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アラサーからのダンジョン探索~英雄は目指さない。マイペースに遊びながら稼ぎます~  作者: 迷子
第二章 小畑会結成

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第54話 遠征⑥

「あー、疲れた。結構神経使うなこれ」


 七緒ちゃんのアイドル成長イベントを迎えた後、俺達は無事にキャンプ地まで戻ってきた。

 戦闘こそ起きなかったが、頭が痛い。思った以上にこの【鑑定】の使い方には無理があるっぽい。まぁ本来の使い方とは明らかに違うしな。


 頭を抑えている俺に、チヨちゃんが心配そうに声をかけてくれる。


「大丈夫ですか? やっぱりムリしてるんでしょうか?」

「ごめん。正直しんどい。やっぱりピーちゃんに偵察を任せたいところだけど……」


 今のピーちゃんに任せるのもなぁ。

 心配だからなぁ。


「ピッ……ピピッ……ピ……ピィ……?」

「ぴ、ピーちゃん。楓太さんは心配してくれてるんだよっ」


「戦いでは役に立てないんだから、それくらいは我慢しろ」

「その通りだ。ピーちゃんの調子が悪い時くらい頑張れ」

「言ってくれるなお前ら……」


 戦闘以外では役に立ちまくりだろうが! なんだったら俺が居ないと成り立たないレベルだぞ! 誰のおかげでここまで来れたと思ってんだ!


 あくまでピーちゃんを気遣って俺をイジっているだけで、その辺はこいつらも分かってるだろうけどさぁ。


「おい、あれ」

「なんだよ? ――あ」


 階層の入り口が見えてきた頃、少し離れた場所にテントが張ってあるのが見えた。

 どうやら俺達が探索をしているうちに、先客が来ていたらしい。


 そこで焚き火を見ていた一人がこちらに気づくと、仲間に何か言って立ち上がる。そして、俺達の方へ近づいてきた。


「おい、やばくねぇかあの人?」

「明らかに高レベル。タケさん級だ。楓太、【鑑定】は絶対しちゃダメだよ」

「流石にしねぇよこんなとこで」


 人目のないダンジョンだ。バレたら間違いなく殺される。


 近づくに連れ、姿がはっきりと見えてくる。


 背丈はタケさんと同じくらいか。だが、タケさんよりはスマートな体型だ。鍛えた筋肉をギュッと凝縮させました、みたいな体つき。男としてちょっと憧れるわ。

 

 日焼けした肌には無数の傷が走り、顎から耳にかけて一本大きな傷跡が残っている。短く刈り上げた黒髪に無精髭。目つきは鋭いが、獰猛というよりも研ぎ澄まされた集中を感じる。敵を威嚇するというより、そこに居るだけで静かな圧があるような。


 歴戦の戦士……いや、雰囲気的には無骨な職人って感じの人だ。


 じっくりと観察していたら、その人はいつの間にやら俺達の目の前まで来ていた。そしてぶっきらぼうに声をかけてくる。


「見ない顔だな。新人か?」

「えっ。あっ、はい。小畑と申します。実は初の遠征でして。どうぞよろしくお願いします」


 バカな。なぜ俺が一番前に居る?

 チラリと後ろに目をやれば、四人とも気まずそうに目を逸らしやがった。気づかぬ間に盾にされていたらしい。


 嘘だろ? 一番弱い俺を矢面に立たせんの?

 特に川辺ぇ!! お前が前に出ないでどうする!?


 どう考えても失礼な態度だと思うのだが、意外にも戦士っぽい人は、気にした様子もなく頷いた。


「兵藤だ。見ての通り、今夜はここで休むつもりなんだが、お前達もか?」

「あ、はい。そうです。明日まで五階層を探索する予定でして」


「そうか。俺達は明日には地上に戻る予定だ。すまんが今夜だけは我慢してくれ」

「いえいえ! 滅相もない! むしろこっちは遠征に慣れてないので、経験豊富なベテランが側に居ると思うと心強いです!」


 当然の話だが、キャンプポイントではこうして他のパーティーと鉢合わせることが多々ある。その場合、お互い協力して過ごすことが推奨されている。


 その方が危険を退けられる訳だし、そもそもそのために場所が公開されているようなものだからな。助け合うのは当たり前だ。


 ただ、それもお互いの合意があっての話。中には魔物なんかよりよっぽどタチの悪い探索者もいる。芹澤とか。


 そういう相手の場合、こちらも身の安全を守るために突っぱねたりする時もあるから、それで揉めて争いになったりするらしい。難しいところだ。


 とはいえ、今回の俺たちにはあまり関係がない。まだまだ弱い俺達がこの人に喧嘩を売るような真似するわけにはいかないし、こうして挨拶をしに来てくれる常識のある人なら、むしろ寄生させてもらった方がメリットが大きいわ。


「しかし、その、なんだ。お前、弱くないか? 明らかに駆け出しレベルというか、一般人と変わらないように見えるんだが……」

「あ、あはははっ。その、実は〈錬金術師〉でして」


 一眼見て見抜かれる弱さよ。事実だし何も言い返せんわ。

 俺の返答に兵藤さんは一瞬驚き、納得したように頷いた。


「そうか。最近噂になってる〈錬金術師〉はお前か」

「え。噂になってるんですか?」


「生産職でレベルを上げてる変わり者が居ると聞いていた。他にそんな奴は一人もいないからな。噂にもなる」


 マジか。目立たないようにしないといけないのにな。まさか噂になるほどだったとは。


「しかし、そうか。そうなると……」


 兵藤さんは俺達を見回すと、川辺をじっと見る。

 川辺は怖気付きながら聞いた。


「な、なんすか?」

「〈戦士〉か? 前衛は一人か?」

「は、はぁ。まぁそうですけど。他にも前に出てくれる子もいますが、盾役は俺だけで――ん?」


 聞かれるがままに答えていた川辺だが、兵藤さんの装備が気になったのか、目を丸くして腰元を見ていた。

 お前なんて失礼なことをしてんだ! シャキシャキ答えんかい!


「そうか。それなら力になれるかもしれないな」


 兵藤さんはゴソゴソと胸元を探ると、名刺を取り出して俺に渡してきた。


「〈戦士派遣団フロントライン〉?」

「ああ。要するに探索者の派遣だ。傭兵団の方が分かりやすいか。実際は〈戦士〉だけじゃなく、いろんなジョブの奴が居る」


 兵藤さんは不器用に笑った。


「見たところ、前衛の盾役が少ないように見える。特にお前は〈錬金術師〉。守りを固めないといつ死ぬかも分からん。そうだろう?」

「はぁ。まぁそれはそうですね」


「そこで俺達だ。金さえ払えば見合ったやつを派遣する。スポットでもいい。必要な時、良かったら連絡してくれ」

「なるほど。その時はお願いします」


 兵藤さんは満足そうに頷くと、すぐに自分のテントに戻って行った。

 その背を見ながら、ポツリと呟く。


「コワモテなだけで、あんまり怖くない人なのかな? 世永さんみたいな」

「そうだな。きっと良い人に違いない」

「お前マジでふざけんなよ!? だったらなぜ俺の後ろに隠れた!?」


 良い人だと思ってんなら自分から積極的に行くべきだよなぁ!? しかもタンクだろうがお前ぇ! 俺を守らないでどうすんだぁ!


 わりと本気の抗議に、川辺は泰然とした仕草で答える。


「悪かったって。でも、話しているうちに確信したんだよ。この人は絶対に悪い人じゃないってな」

「話していたのは俺だし、それ以前に俺を突き出したことを反省しろや。他の奴はギリ許すとしても、お前だけは絶対やっちゃいかんやつやろがい!」


「分かってるよ。だからさ、詫びといっちゃなんだけど俺が親交深めてくるわ。今日の夕飯だけど、ちょっと多めに作ってくれね? 余りもんですが良かったら、っていう体で届けてくるわ」

「それ、受け取ってくれるか?」


 過去に同じ手法で毒を盛り、探索者を殺して身包みを剥ぐという外道行為を行った奴もいたらしい。


 あの人は経験豊富っぽいからな。その話は当然知ってるし、警戒するだろう。むしろ不快にさせないだろうか?


「その時は適当に誤魔化して世間話でもしてくるわ。ここは俺を信じろ」

「そこまで言うなら任せるけどさ……」

「かなり怪しいね。君、何か隠してない?」


 俺もそう思う。ここで許すと後で後悔するような気がしなくもないが……。

 まぁいいか。強い人と縁を繋ぐのは悪いことではないし、どうせ何かあったら犠牲になるのはこいつだけだし。

 いつになくやる気になっているなら、任せるのも一興だ。


 ♦   ♦


「静かだね〜」


 日付が変わり、もう朝方になる時間。

 見張り役のチヨは、ぼうっと空を見上げながら呟いた。


「不思議だね〜。ダンジョンの中にも空があって、地上と全然変わらないなんて。ダンジョンってなんなんだろうね〜」

「ワフッ」


 答えの出ない疑問に頭を悩ませたチヨだったが、膝の上に頭を乗せたマルに、イヒヒと笑いかける。


「別にどうでもいっか。こんなに広くて気持ちいい場所を散歩できるなら。マルも楽しい?」

「ウォン」

「そっか〜。良かったね〜」


 ぐしゃぐしゃと両手でマルの頭を撫でる。その手触りと、満足そうに笑っているマルの顔に、チヨの方も楽しくなった。


 そんな一人と一匹とは裏腹に、少し離れたところにポツンと居るピーちゃんは、いつもよりも小さく見えた。


「ピーちゃん。まだ落ち込んでいるの?」

「ピィ……」

「ふふっ。こっちにおいで〜」


 チヨに呼ばれ、ピーちゃんは気まずげに近寄り、差し出された指に飛び乗る。

 素直に従った彼に、チヨは嬉しそうに笑った。


「あのねピーちゃん。本当に落ち込まないで良いんだよ? ピーちゃんが頑張っているのは知ってるんだから」

「ピッ」


 頑張るだけじゃ意味がない。結果が伴わなければ。

 そう語るピーちゃんに、チヨは苦笑した。


「真面目だね〜。そこがピーちゃんの良いところだけど……でもね、本当にピーちゃんには助けられてるんだよ。今まで私たちが無事で居たのは、他でもないピーちゃんのおかげなんだから」


 それに――と、チヨは続けた。


「ピーちゃんならきっと大丈夫だよ。いつも頑張っているピーちゃんなら、必ず強くなれるって、私は信じているからね」

「ピー……」


 心からそう信じているチヨに、ピーちゃん――ピグマリオン二世は思った。

 強くなりたい、と。

 この想いが、最後のピースだった。


 下地は既に出来上がっていた。


 スライム虐殺と言う大胆姑息なレベリング法は、チヨ達のみならず、ピグマリオン二世やマルも大きく成長させていた。


 次の段階へ進むだけの経験を、ピグマリオン二世は得ていた。だがそれでも至ることは出来なかった。なぜか?


 彼が、本当の意味でそれを望まなかったからである。


 ピグマリオン二世はシングバードの王である。彼はそう自認していた。


 種族の頂きに立つ圧倒的身体能力。美しき容貌。そして卓越した知性。

 

 同種の仲間が苦労することが、自分にはあっさり出来る。そんな自分に惚れ、メスも次から次へとアピールをしかけてくる。


 この世に生まれ落ち、同種の仲間を少し見渡すだけで、己が特別な存在だと彼はすぐに理解した。そう、王として種を導くことも出来る偉大な存在なのだと。性に合わないという理由でそれを放棄し、チヨに乞われてついていくことに決めたが。

 

 もちろん、それはあくまでシングバードの中では、という話である。上には上が居る。食物連鎖の構造は、種族的な格差は、いくら個体として優れていようが覆せない。


 だがピグマリオン二世は、その事実を前にして卑屈になることはなかった。分不相応な望みは身を焼き尽くす。身の程を弁え、出来ることをやればそれでいい。まさしく賢者の精神性だ。しかし皮肉にも、その思考が彼を今のままで留めた。


 だが、チヨの想いが最も必要な感情を彼に与えた。


 ――賢し気に小さく纏まっていることの方が愚かだ。

 ――蛮勇の愚者でなければ、掴めない物がある。

 ――不相応な望みが身を焼き尽くす? いいではないか。いっそ焼かれてしまえ。

 ――これから先、チヨと一緒に居る為にも。

 ――共に戦う仲間達の為にも。


 ――強くなりたい!


「ピッ……ピッ、ピピッ!」

「ピーちゃん!?」


 そう願った瞬間、ピグマリオン二世は白く光り出した。


 ――チヨ。心優しき主にして相棒。か弱かったこの子に誘われ、気まぐれについていくことに決めたが、今ではそれが正しかったと確信している。この子の傍に居ると心地よい。この子を守るためなら、ピグマリオン二世は何処までも戦える。

 

 ――七緒。チヨの姉。出会った当初は魔物である自分を警戒していたようだが、今ではチヨと同じくらい自分を大事にしてくれている。時々チヨにも内緒でくれるおやつは密かな楽しみ。チヨと同様、己が守るべき家族だ。


 ――川辺。誰よりも勇敢に前に出る者。ピグマリオン二世の常識からすると見るに堪えない肥えた体だが、盾として皆を守るあの戦い方は決して真似できない。己を犠牲にして仲間を守るあの姿には、尊敬の念すら覚える。


 ――伊波。敵を滅ぼす力を持つ者。ともすれば自分でさえ倒せそうな枯枝のような男だが、その身に秘めた凶悪な剣は強大な敵をも切り裂く。そして時折見せる精神性には寒気が走る。敵には回したくない。味方に居ると頼りになる男だ。


 ――マル。隙あればチヨに媚び、構ってアピールをしている恥知らず。虎視眈々と自分を追い落とそうとしている競争相手ではあるが、チヨを守るという想いだけは同じだ。油断は出来ない。油断はできない……が、コイツを排除するのはチヨが悲しむ。同じ同僚でもあることだし、まぁいいだろう。認めてやる。


 そして――楓太。

 こいつは……こいつは……。


 ――楓太(コイツ)ダケハ、生カシテハオケナイ! 


「ピッ……ピギッ、ピピッ!」

「ピーちゃん? え? なに? 大丈夫なの?」


 間違いなく今の自分でも容易く殺せるクソ雑魚の癖に、自分どころかチヨや七緒を従える男。歩くのが遅い。荷物も押し付ける。体力もない。姑息に敵を覗き見て、道具を投げることしか出来ない。


 いや、分かっている。分かっているのだ。それで役に立っているということは。人間の社会においては生存力があるということも。だが、獣の感性が奴を受け付けない!


 こんな弱い奴の指示で、惨たらしい同族殺しをさせられる羽目になった。同族ではなく、チヨを選んだのだ。仕方のないことだと納得している。実際、新たな力も手に入れることができた。とはいえ許せるかと言われたら、許せるはずがない!


 その後も何かと指示を出して気に食わなかったが、チヨの為にと我慢してきた。チヨの役に立たないと判断したその時は、チヨの居ない所で容赦なく終わらせてやろう。それまでの命を精々楽しめと、内心余裕ぶって今まで何もしなかった。それが間違いだった。


 ――そのせいで、己は途轍もない屈辱を味わった!!


 油断で怪我を負った時、奴はまるで己を追い出すようにして仕事を奪い取った。俺のおかげだぞと言わんばかりの得意げなあの顔が、今でも頭にこびりついている。


 回復の為にチヨの肩で仕方なく休んでいた時、奴は憐れむように己を見ていた。それを察した時、怒りのあまりゲロ吐いた。


 というか……あ、あっ……憐れむって……なんだ?

 我、王ぞ? シングバードの王ぞ?


 この王たる我が、あんなクソ雑魚に情けをかけられた?


 ――許せるわけがない!!!!

 

「ピッ、ピッ――ピギャギャギャギャギャギャ!!!!」

「ピーちゃん!? ちょっと本当に大丈夫!?」


 あんなクソ雑魚に理解者面されて!? 我にした所業を忘れて!? 憐れまれた!? 


 バカにされたなら、まだ自分が弱いせいだと己を責めることが出来る。だが同情だと!? ここまで虚仮にされて我慢できるか!!!!

 

 ――ブッ殺シテヤル!!!!


「ピィ――ピュイィイイイイイイイイイ!!」

「えっ? ピーちゃん!? えっ、本当に!?」


 こうして、ピグマリオン二世は次の段階へ進んだ。

 切っ掛けは、チヨの為にという献身。

 決まり手は、楓太への殺意。


 ♦   ♦


「あ~。やっぱ体痛いわ……」


 ちゃんと寝てるのに疲労が取れた気がせん。

 これはやはりなんとかしないとならんな。柔らかいマットか、あるいは【錬金術】でどうにか……。


 硬い地面に頭を悩ませながら周りを見れば、川辺も伊波も居ない。どうやら先に起きているらしい。というか俺が最後なのか。


 一番楽な見張りをさせてもらってなおかつ朝まで一番遅いとか、流石に申し訳ねぇ。


「ごめん。ちょっと寝坊し……何やってんの?」

「おっ、起きたか。いや、それが凄ぇんだよ。見てみ」


 テントから出れば、焚火のあたりで四人が囲むように立っていた。

 なんだと思いつつ、川辺に促されたので素直に近き、俺はぎょっとした。

 四人が円となった中心には、赤い鷹が凛々しい顔つきで立っていた。


「いやっ、ちょっ! 魔物じゃん!? なんでお前ら落ち着いてんの!?」


 この階層でこんな鳥型の魔物見た事ねぇぞ!? しかも見るからに強そうだし! 

 反射的に【魔物鑑定】を発動させる。そして俺は更に驚くことになった。


【魔物鑑定】

 名称:ピグマリオン二世 (ブレイズバード)

 レベル:13

 ステータス:【MP】136【STR】130【CON】52【POW】120【DEX】189【INT】136

 弱点属性:水、氷


「――ピーちゃん!? え? こいつピーちゃんなの!?」

「びっくりだよな。すっかり変わっちゃって」

「今日の朝方、急に光りだしたと思ったらこんなにカッコよくなっちゃったんですよ!」


 マジか。変わりすぎてビックリしたわ。

 っていうか種族が変わってるって、これつまり〝森山さん〟みたいな【種族進化】が起きたってことだよな?


〈調教師〉が連れている魔物の姿が変わることがあると噂に聞いていたが、まさか力不足を感じたこのタイミングでそれが起きるとは。狙ってんのかってぐらい出来すぎだな。いや、むしろだからこそなのかもしれんが。


 にしても、めちゃくちゃ強いなコイツ!?


 鳥だから【CON】が低いのはまぁ仕方ないとはいえ、他の能力値が高水準すぎる。特に【DEX】がやべぇ。このスペックで自由に飛び回って攻撃してるだけで、この階層の魔物なら一人で殺し切れんじゃね?


〈ブレイズバード〉って、確か火山フロアの浅い層に居る鳥の魔物だよな。こんなに強いものなのか? それとも〈調教師〉の下で育てられたからこそなのか? 


「どちらにせよ、シングバードから強くなりすぎだろ。本当にピーちゃんかお前?」

「ピュィイイイイイイイ!」

「あっ。これはピーちゃんですわ」


 鳴き声は変わってるけど、この俺に対しては反抗的な態度。ピーちゃんで間違いない。


 ……なんでコイツ、俺に対して今もこんな態度なんだろ。あれだけ気遣ったというのに。俺は仲良くしたいのに、ちょっと悲しくなるわ。


「しかしお前、進化してますますうるさくなったね。これ、ご近所迷惑にならない?」

「実は進化した時、兵藤さんが駆けつけてくれましたっ! 驚かれましたけど、珍しい物が見れたって笑ってくれましたっ! 楓太さんが起きる前にもう出発しちゃいましたけど」


 マジで迷惑かけてたんかい。兵藤さんが器の大きい人で良かった。下手すりゃいちゃもん付けられてたぞ。


「ピーちゃんよ。進化したのはおめでとう。でも力を持て余してるからってあんまりはしゃぐなよ。誰かと揉めるとその時点でアウトの場合もあるんだぞ」

「ピィアアアアン? ピュイ? ――ピュイィイイイイイ!!」


 めっちゃガンつけてきたと思ったら、ピーちゃんは遠くに目をやった後、一瞬で空に飛び立った。唐突な行動にポカンと固まっていた俺達だったが、チヨちゃんが正気に戻ってすぐにピーちゃんを目で追う。


「ピーちゃん!? どうしたの!?」

「なんだ急に? 今にも戦いに行くような……」


 言いながら、俺もピーちゃんの行方を追う。

 ピーちゃんは迷わず飛び続けたその先に、見覚えのある陰が見えた。


【魔物鑑定】

 名称:ラピッドファルコン

 レベル:15

 ステータス:【M――


「昨日やられた奴! もしかしてリベンジのつもりか!?」

「そんなっ!? ピーちゃん! 戻っておいで!」


 チヨちゃんは青ざめた顔でピーちゃんに命じる。昨日あれだけ傷ついた姿を見たのだから当然だ。


 しかし驚くべきことに、ピーちゃんは戻ってくる気配すら見せなかった。それどころかグングンとスピードを上げて、ラピッドファルコンに突っ込もうとしている。

 

 対するラピッドファルコンも、ピーちゃんに気付いたようだ。旋回し、迎え撃とうと速度を上げた。

 奇しくも、昨日と全く同じ光景が再現される。しかし、その結末はまるで違った。


「――ピュィイイイイイイイイイ!!」


 大空のどこまでも響き渡るような甲高い声を上げたと思ったら、ピーちゃんの身体が赤く光る。そしてピーちゃんの身体が燃え上がり、炎の鳥を象った。


 炎の鳥と化したピーちゃんとラピッドファルコンが交差する。だが、勝負にすらならなかった。


 ピーちゃんはラピッドファルコンと衝突し、そのままその身体を貫通させた。ラピッドファルコンの身体がバラバラに砕かれ、破片となった体に炎が移って燃え散らす。


 凄まじい破壊力に、俺達は呆然と見たまま固まってしまう。

 あんなの、俺なんかが食らったら当然同じ結末を迎えるし、川辺だって耐えられるか怪しい。


 チヨちゃんのペットとはいえ、本当に仲間として見ていいのか? 強くなりすぎて、チヨちゃんの支配下から外れることにならないか?


 そんな不安がいくつも頭によぎる。だが、それすらどうでも良い。だってさ。だってさ! あんなの、カッ……カッ――


「「「カッケェエエエエエエエエ!!!!」」」


 男達の魂の叫びだった。でもしょうがねぇよ。目がキラキラしてしまうよあんなもん見せられたら!!


「科〇忍法か、それともアカシッ〇バスターか、はたまたゴッ〇バードか! あるよ! 過去にも似たような技はいっぱい! それこそ腐るほどある!」

「だけどそんなの関係ねぇよ! 何番煎じだろうがこうしてリアルで見せられたらかっけえとしか言えねぇよ!」

「クソッ! 何故僕にあれが出来ない!? でも完敗だ! カッコ良すぎて真似しようとも思えない!」


「三人共、凄いはしゃぎ方。確かにカッコ良かったけども」

「男って幾つになってもああいうの好きだから。特にオタクは。見て見ぬふりしてあげなさい」


 なんか冷めた目で見られている気がするけど、どうでもいいわそんなの!

 こんなロマン技見させられて興奮するなっていうほうがムリな話だ!


「――ピュイイイ」

「ピーちゃん! 本当に凄かったよ~! でも心配するからあまり無茶はしないでね」


 チヨちゃんは自分の肩に止まったピーちゃんを褒めつつ、差し出された頭を撫でる。

 昨日の落ち込みようが嘘のように、ピーちゃんは気持ちよさそうに目を細めている。

 

 戦力外で置いてけぼりになった可能性もあったんだ。力になれないことに罪悪感すら抱いていただろう。本当に、良かったな。


「ピーちゃん。マジでカッコ良かったぞ! お前本当に強くなったな!」

「――ピュィイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 バチギレじゃないですか……。

 進化した影響が出てるの? なんで俺にだけこんな当たりが強いのホントに。


 ♦   ♦


【探索のヒント! その二十七】

〈ブレイズバード〉

 火山フロアのダンジョン、低階層において出現する〈ファイアバード〉のボス個体であり、上位種の魔物。

〈ファイアバード〉は火の粉を纏い、小さな火の球を吐き出す小型の鳥の魔物。〈シングバード〉の亜種と考えて良い。火属性の特徴こそあるものの、戦闘力はそこまで高くはない。

 ところが、そのボス個体である〈ブレイズバード〉となるとその強さは一線を画す。

 見た目は小鳥から大きく成長し、赤い鷹に。低階層に出現する魔物でも上位を争う速度。鋭い嘴と鉤爪。これらを駆使した直接攻撃だけでも脅威だが、更に火を操る能力が向上している。

 熱風を操り、炎纏って突撃した際の攻撃力は中層と呼ばれる十階層以降の魔物にすら致命傷を与えかねない。低層の魔物ならば言わずもがな。

 火山フロアの魔物はその過酷な環境に適応し、環境すら利用してくる点から厄介と評される事が多いが、〈ブレイズバード〉は純粋な戦闘力のみで脅威とされる。

 低層の魔物の中で間違いなく最強格の魔物であると言っていいだろう。

 

ピグマリオン二世

「チヨへの想いが。仲間達への想いが。そして楓太への怒りと憎悪が余を新たな姿へと変貌させた。この身に宿る炎はその証。我が憎悪と怒りの象徴。この炎が消えることは決してない。とはいえ、この力を得た理由に一役買っていることもまた事実。余も力を手に入れて機嫌が良い。故に見逃してやろう。()()()()()はな」


 誇り高い者ほど恩を忘れない。だが同様に仇も忘れない。

 楓太の命運は如何に? ――待て、次回!

 


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― 新着の感想 ―
ピーちゃんよ。いくら強くなろうが君には楓太の役割は代用できないんだよ。 ピーちゃん自身が自分にできることをって考えていたのに殺意で偵察よりも攻撃に進化するとは。 仮にも仲間に対してそこまで敵愾心を抱く…
うおおおお、真アルフェ〇ックスだ!かっけええええ
こんにちは。 ピーちゃんェ…!?すっかり立派(?)になってしまってww ただ性格がね…王子としてプライド傷付けられっ放しだから敢えてバ○ディに操られて○空を殺ろうとした魔人ベジ○タと、赤ちゃん時代に…
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