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56. 厄介な拾いモノの花冠(グレン視点)


……これ、どうすんだ。

デカ過ぎだろ、いくら何でも。


まあ、あいつらしいっちゃ、らしいけどな。



あれは月光祭の少し前。

夕方バルタザール団長に呼ばれて、何かあったかと思ったら。


「おう、グレン! お前、来年のメルセーリオ領の花祭りの警備、行くか?」


これだった。


「……はい?」


「ロランのやつがな、次の花祭りは警備を厚くしたいと連絡を寄越してきてな」


「……はあ……」


ロラン……ロラン・メルセーリオか。

王都から馬車で半日かかる、東のメルセーリオ領を治める公爵。


若い頃は王城魔術師団に所属して、息子のアレンも今じゃ魔術師団の筆頭。

たしか先代も、その前も魔術師。

代々優秀な魔術師を輩出している家系だ。


公爵自身はうちの団長やガルドなんかと、同年代だったか。


「……で、何で俺なんですか」


「お前、前にメルセーリオ領で魔獣討伐があったときに参加したろ。それを覚えてたんだとさ」


「……はあ……」


「改めてあのときの礼をしたいそうだが……まあそれは口実だろうな」


「……そうっすね」


正直、行く気はなかった。

だがこの数ヶ月後、俺は仲間たちとメルセーリオ領へ向かう馬車に揺られていた──。



領主に用意された宿屋に到着したのは昼過ぎ。

荷物を下ろして、それぞれに宛てがわれた部屋に運ぶ。


「失礼、グレン・ウォルヴィーゼ殿とお見受けしますが……」


声を掛けてきたのは、濃紺の服を着た使用人。


「ロラン・メルセーリオ領主がお会いしたい、と。お忙しいことと存じますが、屋敷に来ていただけますでしょうか」


「……わかった」


屋敷に案内されて、まず出てきたのはアレン。


「……」


何となく、そんな気はしていた。

だがこのまま驚いた顔を見せるのは癪に障る。


「領主は?」


「父は今、少し外していまして……ひとまずサロンへどうぞ」


そうして扉の向こうには。


「アレンさん、と、グレン!?」


やっぱりな。

つーか、そうなるだろうよ。


五年前、俺が初めてこの屋敷に来たときのことを、ユーリが話し始める。

サクラは何とも言えねぇ顔で聞いてるが……何であいつ、あんな微妙な顔してんだ。


結局俺もソファに座って、ユーリたちと話すサクラを横目に見る。

どこか得体の知れなかったガキが、いつの間にかこうして“友だち”と呼べる相手を見つけたのか。


「…………」


アレンが意味ありげに笑いながら俺の方を見ているのに気付いて、一度目を逸らす。


少ししてサロンに入ってきた領主との挨拶は、予想通り早く終わった。



アレンの野郎、サクラをここに連れてくるために親父まで使ったのか。

……いや、あいつはユーリのためなら手段を選ばねぇか。

つーか、何でサクラは驚いたような顔で俺を見てんだ。


招待された夕食。

サクラは案の定固まって、俺の手元をちらちら見る。

まさかサクラが公爵家での食事に招かれるなんて、想像もしてなかった。


カトラリーは外側から。

それだけ言えばわかるかと思ったが、余計に固まっちまった。


公爵婦人のおかげでようやくスープに口をつけたサクラ。

少しくらいなら手伝ってやっても良さそうな雰囲気に、内心安堵した。


「あったかいね、グレン」


初めての“貴族との夕食”を終えたサクラ。

こいつはこういう、家族みたいなもんに憧れてんのか。


サクラは家族の話をしたことがない。

記憶が失われているからなのか……それとも。


たまに不安そうな顔になって。

前には変な夢でも見たのか「一緒に寝たい」って部屋に駆け込んできて。


最初は厄介なモンを拾ったと思っていたが、いつの間にかあいつにだいぶ振り回されてんな、俺も。

まあ、これもあいつが成人するか、本来の“帰るべき場所”を見つけるまでだろう。


サクラがユーリと並んで歩いていくのを確認した俺は、柄でもねぇことを考えながら宿屋に戻った。



翌朝からは花祭りの警備。

前回の花祭りは、観光客が多くて治安維持やら何やらに苦戦したとか何とか。

それで王城騎士団に警備増員の臨時依頼が入った。


まだ冷たさの残る朝の空気。

各自の持ち場を確認して、まずは祭り会場全体を把握するために大通りを歩く。


それにしても、すげぇ量の花だな。

まだ俺がガキの頃に家族で来たときを思い出すが、あのときより明らかに花が多い。


そのとき。


「ヒューゴさん、頑張ってください!」


昨日も聞いた、いつもの高い声。

何気なくそっちに視線をやったが。


「……」


何だ、この色?

いや、色は知ってる、薄い黄色だ。


黄色いワンピースを着たサクラ。


何つーか……何て言やいいんだ?


服の大きさも、丈の長さも合ってる。

髪に飾られたオレンジ色の花も、別に変じゃねぇ。


なのに、この違和感みてぇなもんが、胸のどこかに小さく引っ掛かる。


そこでようやくサクラの戸惑ったような声と、何か心配そうな顔に気付いた。


よくわからねぇが、ユーリがサクラを励まして、サクラが赤くなる。

何話してんだ?


何気なく受け取って口に入れたのは、あまり得意とはいえない甘い飴だった。



サクラがユーリに手を引かれて祭りに戻って、俺も今度こそ警備の持ち場へ向かう。


街の東側は宿屋や酒場が軒を連ねる区画。

たしかに、こういう場所は“俺たちみたいなの”が適任だろう。


「あ、あの……っ!」


王都から一緒に来た騎士が、女に声を掛けられる。


「どうしました? 道案内ですか?」


「い、いえ、そうではなくて……。そのマントの色、王都の騎士様ですか?」


「え? ああ、はい……」


「やっぱり!」

「ほら、言った通りだわ!」

「この辺りでは見ない方だと思ったのよ!」


どこからか湧いて出た女の仲間たちに、対応したやつがたちまち囲まれる。


「警備ありがとうございますっ」

「これ、よろしければどうぞ!」

「騎士様たち、もしお時間があれば一緒に祭りを回りませんか?」


矢継ぎ早に言葉と花が差し出される。

ヒューゴだけは「先約があるから」と断ってたみたいだが、他のやつらがどう返したかは知らねぇ。


ただ、女たちが去った後。


「モテるって罪だよな……」

「花なんて初めて貰ったよ」

「なあ、誰が一番花を貰えるか賭けてみようぜ」


こんな会話がきこえてきた。

まあ、あいつらが女に何て答えたかなんて、言うまでもねぇ。


ったく……何しに来てんだ。

女に鼻の下伸ばしてる場合じゃねぇだろ。


団長に報告、は……。

別にしなくていいか、こんな下らねぇこと。


どうでもいいことで一瞬悩んでいると、背後から聞き慣れた声。


遠慮がちに差し出されたのは……馬鹿デカい、花冠か?


馬車を引いてきた馬の首にでも掛けてやるのかっつーくらいデカい。

……いや、さすがにそこまでじゃねぇな。


「いろんな花、使ってたら……こんなになっちゃった」


まあ、そうだろうな。


こいつのワンピースと同じ黄色をベースにした花冠。

花祭りをそのまま詰め込んだような色合い。


いつだったか、サクラが作って持ち帰ったクマを引き合いに出すと、唇を尖らせて拗ねてやがる。

ったく……。


「ま、頑張ったな」


それだけは認めてやる。

つーか、これをここで突き返すのは、無しだろ。


「グレン、それ被ってみろよ!」

「似合うかもしれねぇぞ」


チッ、うるせぇやつらだな。

俺が話してる間くらい、祭りに目を光らせとけ。


ふと視線を戻すと、どこか遠くを、何か悲しいものを見つめるように黙ったサクラ。

思わず近付くと誤魔化すように笑って、俺の手にある花冠を見てまた笑う。


まあ、あいつらの言ってた「誰が一番多く花を貰うか」は奇しくも俺の圧勝。


夕方になってメルセーリオ公爵家の屋敷に戻るサクラを見送って、俺たちも見回りを再開。

祭り初日がゆっくり夕闇の色に染まるのを見届けてから宿に入る。


……で、明日の警備は午前の途中から。


「──はるばる王都から来てくれたのだから、短い時間にはなるが、騎士団の面々も祭りを楽しんでくれ」


ロラン・メルセーリオ公爵からの“心遣い”だと。


まあ……そういうことなら仕方ねぇ。

少しはサクラと祭りを回ってやるか。


「……で、これはどうすりゃいい……?」


腕にしっかりした重さを残す、巨大な花冠。


柄にもなく、大真面目な呟きが漏れた。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

久し振りのグレン視点でした。

多分、この世で一番“グレンに似合わない祭り”だったのでは……と思います。

グレン、祭り後半頑張れー(笑)

ではまた次回、エイルメーアでお会いできますように。

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