第50話 遠征②
「なんかあっさり二層に着いちゃったな」
「そりゃピーちゃんの索敵があるからな。徹底的に戦いを避けて、移動だけすればこんなもんだろ」
幸い俺達もそれなりにレベルが上がって、一層であれば敵の方から逃げてくれることも多くなってきた。
好戦的な魔物が多い森のような場所へ行かない限り、索敵役が居れば戦わずに先に進むことも可能なのだ。
「ピーちゃんのお蔭だって! やったねっ!」
「ピッ!」
チヨちゃんに褒められ、その肩に止まりフンと胸を張っているピーちゃん。
偉そうな鳥め、とも思うが。実際こういった移動のことを考えると、ピーちゃんの貢献は大きい。
遠征において難しいのは戦闘だけではなく、どれだけ楽に、速やかに目的の場所まで移動できるかどうからしい。索敵をして敵を避け、無駄な戦闘を避けるという動きは必須と言える。
冗談抜きに、ピーちゃんがいなかったらこの遠征は成り立たないレベルだ。少しばかり調子に乗っても許される。ジト目で睨んでいるマルには気を付けろ、と言いたいが。
「とはいえ、それでもやっぱり疲れるな。予定通り三十分くらい休憩させてくれ」
ここに来るまで、大体八キロの距離を歩いた。
チヨちゃんほどじゃないが、それなりの重さの荷を背負って一時間半くらいか。
最近はこれくらい歩いていたとはいえ、荷物の分やはり少しキツイ。探索者になる前だったら全身筋肉痛で死んでたな。
俺も成長したなと感動していたら、川辺が何気なしに聞いてきた。
「別に休憩は良いんだけどよ、そんなに疲れてんの?」
「……ごめん。質問に質問を返して申し訳ないんだけど、お前は疲れてないの?」
「え? うん、全然? 戦ってないしな」
そっか~。疲れてないのか~。
やっぱりステータスの差って残酷だな。
「変わっちまったな。お前も……」
「その反応だとオレが闇堕ちしたみたいだろうが。人聞きの悪い」
「ちなみに僕も特に疲れてない」
「私もそこまでは」
「私はちょっと疲れました〜。荷物が重いので。休憩があるのは助かります!」
うん。まぁ二人はともかく、チヨちゃんは疲れてもおかしくない。でもその程度なのか。俺より遥かに重い荷物を背負ってるのに。
やっぱり引退を考えていたこと自体は間違いじゃなかったな。ステータスが違いすぎる。これはなんとしても俺の足を用意しなければ。
「それにしても、二階層も一階層とあまり変わらないですね」
七緒ちゃんがなんとなしに周りを見回してそう呟く。二階層は一階層と同じ草原地帯。確かに代わり映えしない。
「ここだとそう思うのが自然だよね。三階層になるとサバンナに近い感じになるらしいから雰囲気がまた違うらしいけど」
「魔物も変わりねぇよな? 見たことあるやつしかいねぇし」
「まぁな。階層を一つ変えた程度だとあまりその辺は変わんないらしいぞ。でも――」
川辺の疑問に答えつつ、俺は遠くを見渡す。
チラホラと見える魔物に片っ端から【鑑定】をかければ……ああ、やっぱりな。
「一階層と比べると、全体的にレベルが1、2高い感じだな。降りれば降りるほど強くなっているって噂はマジだな」
階層を一つ降りる度に魔物のレベルが少しずつ上がり、一定の層を超えると環境や魔物のラインナップに変化が現れる。
もちろんダンジョン毎にその変化の差はあるんだろうけど、これが基本的なダンジョンの構造なんだろう。
「この法則が正しければ、少なくともレベルが見えるなら、レベル上げの適正な階層に当たりをつけることは出来そうだ」
「それがないと無駄に数を重ねる可能性があると考えると、やはり【鑑定】の優位性は確かだね」
伊波の意見に頷く。
本当に情報って大事だよな。攻略サイトの偉大さがよくわかる。
「やっぱり今重要なのは旅の経験を積むことだな。そこに辿り着ければ間違いなく皆を強くできる。ついでに俺たち自身のレベルも上がれば最高」
「レベル上げよりも移動の方が難しいか。なんか違和感だわ」
「そりゃお前がゲーム脳過ぎるからだ」
「RPGならファストトラベルでヒョイ、だからね」
マジで便利すぎるよな。現実でも欲しいわ。
……実際移動魔術とかあんのかな? 今の所聞いたことないけど。もし見つかったら【鑑定】やホムンクルスレベルの騒ぎだろうな。
覚えられるとしたら伊波か。ちょっと意識して探してみても良いかもしれない。
伊波の可能性に思索を耽っていると、チヨちゃんがひょこりと前に出てきて言った。
「でも、こうやって割と簡単に二階層に来れるなら、意外と簡単に深いところまで潜れるようになるんじゃないですか?」
「と、思うじゃん? それはまだ浅いところだからなんだよなぁ」
一、二階層だから、この程度の距離を歩くだけで次に進める。
では、もっと深い層だとどうなるのか?
「これもダンジョン毎にまちまちだけど、一定階層毎に広さがどんどん広がっていくらしいよ。噂によると、深いところは小さな県くらいの広さのところもあるらしい」
「県ですか!? それは流石に一日じゃ無理ですね……」
「今の俺だと確実に数日はかかるだろうね。さらに言うとこれ、目的地が分かっている場合の話ね」
仮に最深の階層でレベルを上げ切って次に行くとしたら、次の階層への入り口を探さないといけない。
都道府県レベルの広さがある土地をだぞ? 人海戦術で探しても、見逃しとか絶対あるだろうしな。見つけるだけでどれだけかかるか。
「ここに簡単に来れたのも、先人が協会に報告してくれたからだと考えると、頭が下がるね」
そして、先人が残してくれているのはそれだけではない。探索済み階層の地形もまた、貴重な情報だ。
「ありがとう。十分休めたしそろそろ行こう。ここからはちょっと寄り道するし、早く出ないと」
「寄り道? 時間は余裕がありますけど、どこに?」
不思議そうに尋ねる七緒ちゃんに、俺はニヤリと笑って答えた。
「三層へ向かう途中に、スライムの集まる池があるらしいんだよね。それも二箇所。少し距離は伸びるけど、寄る価値はあるでしょ?」
拾える経験値は拾っておかないとな。
♦ ♦
――ピギィィイイイイイイイイ!?!?!?
――カッ!!
――カラダガアツイ……ッ!
「一箇所目にしてマジで上がったよ。いや、上がってもおかしくなかったけどさ」
やっぱり誰も狩ろうとしないからか、かなりのスライムが溜まっていた。そして一層と比べても高い平均レベル。そりゃ上がるのも当然か。
一人で納得していると、伊波が思いだしたかのように言う。
「元々格上のレッサーキメラを倒したんだ。次に上がる寸前まで経験値が溜まっていたんじゃないか?」
「ああ、そういうこと……いや、確かに多かったけど、たかが知れていたはず。やっぱりスライムが凄いわ」
一匹の経験値が多い上に、群れを仕留められるのが美味しすぎる。世の探索者はスライムを恐怖の象徴として見ているけど、俺にはもうスライムが経験値にしか見えない。
これからもいっぱい虐殺しないとねっ!!
「さて。じゃあ次のところへ――」
行こうかと続けようとしたが、俺はビクリと怯えてしまった。
何故か、四人とも俺を見ていた。
「え? 何?」
「いや。何かジョブなりスキルなり取得出来たかなと思って」
「まだ調べてねぇけど、そんな簡単には取得出来んだろ」
「いやいや、そう言わずに調べてみなよ。そう言いながらあっさり取るのが君の持ちネタじゃないか」
「別にネタじゃねぇんだが……」
「まぁ、とりあえず調べてみればいいんじゃないですか? 私も結構気になります」
「期待してます!」
ええ〜。これで何もなかったら無駄に期待されてもガッカリされるだけじゃないのぉ? ちょっとプレッシャーだなぁ。
まぁそんなに気になるなら見てみるけどさぁ。たかだかレベルが1上がった程度でそんなポンポン取得できるわけないじゃ~ん。
常識で考えればそのくらいすぐ分かるだろ。はぁまったく。仕方ないなぁ。
――と、何もない時にガッカリしないよう心の保険をかけておきつつ……。
〈ジョブ〉――〈錬金術師〉〈鑑定士〉〈アイテム使い〉
「――いよっしゃああああ……ッ!!」
来た! 来たよ! 来ましたよ!
本音を言うと、見る前から脳内で勝利確定BGMが流れていた。ユ〇コーン的な。
でも、こうしてきてくれて確信した。
俺は、神に愛されている。
これはもう勝利のポーズを取っても許される。
「ああ、やっぱり何か――いやコロンビアじゃねぇんだわ。早く言えや鬱陶しい」
「あ、うん。〈アイテム使い〉のジョブが手に入ったよ」
「「おおー!」」
姉妹は揃ってパチパチと拍手をしてくれる。
「凄いですね。これで三つ目のジョブですか」
「しかも狙っていたやつですねっ! 本当に凄いですっ!」
これよこれ、素晴らしい。この素直な賞賛よ。この素直さが大事よ!
だと言うのに、肝心の野郎どもはよぉ……。
「なんだお前ら、反応が薄いぞ。もっと驚きを見せなさい」
「いや、驚いているしおめでとうとは思ってるよ。でもさ、正直ホムンクルス以上の驚きはこの先ないだろ」
……それもそうだな。納得。
あれを超えるのは不可能だ。
「しかし本当に取れたか。半分冗談だったんだが」
「これはもう確定じゃないかな。生産職、あるいは非戦闘職ってさ。そもそもジョブとかスキルとかに成長が注がれるように出来てるんじゃないか?」
……ん? え、そうなのか?
「俺がそれを求めているから、とかじゃなくて? タケさんが言ってたやつ」
「もちろんその上で、ってことだよ。よくよく考えればさ、僕ら戦闘職と違って生産職って、よりスキルに依存しているじゃないか。ステータスに振られるべき成長の分まで、スキルの成長に注がれているとしたら、弱いのも当然だしポンポン新しいスキルを覚えるのも納得だろ?」
ああ〜、言われてみればそうかもしれない。
〈錬金術師〉なんて、まさに【錬金術】あってこそだもんな。ステータス的な強さなんて必要ないし。魔力は必要だし、器用さ、みたいなステータスがあったとしたら別だが。
リソースがそっちに割かれているのか。なるほど。
俺は感心していたが、それに気づいた当の本人は肩をすくめる。
「まぁ、だからなんだと言う話だけどね。確かめようもないし。一生クソ雑魚である覚悟を決めた君にも関係ないし」
「黙れモヤシ。いや、でも結構重要な情報な気もするような……」
もしそれが理由だとしたら、生産職が戦いの場に出るのはやっぱり無理筋ということだろ? 必要なステータスが足りずに死にやすいんだから。
でも今の所、レベルを上げることが新しいジョブ、スキルの取得の切っ掛けになっているのは確実なわけで。
んで、この世界は戦いの場に出ないとレベルを上げられないという、生産職からしたら糞仕様にもほどがある環境。
というか、本当に戦うことだけでしかレベルって上げられないんかな? もしここをどうにか出来るなら、とんでもない金が動くような……。
「まぁ、ここに手をつけるとしてもかなり先のことだな」
あまり手を広げすぎると、俺の器を超えてしまう。大金を稼ぐ可能性があろうと、世の中には金より大事なものがあるんだ。俺はそれを忘れるような人間になりたくない。
初心を振り返っていると、川辺が聞いてきた。
「それで? 〈アイテム使い〉で何が出来るようになったんだ? スキルは?」
「ああ、そうだったな。ちょっと待て」
〈アイテム使い〉
【スキル】――【アイテム理解】
【アイテム理解】? ん? なんぞこれ?
「どうした?」
「いや、【アイテム理解】っていうスキルがあるんだけど……え? マジでなんだこれ?」
【アイテム理解】っていうからには、まぁアイテムへの理解が深まるとかそういう感じだよな? 〈アイテム使い〉っぽいスキルではある。でも知識スキルか? その割には変化がない。いや、アイテムを使えば何かあんのか?
懐からポーションを取り出す。じっくりと、スキルを意識しながら観察してみる。
……低級なポーションだなぁ。
一見するとただの低級ポーションだが、じっくり見てもただの低級ポーションだ。
お情け程度にプラス補正が付いているが、それ以外は何の工夫もない。ありふれた凡人の作ったポーションだ。つまり俺の作ったポーションだ。
スキル獲得前から分かることしか分からんな。
「――はぁ? マジで何にも分かんねぇじゃん! なんだよこれ、ゴミやんけ!」
思わずポーションを地面に投げ……そうになったところで、留まる。あぶねぇ。ノリでやりそうになったけど勿体無い。だけどそうなるとこの怒りは何処に持っていけばいい!?
「【アイテム理解】とか言っておいて何一つ理解が進んでねぇのはなんだよマジで! 貴重な経験値リソース費やしてこれとか冗談じゃねぇよ! こんなんだったら〈運搬屋〉を目指した方がマシだったわ! っていうか【アイテム理解】とか誰に向かって言ってんねん! こちとら〈錬金術師〉様やぞ!? 俺以上にアイテムに詳しい奴が居るんなら連れてきてみぃやボケが!」
「うーん。見事なキレ具合」
「似非関西弁まで出てくるあたりがどうにも。いや、気持ちが分かるけど」
いや、でも実際これは酷くないか?
肩透かしってレベルじゃねぇぞ。詐欺だろこんなもん。ふざけないとやってられんわ。
「まぁ、今は役に立たないってだけで、その内使い方が見つかるんじゃね?」
「そうだね。なんだかんだ君、今までハズレ引いてないだろ。【アイテム理解】も同じだと思うよ」
「本当にそうだといいけどね。ごめんねうるさくて。ちょっと気を紛らわさないと落ち込みそうだったからさ……」
「いえ、構いませんよ。正直面白かったので」
「次の場所でレベルが上がれば、きっとまた良いスキルが出てきますよ!」
理解のある子達だ。本当にそうだったらいいんだけどね。
いやでも、いくらスライムでも流石に続けて上がるのはないだろ。――ハハッ!
~パーティ移動中~
――ピギィィイイイイイイイイ!?!?!?
――カッ!!
――カラダガアツイ……ッ!
上がったわ。
俺、もうスライムさんと一緒に生きていく!
ちなみに、ジョブやスキルに変化は全くなかった。
マジで選択を間違えたかもしれないなこれは……。
♦ ♦
【探索のヒント! その二十五】
〈【アイテム理解】〉
〈アイテム使い〉が最初に必ず覚える前提スキル。
何事も、まずは理解することから始まる。理解し、繰り返し、自分の血肉となるまでしみこませる。そこから創意工夫を重ね、更に成長させる。そうやって技術は習得、発展していく。
〈アイテム使い〉の理解とは、まさにアイテムそのものへの深い理解である。このスキル単体で決して役に立つ物ではない。しかし、このスキルがなければ何も始まらない。アイテムに対する理解を進め、何を必要とするのかで〈アイテム使い〉はあらたなスキルを得る。
【効果拡大】【効果上昇】【効果延長】【消費削減】【即時発動】――そのスキルは多岐に渡る。
アイテムを使い、ただ消費する。それはアイテムを使っているだけで、技術はない。アイテムの力を引き出し、可能性を広げる。それこそが〈アイテム使い〉の真価である。
〈アイテム使い〉の手にかかれば、もはやそのアイテムは別物へと変わる。
なお、【アイテム理解】は〈アイテム使い〉だけではなく、その他のアイテムに関わる全てに関連するジョブ、スキルに影響を与えるスキルである。
とりわけ生産職とのシナジーは最良であると言っていい。場合によってはそのシナジーにより、思わぬ成長を見せるスキルもあるだろう。




