたのに、いつの間にか先を越されるんです。ノーマークだから気づけないんですよね」
「俺はそんな経験ないンゴ」
「アンタはソロだからだろ。フットワークじゃ誰も勝てんわ」
自慢げにしている天城さんに、タケさんは呆れながら突っ込む。
優秀なのに悲しいおじいちゃんだ。
ダン、とテーブルを叩いて、トシさんが声を張り上げた。
「それも全て、こいつがくだらねぇ会社なんか作ったせいだ! 傭兵気取りのクソどもが! 群れねぇと何も出来ねぇだけだろうが! 探索者の風上にも置けねぇ奴らめ!」
「また的外れなことを言う。俺の会社に所属している奴らは、ソロで派遣される奴の方が多いんだぞ? 群れている訳じゃない。お前らより先を行くのは、うちの連中が揃って優秀なだけだ」
怒るトシさんに、むしろ兵藤さんは煽り返してみせる。それにトシさんだけではなく、皆が苛立った様子を見せた。
ま、まずい。このままだと本当に争いかねないっ。
「と、ところで、兵藤さんもお忙しいでしょうに、よく来てくれましたね? しかも内容は聞かされてないんでしょ? 川辺になんて誘われたんですか?」
「ん? ああ。今面白い計画を立てているから、仲間にならないかと言われてな。自信がありそうだから興味を持ったんだ。あとは小畑さんにもう一度挨拶をして、しっかりと縁を繋いでおきたかったのもある」
「あ、それはどうもありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
ああ〜、なるほど。まぁ都合の良い〈錬金術師〉はあまりいないしな。
納得しかけていた俺だったが、それと――と、兵藤さんはあっさりとした顔で続けた。
「合法ロリの嫁か恋人、愛人は欲しくないか? と言われてつい、な」
「――川辺ぇ! 貴様ぁ!」
やっ、やりやがった! コイツ、やりやがった!
小畑会にロリ勢力を増やす手を打ってきやがった!
川辺は計算通りと言わんばかりの、邪悪な笑みを浮かべていた。
「長い付き合いなんだぜ? お前が理由を付けてロリホムの作成を誤魔化そうしていることくらいお見通しよ。それに俺が何の手も打たないと思ったか?」
「ぬっ……ぐぅ……ッ!」
確かにその通りだ。やはり一人の大人として、こんなブタにロリっ子を送るのは罪悪感が耐えきれなかった。それをこんな奴に見透かされていたと思うと腹が立つ。
「楓太。俺もお前と同じだよ。理想の嫁を手に入れる為だったら、どんな手でも使ってみせる」
「くっ、このデブ……ッ! いや、だとしてもいつからだ? 一体いつから兵藤さんとそんな繋がりが……性癖の開示なんてリスクの高い行為をどこで!」
相手、タイミング、付き合ってからの時間。どれか一つでも間違えば、一気に信用を失うというのに。
混乱する俺に、川辺が目で兵藤さん合図する。
兵藤さんはポケットに手を伸ばすと、そこから小さなキーホルダーを取り出した。
「そ、それは……?」
「〝シュガーレスファンタジー〟。通称〝シュガレス〟のシンボルマークキーホルダーだ。ダンジョンで出会った時、兵藤さんが腰に付けていたこれを見て俺は確信した。この人は俺の同志だとな」
シュガレス――ッ! ここでそれが出てくるか!
ロリな美少女キャラが次々に出てくる、ロリコンほいほいのソシャゲで、川辺が今一番嵌っているやつだ。
ちょっとカッコいいとさえ感じるデザインなのに、そんなゲームのシンボルマークなのかよあれ。確かにダンジョンでも兵藤さんの腰元に在った気がする。てっきり自分の団員の証とか、そういう物だと思っていた。
そんな最初から動いていたのか。どうりで珍しく自分から交流を持ちに行くわけだ。
……というかこの人、歴戦の戦士ですみたいな雰囲気出しておきながら、そんなキーホルダーを堂々と身につけてたの? しかもロリ好きってこと? マジで!? 頭がバグりそうなんだけど!
少しだけ照れくさそうにしながら、兵藤さんは誤魔化すように顎を撫でる。
「語れる友人を作る為に、目立たない所に付けていたのが始まりだったんだが、意外とこれで多くの仲間が集まってな。ついには会社まで作るほど仲間が増えてしまった」
「何それ!? じゃあなに、〈戦士派遣団〉ってロリコン集団ってこと!?」
「マジかよ。ちょっと衝撃的すぎるんだが……」
「私達、そんな連中に一杯食わされてきたの……?」
「つぅか兵藤。あいつロリコンだったのか……」
「こんな変態共に俺達は負けていたのか……」
「一つ訂正させてもらおう。確かに俺達はロリコンだが、決してリアルで手を出すような変態ではない。その一線だけは超えないことを誇りとする紳士だ。もし仮に仲間からそんな奴が出た時は、社員全員でそいつを処断する覚悟がある」
そういう問題じゃねぇんだよなぁ……。
〈戦士派遣団〉の実態を知り皆が頭を抱えている。そりゃそんな集団に負けたとなったら屈辱だろうな。
しかしなんちゅう恐ろしい集団だ。幸運とはいえ、よくもまぁそんな集団のリーダーを引っ張ってこれたもんだ。それ自体は本当に褒めてやりたい――が!
「ここまでして自分の欲を満たそうとするか。見損なったぞ、川辺!」
「見損なう? 違うな、俺は何も変わっていない。ただお前が俺のことを分かっていない節穴だっただけだ」
「くっ――恥を知れ! この性欲塗れのブタがぁ!」
「ブヒィ……?」
こ、こいつっ! 挑発が上手くなってやがる!
伊達に戦士じゃねぇってか! ムカつく顔しやがって!
「ぬぐぐっ! 俺がバカだった。スキルとか最近の行動で勘違いをしていたけど、アイツの本性はこういう奴だった。まさかここまでやるとは……最低のクズめっ」
「恐れ入った。理想の嫁を手に入れる為とはいえ、奴にプライドはないのか……!?」
「いえ。普通に似た者同士ですよ」
「お二人は言う資格がないと思います」
七緒ちゃんもチヨちゃんも何を言ってるんだ!?
俺はロリに手を出そうとするような変態じゃないぞ!
大変心外だが、二人は白けた目を向けてくる。まじで同類扱いは止めてほしい。
「正直驚いたが、理由はどうあれ、兵藤さんが仲間になるのは頼りになるな」
「確かに。〈戦士派遣団〉の社員は百名以上いますよね? 兵藤さんの統率の下、実績は十分の探索者がそれだけ仲間になると思えば……」
「正気かお前らっ! 俺は反対だ! 百人以上のロリコン集団を仲間にするってことだぞ!? 内部から乗っ取られるわ!」
比較的冷静を保っていたタケさんとマサ君の意見に、トシさんが真っ向から反対する。今までの確執から来てるんだろうけど、真っ当な感性からくる反対意見ではあるんだよな。
俺としても、それだけの人数が小畑会に加入ってなったらちょっと困る。たぶん会員の過半数がロリコンってことになるだろ? ロリホムの要求を断り切れん……。
なるほど。政党が議席を増やしていくのってこういうことか。勉強になる。
「おいおい。話が勝手に進んでいるようだが、まだ俺はこの集まりに参加を決めた訳じゃないぞ」
兵藤さんは腕を組みながら、呆れ笑いを浮かべて言った。
「川辺の誘いと小畑さん目当てで来ただけで、まだ内容すら聞いてないんだ。俺も集団を率いる者として、責任というものがある。そもそもうちの連中は全員派遣社員みたいなもんだから、俺に絶対的な命令権がある訳じゃないしな。〈戦士派遣団〉の力を求めているなら、最低限アイツらを説得するだけの材料がないと。それとも――それだけの自信があると思っていいのかな?」
♦ ♦
「――これからどうぞよろしくお願いしますっ!」
とりあえず情報漏洩禁止の契約をしてもらって、全てを説明した直後の兵藤さんの言葉だった。
不遜な態度は何処へ行ったのか。まるで胡麻すりだけが取り柄のサラリーマンの如く、ピシっと綺麗に頭を下げての返答だ。
即落ち二コマって感じだった。
「えっと、いいんですか? いや、俺としてはありがたいんですけど」
「もちろんだ会長。任せてくれ。〈戦士派遣団〉全団員が加入することを約束しよう。ウダウダぬかすような奴がいたら力づくで納得させるから、心配するな」
いや、そこまではしなくていいんだけど。というか説得はどこいった。脅迫じゃねぇか。
真面目な話――と、兵藤さんはいつもの落ち着いた雰囲気に戻して続けた。
「【人物鑑定】、【魔物鑑定】によるレベリング計画。高レベル〈錬金術師〉である小畑さん由来のアイテム。そしてホムンクルスの可能性。どれか一つでも加入するのに十分な条件だ。小畑会とそうでない探索者とでは、隔絶した差ができる。いずれは日本を支配するであろう組織の戦力、その半分以上を俺達が担うことになるんだ。断る方がバカだろう」
「聞いたか楓太! こいつ早速武力支配を企んでるぞ! 絶対に入れない方が良いって!」
「トシ、もう諦めろ。普通にメリットの方がでけぇんだわ」
最後まで必死に抵抗するトシさんを、世永さんが宥める。
そんなトシさんに、兵藤さんはハッキリと言った。
「安心しろ。戦力をちらつかせて内部から支配なんて真似はしない。そもそも俺達は組織経営に興味がない。どいつもこいつも、自分のペースで探索したいときだけ探索するって奴らばかりなんだよ。その為に都合が良いから、うちに所属しているに過ぎない。むしろそんな責任のある立場より、ただの戦闘要員として使ってもらった方がよっぽど働きやすい」
はぁ~、なるほど。すっごく分かるわ。
俺も変に立場を得るくらいだったら、ストレスフリーで働ける下っ端でいたい。成り行きで小畑会の会長を務めている奴の言う言葉じゃないが。
「そして何より、そんな真似をして小畑さんの機嫌を曲げたら、ロリンクルスを作ってもらえなくなる。夢にまで見た合法ロリだ。このチャンスは絶対に見逃せない。うちの連中なら同じことを考える筈だ」
ロリンクルスってなんだよ……いや、分かるけど。
頭が痛くなる言葉を作らないでくれ。
「えっと。失礼ですが、先ほど実際に手を出すような真似はしない、って言いませんでした?」
「確かに言ったな。だがホムンクルスに人権は無いっ!」
かつての川辺と同じことを言いやがった。
ロリコンの思考はどいつもこいつも一緒なのか?
「ああ、いよいよ本格的に戦力が……もうどうしようも……」
東さんもなんだか絶望した表情で天井を見上げている。
常識人としては、ロリコンが集まるのは避けたかったか。俺も同じ気持ちだけど、お互い大人だし利益を取ろう。労う為に今度飲みに誘ってみようかな。
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