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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第二章 小畑会結成

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第64話 ワクワク小会議①

「おはようございまーす。お邪魔しますね!」

「ピッピエー」

「ウォンッ!」

「吠えるな! 挨拶はいいから早く入って!」

「うちの子達がすみません……」


 拝賀に脅された翌日。本来は休みの予定だったが、ことがことなので俺の家に集まって経過報告ということになった。

 

 川辺と伊波は既に中に居り、そして今、七海姉妹がピーちゃんとマルを連れてやってきたところだ。


「誰にも見られなかった?」

「はい! 幸い住人の方とは会いませんでした!」


「そう。それなら良いんだ。覚悟していたとは言え、ペット禁止の部屋に犬を入れるのはやっぱり緊張するな……」

「ご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ありません」


 七緒ちゃんが深々と頭を下げる。

 いや、そこまで謝る必要はないんだけどね。昨日の今日でマルだけ引き離すのも可哀想だし。


「そういえば昨日は大丈夫だった? ホテルは見つかったの? 詳しくないけど、ペット可ってなると中々無いんじゃない?」

「いえいえ、意外にありますよ! 予約なしでも普通に空きがありました! 綺麗なお部屋で快適でしたよ!」

「値段は最低でも二万以上のところばっかりだったので、そう何日も泊まっていられないんですけどね。早く引越し先を見つけないと……」


 七緒ちゃんの黄昏た表情に、隠しきれない悲しみを感じる。 避けられない出費とはいえ、二万は痛いよなぁ。

 流石にはしゃぎすぎたと思ったのか、チヨちゃんは申し訳なさそうに言った。


「ごめん、お姉ちゃん。きつくなったら私とマルでダンジョンに泊まるから」

「だから言ってるでしょ。そんなバカなこと考えるんじゃないの」


「力になれずにごめん。一時こうして避難させるのはともかく、流石に泊まらせるのまでは……」

「早く物件を見つければそれで解決なので、気にしないでください。そこまでお世話になるわけにはいきませんし」


 まぁそれもそうだな。ペット云々以前に、若い女の子をこんなおっさんの家に泊めるわけにもいかんしな。


 しかしそんな都合のいい物件がすぐに見つかるものか? 本当にダンジョンに泊まるハメになってもおかしくない気がする。


 ……お互い拠点探しは大変そうだね。


「それで、昨日の事なんだけどさ――」


 何も知らない二人に、俺は昨日の拝賀の件について全て話した。

 最初は神妙な顔で聞いていた二人も、最後の方には拍子抜けしたように、短いため息を吐き肩の力を抜いていた。


「似たようなことを考える人は居るものですね」

「心配して損しました。それにしてもなんというか、ちょっとおマヌケさんですね」

「そう言わないでやってあげて。おかげで俺も助かったようなもんだし」


 優秀だったら、本当に何も出来ず配下にされていたか、殺されてもおかしくなかったんだから。マヌケでいてくれてありがとうと感謝すべきところだろう。


「今頃タケさん達がシメてくれているはずだから、俺達にやれることはない。というわけで、せっかく集まったことだし今後の方針を確認するのと、今回の遠征の反省会でもして今日は終わろうかなと」

「いいぞ〜。やろうやろう」

「正直なところ、最近この手の会議を楽しんでいる自分がいる」


 分かる。キャラ育成している感覚になるし、目に見えて結果に出てくるから計画を立てるだけで楽しいよな。

 ましてやこれがホム嫁に繋がっていると思うとな。うぇへへへっ!


「今回の遠征を通して、今すぐにでも必要な物が判明した。順番に並べると――」


 1:素材となる魔物の運搬方法。

 2:ホムンクルスを作成する拠点の確保。

 3:ホムンクルスを作成するための設備。

 4:拠点用巨大錬金釜の導入。

 5:遠征を快適にする技術習得。または備品入手。


「とまぁこんな感じだな。1に関して具体的にいうと、グーフストリオを丸々運ぶことだ。これが出来ないことには乗り物用のホムンクルスがそもそも作れない」

「最初から気づけって話だけどな」

「黙れデブ。どんな天才だってミスはする物だ」


 うっかりしてたんだからしょうがねぇだろ。意外とその時にならないと分からないもんなんだよ。


「ただまぁ、これに関しては正直そこまで心配していない。小畑会の誰かしらにお願いすればいいだろ」

「そうだね。ポーションを対価にすれば喜んでやってくれるだろう。なんだったらタダでも良さそうだ」


 確かにな。気にすんなよって笑いながらプレゼントしてくれる光景が想像できる。流石に申し訳ないからなんらかのお礼は渡すけど。やっぱりポーションが一番良いよな。


「というわけで、1は問題なし。あとは3、4の設備関連なんだけど、これは2の拠点を確保しないことには始まらないんだよな。1もだけど」


 全部拠点があってこそのものだからな。場所がないのに物だけ揃えてもどうしようもないわ。


「なので俺達がまずすべきは、ホムンクルスの実験が思う存分にできる拠点の確保です。とりあえず不動産を当たるが、最悪これも小畑会の面々に助けを求めます。なので今すぐにどうこうできる問題ではございません!」

「うーん。この肩透かし感よ」

「はっきり言って興醒めだよね。僕のワクワクを返してほしい」


「でも実際、物件探しは大変ですよ?」

「そうです! そんな簡単に見つかれば苦労しませんっ!」


 流石に同じ悩みを抱える姉妹よ。よく分かっている。

 それに比べて理解の無い野郎どもの、なんと頼りないことか。


「とまぁそういうわけなので、今出来る5番に集中したいと思います。今回の遠征の反省会も兼ねて、問題を洗い出そう。ぶっちゃけさ、遠征やってみてどうだった?」

「私は楽しかったですよ〜! マルとずっと一緒にいられたし、ピーちゃんもすっごく強くなりましたし!」

「まぁ新鮮ではありましたね。もちろん疲れはしますけど」


 姉妹は思った以上に楽しんでいたようだ。やはり田舎育ち。文明の未発達な土地で生きてきただけのことはある。バイタリティが違う。

 では、都会人たる俺達はどうか?


「俺も新鮮で楽しかったよ――最初は。正直、後半は早く帰りたくて仕方なかった」

「俺も。携帯食料も意外と食えるけど、もうちょっと旨いもんが食いたくなってなぁ。ラーメンとか。ハンバーガーとか。牛丼とか。ポテチとか」

「僕は寝床が硬いのがどうにもね。やっぱり柔らかいベッド。最低でも布団がないとぐっすり眠れないよね」


「この人達は本当に……」

「探索者の風上にも置けない人達です……」


 姉妹は揃ってジト目で俺達を見ていた。

 仕方ないやんけ。これがインドアオタクの本音だもの。


「キャンプでの飲食が特別旨いわけじゃないと分かっちゃったのが悪いよね。あそこが分水嶺だった。これ別に家でもいいじゃんって思ったら、不満が次々と湧いてきちゃってさ」

「美味しいですよ。悪いのは料理や飲み物ではなく、貴方がつまらない人間だからです」


「雰囲気であっさり騙されるなんて、田舎育ちの子は単純に出来ているようで羨ましいね」

「おいおい、よせよ伊波。この子らにはそれくらいしか楽しみがなかったんだ」

「自然の良さを感じ取れないなんて、哀れな人達です。都会で過度な情報を頭に叩き込まれた挙句、それを役にも立てず人として大事なものを無くしたんですね。とても可哀想……」


 またしても都会育ちと田舎育ちで冷戦が始まりそうな雰囲気だった。これ以上はやめよう。収拾がつかなくなる。


 というか、怒らせたチヨちゃんの舌鋒が鋭すぎる。何も言い返せないし、これ以上がきたら立ち直れなくなるわ。


「でも真面目な話さ。遠征を快適に過ごせる――とまでは言い過ぎかもだけど、ストレスを軽くしないことにはこれ以上の長期スケジュールは組めないよ」

「それはその通りだよな。あれ以上の長期遠征とかやってられん。調査だけなら楓太だけミライさんに同行すればいいかもだけど、俺達のレベルも上げるようになるには、どの道より深い層に潜らなきゃだし」

「諦めるという選択肢はないからね。その辺りの対策は必須だ」


 男達の考えは一致しているようで何より。ダメならダメで少しはマシになるようにしないとな。

 そんな俺達を見て、七緒ちゃんは頭を押さえながらため息を吐く。


「そもそも皆さんが弱すぎるのが問題といいますか……」

「お姉ちゃん、対策しようとするだけマシだよ。それで、具体的には何をするんでしょう?」


「身も蓋もない言い方だけど、慣れるしかないよね。技術にしろ旅の経験にしろ、そこは回数を重ねるしかないでしょ。ただ不満解消の為に装備、道具の充実は出来る。その為に何の道具が必要なのかをリストアップしなくちゃいけない。という訳で、具体的に不満に思った点、欲しい道具を思いつく限り述べなさい」


「不満ね~。まぁいろいろとあるけど……」


 川辺が数秒程考え、サラッと言った。


「飯がまずい」


 打ち返すように、伊波が続いた。

 

「寝床が固い」


 不満のラリーが始まった。


「暑くて寝苦しい」

「虫がうざい」

「歩くのが怠い」

「洗濯が面倒くさい」

「暇な時間が多い」

「もっと気軽に水が使いたい」

「やっぱり数日経つと臭い」

「大自然の中でのトイレは抵抗がある」


 うん。やはりこの二人の意見は的確だ。全て参考になる。


「よく次から次へと思いつきますね」

「つくづくアウトドア適性のない人達です」


「まぁまぁ。逆に言えばそれだけ正しいことを言っているということになるし」

「他人事みたいに言ってますけど、楓太さんも同類ですからね」


 七緒ちゃんにバッサリ斬られた。冷たい。


「とりあえず次は携帯ゲーム持ち込むわ。夜の暇な時間が長すぎる。特に見張りとか。ただぼーっと焚火を眺める虚無の時間は、俺、何やってんだろう……って人生を振り返ることになる。辛い」

「僕もそうしよう。積んでるRPGがいっぱいあるし、ちょうどいい」


「こらー! 探索舐めてんじゃねーですよっ!」

「あの、見張りで遊ばれるのは私も怖いので……」


 気持ちは分かるけど、流石に命に関わることだからな。気持ちは分かるけど。


「水とかトイレとか、どうしようもない問題もいくつかはあるけど、他は工夫の余地がありそうだな。それらしいキャンプ道具でも探してみるか」


 本当はこのへんが解決出来ればと思うんだけどな。

 トイレ問題は羞恥心とか心理的な問題だから仕方ないとして、水は思った以上に必要だった。


 単純に飲むだけじゃなく、洗濯にも使う。手洗いにも使う。いざその時になってみると予想以上に水は使う。だけど持ち運べる量に限りがあるし、ジャブジャブと贅沢には使えない。


 他の探索者はダンジョン内で水を汲んで簡易的なろ過装置を使ったり、【魔術】関連で水を生み出したりとして補っているようだ。前者は場所によっては不可能だし、後者は伊波が覚えるということもできるが、リソースをそこに振っていいものかという悩みがある。


 いや、待て。氷を作ってもらって溶かせばいいのか? あれ? 実は簡単に解決できた?

 ……次の機会に試してもらおうか。


「いや、キャンプ道具を探す前にさ、まず【錬金術】で作れるか確かめろよ」


 呆れた顔をしながら、川辺が言った。


「マジックアイテムっぽい物だったり、そういう商品が無かったりした時は別だけどさ。お前、基本的に日用品とかそれに近い物は買うみたいな思考が癖になってない? 作れ作れ。なんでも作れるのが器用貧乏の〈錬金術師〉だろうが。唯一の長所を活かさんでどうする」


「買うって発想が悪い訳じゃないけどね。自分のアイデアを形にできるのが生産スキルの本来の使い方だって、〈蒸発薬〉を閃いた時に君も言っていたじゃないか。何か欲しいと思ったら【錬金術】。こういう考え方に改めた方が良いと思うよ」


 ……ぐぅの音も出ねぇ。確かにその通りだ。


〈錬成薪〉はカタログで見て存在を知っていたから作ったし、〈蜘蛛糸玉〉もマジックアイテムだし【錬金術】で作ろう、と自然と考えたからな。生産職失格にも程がある。


「……さ、最初から恵まれすぎると、遠征の常識を知ることができないと思っていただけだから」

「秒でバレる嘘を吐くな。今の話をしているんだ、俺は」

「とりあえず、調味料でも作れるか試してみたら? そのくらい気軽に【錬金術】を使う癖をつけた方がいいと思うよ」


 調味料って、一気に家庭的になったな……。

 まぁやるだけならタダだし、やってみるか。流石に醤油が作れるとは思えんが。

 数百年もの歴史ある日本を代表する食文化の研鑽の証やぞ! 作れるもんなら作ってみいや!

 

 では――醤油。

 

「――嘘だろ。マジでレシピが出てきやがった」

「え? 作れちゃうのか?」

「本当に? 冗談のつもりだったんだけど……」


「ふん、知らんのか? 【錬金術】は台所から始まったのだ。無知な奴らめ」

「自分の力も使いこなせないお前が言うな」

「僕達が指摘しなければ気づかなかった無能の癖に」


 二人掛かりでちょっと酷くないか? いや、実際俺も驚いているんだけどさ。

【錬金術】で醤油って、どんな反応をすればいいんだ……。


 困惑する俺達とは逆に、七緒ちゃんとチヨちゃんは嬉しそうだった。


「へぇ! 本当に作れちゃうんですか? 味はどうなんでしょうね?」

「そのお醤油を使った料理食べてみたいですっ! あ、材料が貴重だったりするのでしょうか?」


「いや、渋谷ダンジョンのどの階層でも生えてる草を使えば簡単に作れるっぽい。……草? せめてそこはダンジョン産の大豆だろ」


 大豆を使わない醤油って、それもう醤油じゃなくないか? 醤油味の何か、ってことなのかな?


「醤油が作れるなら……味噌」


 ――作れる。


「砂糖」


 ――作れる。


「酢」


 ――作れる。


「塩」


 ――作れる。って、待て。


「塩は石材とか鉱石も材料になるのかよ。いや、岩塩って考えればまぁ分かるか」

「いや何気に凄くね? お前が居れば遠征でも調味料に困らないじゃん」

「これからは店で買う必要もなくなるから節約にもなる」


「すごーいっ! もう料理には困らないですねぇ~!」

「本当に凄いです! 羨ましい!」


 料理を好んでするだけあって、女の子二人の感動が大きい。

 いや分からんでもないけど、こんなんでそこまで喜ばれてもな……。


 微妙に喜びきれないで居ると、伊波が期待に目を輝かせた。


「ちょっと片っ端から調べてみようか。遠征に持っていけるような、マットレス、テント、虫よけ、消臭剤、携帯トイレ、ろ過装置、洗濯機」

「いや、そんな一気に言われても……おい! 大体作れるんだけど!」


 魔物素材を使用したマットレス、テント。各種植物素材での虫除け、消臭剤。マジックアイテムの一種だ。きっと効果も大きいに違いない。個人的に特に驚いたのは携帯トイレにろ過装置。どちらも複数種類の素材が必要になるが、まさかこんな物まで作れるとは!


「マジで凄いな。遠征のQOL爆上がり。これは本気で追求すれば自宅に限りなく近い環境が作れるのでは?」

「おおっ、まさかここまでとは」

「君が神だったか」


 男二人がまるで救世主でも見るような目を俺に向ける。引きこもりオタクにとってはね。そらそうなるよ。


「トイレが便利になるのは本当に助かりますね!」

「うん! やっぱりちょっと恥ずかしいからね!」


 そしてこの問題に関しては女性陣の方が喜びが大きい。男よりよほど切実だもんね。


「でも流石に洗濯機は作れないか。出来たら洗濯する必要もなくて楽だったんだけどな」

「ふむ。タライと洗濯板なら作れるんじゃないか?」

「それは作れそうだけど、そこまでして持ち込む必要があるのか……」


 荷物を持てる量には限りがあるからな。それにそれを持ち込んだところで洗濯することには変わりないし。それなら着替えを多く持って行った方がいいのではないかと思ってしまう。


 微妙なところだと悩んでいると、川辺が怠そうに呟く。


「いっそ洗濯が必要なくなれば良いのにな」

「アホか。そんなの出来たら苦労しねぇよ」


 本当に出来たらどれだけ良かったことか。独身が泣いて喜ぶわ。

 呆れた目を向けていると、七緒ちゃんがおずおずと声を出した。


「あの、本当に無理なんでしょうか?」

「え? いや、無理でしょ。どんな物でも汚れることは避けられないでしょ?」


「いえ、そうではなくて。例えば、自動洗浄みたいな効果を持った服とか作れないのかなって。マジックアイテムならありそうじゃないですか?」

「それは……」


――マジでありそうだな。


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― 新着の感想 ―
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