第51話 遠征③
「よし、着いたね」
道中のスライム狩りを終え、俺達はとうとう三層へ辿りつく。
時刻は十五時。寄り道をしたにも関わらずこの時間は良いペースだ。
「完璧すぎる。自分の有能さが怖い……ッ!」
「認めたくないけど、この僅かな時間でレベルが二つ上がったのは確かに凄い。これ、階層を進める度にレベルが上がることになるんじゃ……」
伊波が呟くが、実際それは見当はずれな物でもないと思う。
まだこのレベル帯は上がりやすい。誰もスライムを狩らないから初見の場所は大量に溢れている。いろいろと好条件が揃っているのはあるが、実際そう感じても不思議ではない上がり具合だ。
この結果に、川辺も考え込んで唸り声を上げる。
「本気でレベル上げをすればこうなるのか。一層ではスライムの湧く場所が一か所で、数日置きにしか潜ってなかったからな。一層でも毎日潜ればよかったか?」
「いや、一層だと人が多すぎて、いずれバレていた可能性もある。そうしたらこの方法は使えなくなるから、あの程度で良かったと思う。毎日潜ったらスライムも湧かないだろうし」
これを小畑会で独占するだけで、かなりのアドバンテージになるからな。バレないようにする方がよっぽど大事だ。
というか、もしかしてレベリングはこれだけでいいんじゃ? 深い階層のより強い上位のスライムに、このアイテムが通じるかどうかっていう問題はあるけど。効いちゃったらとんでもないことになるな。
「ですが、順調なのはここまででしょうね」
「ええ。むしろここからが本題です」
七海姉妹が胸を持ち上げるように腕を組み、後方師匠面でニヤニヤと俺達を見ている。大きな胸が差し出されているようで大変眼福だが、どうしたの急に。
「最初はあえて口を出しません。皆さんが初めてのキャンプ準備であたふたする様を楽しませてもらいます。そちらの方が練習になりますし」
「最近、私達の扱いがおざなりになっている節がありますからねっ! 厳しく採点させて頂きますっ!」
「何かと思ったらそういうことか……」
意外と不満に思っていたのね君ら。復讐の機会をうかがっていたのか。そんなに楽しそうにしちゃって。
……いや、今までやってきたことを思えば、妥当な気もするな。むしろこの態度で済むなら感謝しなければならないところか?
とはいえ、流石にナメ過ぎだろう。
「あのね、動画で予習したんだから、出来ないわけないでしょ?」
「素人だって素人なりに、学ぼうとはするんだぞ」
「僕らのようなオタクにとってプラモ作りは嗜み。説明書通りに決まったパーツを順番に組み立てる、なんてむしろ得意分野。ちょっとした家具の組み立てだって得意だ。テント設営なんて訳ないさ」
「オラー! キャンプ舐めてんじゃねーですよこのド素人どもっ!」
「チヨ、静かにしなさい。今は好きにさせてあげましょう。私達に助けを求めるその時が楽しみというものよ」
この女、ちっとも成功するとは思ってねぇな。いいだろう、その挑戦受けて立つ。
チラリと、俺は川辺と伊波に目線を送る。二人は静かに頷いた。どうやら考えは一緒らしい。バカな女どもだよ、俺達のチームワークを見せてやる。
ダンジョン内で泊まり込みをする際、安全そうな場所でテントを立てる訳だが、階層の出入り口付近が推奨されている。それ以外だと協会が纏めた安全スポットとかだな。
出入口付近なのは、その階層の魔物は滅多なことでは他の階層には移動しないらしく、いざとなれば前の階層に逃げられるからだ。
出入り口の周辺をぐるりと回るようにして、粉状の薬をばら撒いていく。思い出すのも忌々しいが、かつて俺達に迷惑をかけたあの芹澤が使った〈魔除け粉〉だ。本来はこうして安全を確保するのに使ったり、緊急時に逃げる為に使ったりする。
これを定期的に撒いておくだけで、魔物は寄ってこなくなるそうだ。まぁ時にはこの薬を超えて探索者を襲う奴も居るらしいので、絶対ではないが。
「よし、この辺りでいいだろ。じゃ、やるか」
「おう、まずは綺麗にするところからだからな」
「快適な睡眠の為には小さなことでも手を抜けないからね」
出入り口から少し横に逸れた所の、平坦な場所。そこだけ草が剥げている所がある。おそらくここで同じように泊っている人が居るのだろう。先人にならい、ここにテントを立てることにする。
邪魔な小枝や大きめの石を拾っては投げ、より綺麗にしていく。そこにビニールシートを広げて、いよいよテントだ。
「まずはテントをきっちり広げて、ポールだな」
「オーケーオーケー。どんどん行こう」
「やることはいくらでもあるからね。テキパキ進めないと」
「むっ。意外と手際が良い」
「このまま何も起こらなかったらちょっと面白くないわね」
ふっ。舐めるなよ田舎娘共。
俺らの勤勉さと以心伝心のチームワークさえあれば、この程度余裕よ。
~三十分後~
「だからさ! ちゃんと引っ張れって! ピシッと! いつまで同じこと繰り返すんだ!」
「やってるわ! つぅかそこ! ポールが通ってないとこがあるぞ! あれ伊波だろ!」
「僕じゃない! それより楓太が打ったペグの位置が悪いんじゃないのか! だから弛むんだろ!」
俺達はお互いを罵り合いながら、未だにテントが立てられずに居た。
チームワークって、何だったんだろう……。
「うん。良かったわ。やっぱりこうなるわよね」
「上手く行ったらどうしようかと思いました」
代わりますね~と言いながら、二人は俺達から道具を奪い取った。
すると、次々にダメ出しをしてくる。
「まずですね、このポールは使う場所が違いますね。こっちでしょう」
「あと風上に入口を置くのはよくないですね。火を焚いたら風や煙が入って来ちゃいます。向きを変えましょう!」
「ペグはですね。この段階だと仮止めするだけなんで、四隅だけでいいんですよ。あとこんなにしっかり打ち込む必要もありませんね」
「ロープはピンと張りすぎるのも良くないんですよ。こんな感じで適度でいいんです、適度で」
俺達に丁寧に教えながら、あれよあれよという間に作業が進んでいく。
二十分もしないうちに、俺達の目の前には立派なテントが張られていた。
「ま、こんなものですかね」
「慣れればすぐに出来るようになりますよ〜。教えますので頑張りましょうねっ!」
ニコニコ笑ってこちらを見ている七緒ちゃんとチヨちゃん
特に咎められているわけではないのに、なぜだろう。そんな二人に反発を覚える俺が居た。
「小娘ども、これで勝ったつもりか?」
「は?」
「地方の田舎者が俺らみたいなシティボーイにマウント取れてご機嫌ですかって言ってんだよおらぁあん!?」
「だが残念だったねぇ! どんなに頑張っても文化的教養という点では田舎者は僕ら都会人に勝てないからさぁ!」
「それが教わる人の態度ですか? マウント取ってるのはそっちでしょうに」
「というか、オタク趣味以外何もない人達の文化的教養ってなんですか? 都会に住むだけで教養が身につくわけじゃないんですよ」
「凄ぇピッチャー返ししてくるじゃん……」
俺達は三人で縮こまった。ぐぅの音も出ないんだが 。
特にチヨちゃんがいつになく辛辣。やはり田舎者のコンプレックスがあるんだろうか。でもその土地だからこそこんな良い子が育ったんだし、卑下することはないと思うのだが。散々弄りまくったのはこっちだけど。
だが待て。怯えるな。まだ終わった訳じゃない!
「――焚火を用意します!!」
「あー。まぁ確かにちょっともたついたせいで良い時間ですしね。いいと思いますよ?」
「乾いた枝とかを拾ってくるんですよ? ちゃんと分かってます?」
「ふっ。凡人の発想だな。俺は〈錬金術師〉だぞ?」
見よ! これが俺の研究の成果!
バックから取り出した物を、ジャンッ、と言って見せる。
姉妹は小首を傾げつつ、まじまじとそれを見つめていた。
「これは……薪ですね」
「うん。ただの薪だね。でも楓太さんがわざわざこんなことを言うってことは、マジックアイテムですか?」
「チヨちゃん正解。これ〈錬成薪〉って言ってね。見た目はただの薪だけど、なんとこれ一本で丸一日、充分な火力の火が点き続けるそうです」
一晩火を保ち続けるならこれ以上なく便利な道具だ。
その効果に流石の姉妹も目を瞠る。
「これ一本で一日? それは凄いですね」
「今までで一番凄いアイテムかもしれないです」
「そうだろう? 遠征をすると決めてから密かに作っておきました!」
アウトドアの経験があるだけに、この薪の価値が良く分かっているようだ。
買えばそれなりの値段だが、俺ならタダで済む。これぞ〈錬金術師〉の強みよ!
「面倒な焚火の準備も、これなら火を点けるだけですぐに終わるってことよ。ふふふ、これぞ〈錬金術師〉の力――あ」
「どうした? 今なんか嫌な声出したな?」
「……ライター。忘れちゃった」
火がないと、薪に火が点けられない。哲学かな?
「ああ~、ありがちなミスですね~」
「よくあることですよ。私達が持っているので大丈夫です」
「この無能め。せっかく見返せるチャンスだったものを。手を借りちゃあ意味ないだろうが」
「面目ねぇ……いや! 何も出来ねぇ奴に言われたくねぇよ!」
「いや、手を借りる必要はない! 僕に任せろ!」
任せろ? お前、何をするつもりだ?
怪訝な目を向けると、伊波は指を一本立てた。そして、ホッ! と気合を入れた声を出す。
すると、ボッ! とまるでライターのような火が伊波の指から吹き出した。
「火ならこれを使えば良い」
「おおっ、これは助かる。ありがとう――って待て! お前火の【魔術】を覚えたの!?」
「え? ――あ」
何故だか、実際に【魔術】を使った伊波の方が驚いていた。
「なんとなく出来ると思ったからやってみたら、本当に出来てしまった。どうしよう、結構ショックだ。氷を極めて【エターナルフォースブリザード】を放つのが目標だったのに……」
「相手は死ぬ、じゃねぇんだわ。捨てちまえそんな目標」
こっちが恥ずかしくて仲間と思われたくないわ。
「どの道、覚えちゃったからにはしょうがないだろ」
「そうか。……そうだね、仕方ない。僕は今から氷と火を極めて大魔導師を目指す」
「無駄だよ。お前には一番大事な〝勇気〟が欠けてる」
お前に勇者の弟子は無理だ。だってどっちかって言ったら魔王軍側だもん。
寝ぼけたことをぬかす伊波に呆れた目を向けていると、更に七緒ちゃん達が呆れた目で俺を見ていた。酷く心外だった。
「何、その目は? 何か言いたいことでも?」
「あのですね、そもそも薪に直接火は付けませんよ。というか、そんなに簡単に燃えません」
「え? そうなの?」
「まずは火種が必要なんですよ。着火剤とか使って細い枝を燃やして、その火で薪を燃やすんです。だからどの道、枝とかは必要です。だからほら、一緒に拾いましょ~」
「……うん」
もう素直に、チヨちゃんに手を引かれるがままだった。
俺はあまりにも無力だった。
♦ ♦
それからも俺達は散々だった。
〈錬成薪〉は確かに長持ちするけど、一本丸々使うと火が強すぎて料理には使いづらいし。
薪のことだけしか考えてなくて、網とか忘れてたし。
いつもと勝手が違う火加減で、まともに料理も出来なかったし。
幾つもの挫折にぶち当たり、俺達は悟った。
「俺達は無能です……すみませんでした」
「なんでも出来ると思っていた自分が恥ずかしい……すみませんでした」
「女の子に助けられないと生きていけない生活弱者です……すみませんでした」
「落ち込み過ぎでしょう。慣れですよこんなの」
「キャンプの難しさを分かってくれたのなら結構です。許しますっ!」
こんなポンコツな俺らにここまで優しくしてくれるなんて。なんていい子達なんだ。
決めたぞ。俺は何が合ってもこの子達のことは見捨てない。ホムンクルスの嫁とイチャイチャ出来る日が決まるその時までは!
「食事も終わったことですし、少し早いけど寝る準備をしましょうか。途中で交代する人はもう寝ないとですし」
「ああ、そうだね。もうそんな時間か」
パーティー毎の好み、ダンジョンの環境にもよるが、オーソドックスなやり方としては、魔物を追い払う薬を定期的に撒き続け、一晩を過ごすのが一番安全らしい。
このやり方なら火の番を一人残し、順番に交代で眠れる。俺達は五人だから、今から十分な睡眠時間を確保できる。
さて、順番はどうしようかと悩んでいると、川辺があっさり言った。
「とりあえず、最初と最後は楓太とチヨちゃんでいいんじゃね?」
「うん、それでいいと思うよ」
「ええ、そうしましょう」
伊波と七緒ちゃんはあっさりと頷く。
本当にいいのか? なんか申し訳ないな。
ハッキリ言って、最初と最後が一番楽だ。なんせ途中で起こされることはなく、ぐっすりと最後まで眠れるのだから。
「えっと、いいのか?」
「疲れてる奴がしっかりと休むべきだろ。そうなるとお前とチヨちゃんだ。疲れを残されても困るし、遠慮するなよ」
まぁ確かに、体力がない上に荷物を背負っている俺とチヨちゃんが疲れているのは間違いない。
強がってムリした結果足を引っ張る方がよっぽどカッコ悪いし、素直に好意に甘えるか。
「それじゃあ、悪いけどそうさせてもらうわ」
「すみません。ありがとうございます」
「おう、気にすんな。んで楓太の次に休む奴だけど、誰にする?」
「……いや、なんで俺を見ながら聞いてくんの?」
それはお前らで話し合って決めるとこだろ。
「分からんか? ゲームなら今、選択肢が出てるところだぞ?」
「女なら恋愛イベ。男なら友情イベ。イベントCGあり。周回要素のとこだよ」
……ムカつくけどすっげぇ分かりやすいわ。
『誰にする?』
『1.七緒 2.川辺 3.伊波』
みたいな感じか。
なんか力の入ったイラストで、普段より川辺や伊波まで綺麗な顔になってるイメージが出た。すっげぇ不愉快……。
「それで、誰にする?」
「寝る前にお前らの汚い顔が見たくないから七緒ちゃん」
「ふっ。ま、愚問だったな。男ならまずはヒロインから回収するよな」
「なんだったら男はいいか、ってなるし気持ちは分かるよ。その素直さに免じて、本心がバレないよう僕らを理由に使ったことは黙っていようか」
「うるせぇ。はよ寝ろ」
マジでうざいなこいつら。
何が本心がバレないようにだ。口にしてるし、さっきのがまぎれもなく本音だっつの。そもそもヒロインじゃねぇよ。俺のヒロインは将来のホム嫁だ。
川辺と伊波、チヨちゃんがテントの中に入っていく。
それを見届けてふと前に目を向ければ、焚火を挟んで七緒ちゃんが座っていた。
「あれ? 七緒ちゃんは寝ないの?」
「まだちょっと早いですし、どうせ次ですからね。この時間帯ならこのまま起きて朝まで寝たほうが、途中で起きる必要もないので楽ですよ」
「あ~、そりゃそうだな」
言われてみれば当然か。
そうなると、図らずも二人で見張りをすることになるな。
巨乳美人と焚火を挟んで夜の時間を過ごす。漫画みてぇなシチュエーションに意識してドキドキ――は、しねぇな。
学生時代ならワンチャンあるかと緊張しただろうけど、今はもうそんな考えすら起こらない。というか何だったら焚火の方が気になるわ。気温のせいもあるだろうが、意外と熱っちいなこれ……。
三層はサバンナ地帯だ。夜は多少冷える筈なのだが、まだ時間的に早いか。これがせめて秋とかになっていればまた違うんだろうが、今は真夏だからな。
火を見たり、周囲に〈魔除け粉〉を改めて撒いたりしながら、ポツリポツリと小声でとりとめもない雑談をする。
そうして時間を潰し、もう少しで俺の眠る時間になった頃、七緒ちゃんが独り言のように言った。
「正直、未だに信じられないんですよね」
「ん? 何が?」
「私がこんな所に居て、冒険をしていることが」
七緒ちゃんは焚火を遠い目で見ながら、続ける。
「会社が倒産してからなし崩しに探索者になって、一層ではまともに稼ぐことも出来なかったのに、マホさんに助けられてから楓太さん達を紹介されて。最初はあんな態度を取っていたのに、それでも見捨てずに戦い方を教えてくれただけじゃなくて、金銭的な援助までしてくれて。そして今では凄いプロジェクトに参加して、こんな所まで探索に出て……」
呟いていた七緒ちゃんが、ゆっくりと顔を上げ、俺の方を見る。
「私とチヨが今楽しく生活できているのは、全部楓太さんのおかげですよ。この恩は忘れません。だから、これからもよろしくお願いしますね?」
そして、顔を赤らめながら小さく微笑んだ。
そんな七緒ちゃんは、とても可愛らしく、そして今までで一番、美しかった。
そんな彼女に対して俺は……俺は――
「…………………………」
「いや、何か言ってくださいよ。私結構恥ずかしいの我慢して、素直な気持ちを伝えたんですけど」
「いや、言質を取られるのはよくないかなって……」
「言質!? え!? まさかこの期に及んでいまだに私達を追い出そうとか考えてるんですか!?」
だってなぁ。いつかその時が来たら、絶対にゴミを見る目で見てくんじゃん。
そうなると、俺のストレスが溜まるだけだしなぁ。だったらいつか別れることになるでしょ?
とはいえ、冷静に考えると今七緒ちゃんとチヨちゃんに抜けられるのは、戦力ダウンが大きすぎるから、もうちょっと一緒に仕事してほしい。
そうだね、とも言えない。いや別れるよ、とも言えない。
YESでもNOでもない。なら、答えは沈黙。これが正解……!
あっ。いや、違うか。七緒ちゃんもこっち側に引き込めばいいのか。
「七緒ちゃん、話は変わるんだけどさ」
「変えないで欲しいんですけど……なんですか?」
「正直な気持ちよ? 俺達が女性型のホムンクルスを嫁にすることを良く思ってないじゃん?」
「それは……いや、まぁ。嫁っていうか、実際は性どれ……んっ、んんっ! まぁ同じ女としてはそうですね」
「でもさ、気づいていないみたいだけど、七緒ちゃんだって同じこと出来るんだよ? 例えばさ、アーサー様が傍に居て、自分だけを見てくれるって考えてみ?」
「アーサー様が……」
七緒ちゃんがバフに使う歌。それが主題歌となっているゲーム〝聖剣の乙女~円卓の騎士に導かれ~〟。その攻略対象であるキャラの一人だ。
思い付きだったが、やはりか。どうやら俺達が女を作ろうとしている事への嫌悪感ばかりで、自分が理想の男を手に入れた時のことを考えていなかったらしい。
この勝負、もろたで○藤!
「想像してみ? アーサー様が自分だけを大事にして、傅いている姿を――」
「解釈違いです。アーサー様はそんな人じゃありません。撤回してください」
「お、おう。すまん……」
解釈違いじゃ俺が悪いな。ニワカの弱点が出たか……。
「ま、まぁそういう訳だからさ。七緒ちゃんもそういうことが出来るってことだけは覚えておいてよ。じゃ、俺はそろそろ寝るから。あとはよろしく」
「アーサー様が……私の元に……」
これは思った以上に効いているようだ。追い出す必要はないかもしれない。
七緒ちゃんは結局、テントに入る俺に目も向けず、じっと焚火を見つめ続け居ていた。
♦ ♦
「皆さん、お時間ですよ~。起きてくださいっ」
「うっ、うぅ……」
可愛らしい声で起こされて、俺は体を持ち上げる。
ぼーっとした頭で横を見れば、見慣れた男が二人。俺と似たような顔で体を起こしていた。
「よう。おはよう」
「おお。おはよう」
「うん。おはよう」
返事はすれど、少々鈍い。しっかり休めた、という感じではないか。
「お前ら途中で起きたんだろ? やっぱり眠いか?」
「そりゃあな。まぁでも眠すぎて動けないってほどでもねぇよ。睡眠時間自体はちゃんと取れているし」
「僕は少しキツイかな。見張りの交代だけじゃなくて、地面が固くて途中で何度か起きたから。でも、これに慣れないといけないんだろうね」
それは本当にそう。俺もせっかく寝れる時間を確保してもらったのに、熟睡は出来なかった。おかげで若干頭がふらつく。
でも、熟睡しすぎるのも良くないか? あんまり緊張感がないと危ないしな。とはいえ疲労が溜まるのもよくないし、匙加減が分からん。
頭を悩ませながらテントの外に出る。流石に朝方ともなれば気温が落ちている。半袖のシャツが一枚だと少し肌寒い。
「おはようございます。よく眠れました?」
「おはようございまーす! コーヒー用意してありますよ! 皆さんもどうぞ!」
どうやら七緒ちゃんは俺達より先に起きていたらしい。まぁ女性だし、寝起きの顔を見られたくなかったのだろう。そしてチヨちゃんは最後の見張りだからと気を利かせてくれたようだ。
チヨちゃんに勧められるがままに、俺は火が消えた焚火跡を囲むようにして地べたに座り、コーヒーを飲む。
そんな俺達に、チヨちゃんはニコニコしながら尋ねた。
「どうですか? キャンプで食べたり飲んだりするものって、なんだかいつもより美味しく感じるでしょう?」
ああ、よく聞くよな。登山をして、寒い朝一番に飲むコーヒーやらカップラーメンやらは格別に旨いとかなんとか。
ふむ、そうだな――
「別に普通のコーヒーだね。特に旨いとかはない」
「むしろ虫だとかが気になって味に集中できない。微妙に空気がぬるいし不愉快」
「ここで飲むくらいならクーラーの効いた部屋で飲みたい」
「風情の欠片もない奴らですよ……」
すまんな。雰囲気に流されて旨いとかぬかすようなバカとは違うのだよ。バカとは!
♦ ♦
【探索のヒント! その二十六】
〈【エターナルフォースブリザード】〉
一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。相手は死ぬ。
人類最強の氷結魔法。【エターナルフォースブリザード】という呪文を起動の合図とする以外に特に決まりはなく、前後の詠唱によりその効果が増大する。
驚くべきことに、ダンジョン出現前より存在している。インターネットで出会った魔に導かれし才能達によりその完成度は磨かれ、誰もが認める最強魔法の一つに数えられるようになった。集合知によって作られた最初の魔法と言っても過言ではないかもしれない。
だが、そのあまりの強大さゆえか。使用者に呪いのような症状を与え、この呪いに浸された者はやがて使用することを躊躇い、魔導を脱落していく。その中にはこの時に学んだ経験を活かし、書という形に残す者も居るとか居ないとか……。
それでもなお進む者は、やがて進行しすぎた重度の呪いにより、人々から忌避されることになる。そうなる前にこの道から外れることが推奨される。
とはいえ、早々にこの道から抜けた者でも完全に逃げられるわけではない。新たな若き才能を見る度に、古傷のように胸に眠った呪いが疼くことになる。
たとえ僅かといえど、一度その身に受ければこの呪いが浄化されることは決してない。




