1. 光との出会い
高い木々から差し込む木漏れ日が、地面にまだらな影を落とす中、わたしとあなたは出会った。
──気が付くと、知らない空の下にいた。
木の匂いと、湿った土の深い香りが鼻をつく。
たくさんの葉っぱが長い年月をかけて土に還った、懐かしいような、ちょっと切なくなるような匂い。
顔を上げると、木々の間を縫うように、白に近い金色の光の粒が揺れ、風もないのにふわふわと踊るように動く。
あれは何だろう。
何度か深く息を吸って、吐いて、顔を上げる。
……ここ、どこ?
ぺたりと座っていた足に力を入れ、よろよろと立ち上がる。
手についた土や葉っぱを軽く払い、改めて森を見渡した。
わたし、こんな森にいたっけ?
ううん、いなかった。
ふわふわ浮かぶ光なんて見たことないし……。
じゃあ、どこにいたんだっけ?
……思い出せない。
状況を理解しようと頭で考えてみるけど、全然まとまらない。
胸が締め付けられるように、一気に不安が広がる。
こわい。
ここはどこ?
助けて、誰か。
そのとき。
ガサガサッと音がする。
木の枝が揺れ、葉がこすれ、現れたのは一人の男の人。
……おっきい……。
眉間にシワを寄せて、鋭い目つきでわたしのことを見下ろしている。
怖い人なのかな……。
怒っては、なさそう、だけど……。
焦げ茶色の短い髪の毛。
太い首にがっしりした肩。
鈍く銀色に光る鎧。
わたしのこと、助けてくれるのかな?
「……あの……」
ようやく口から出たのは、自分が思っていたよりずっと小さくて、すうっと消えていってしまうような声だった。
「〜〜、……〜……〜〜〜、?」
男の人が眉根を寄せて何か言ってる。
でも、聞き取れない。
初めて聞く音、言葉、響き。
どうしよう……わからない……。
ゆるゆると首を横に振って「わからない」と伝えてみる。
男の人の眉がピクッと動いて、すぐに元の顔に戻る。
鎧の下で少し肩が縮こまり、鋭い目が一瞬だけ柔らかくなった……ように見えた。
どうだろう……伝わった、かな。
男の人がまた何か異国の言葉で話し掛けてくる。
でも、わたしが理解できていないことは伝わったみたい。
大きな体が、厳つい顔が、戸惑いと焦りの色を浮かべている。
困った……どうしよう……。
何て言ってるんだろう……。
わからない言葉に、耳を澄ませる。
……あれ?
男の人が、軽く握った拳で自分の胸を叩きながら、同じ音を繰り返しているのに気付いた。
もしかして、この人の名前かな?
「……グレン?」
男の人を指差して小さく尋ねる。
「……!」
合ってたみたい。
グレンさんの顔が、心なしかパァッとなった気がする。
じゃあ、わたしも……。
「サ、サクラ……えっと、サクラ……」
グレンさんの真似をして、拳で胸を叩きながら名前を伝える。
「……ササクラ?」
「ちがう! サクラ! ……サ・ク・ラ!」
「サクラ……?」
ようやく伝わった。
でも、ここまでだった。
その後はグレンさんが何を言っているのか、さっぱりわからない。
幸い、身振り手振りは理解できた。
グレンさんは何か言うと、自分が来た方を顎で示し、手のひらを上に向けて手招きする。
ついて来い、ってことだよね。
慣れない森を、グレンさんに遅れないよう懸命に歩く。
道なんてものはなくて、背丈ほどの草をかき分けて進む。
木の根やゴツゴツした石に何度も足をとられた。
この森、下駄とは相性最悪……。
グレンさんは時折わたしの方を振り向くけど、歩みを止めることはなかった。
そうしてしばらく歩くと少しだけ開けた場所に出る。
日当たりのいいそこには、木に繋がれた馬が二頭。
一頭はおそらくグレンさんの馬。
では、もう一頭は……?
「グレン! 〜〜、〜、〜〜!」
わたしたちがきたのと反対側の森から現れたのは、グレンさんと同じくらい体の大きい男の人。
肩くらいまでの、少し癖のある赤茶色の髪を上半分だけゆるく結っている。
グレンさんとは違って、声が明るい。
雰囲気も明るい。
少し垂れた目が笑うように細まり、わたしの方を見て何か言う。
何となく言っていることがわかった気がする。
「……サクラ、サクラです……」
多分、こういうこと、だよね?
「サクラ! 〜〜、レオン! 〜、〜〜!」
レオン、さん。
先程のグレンさんと同じように、拳で軽く胸を叩き名前を繰り返している。
わたしの名前も伝わったらしい。
レオンさんは明るい声でグレンさんに何か言い、わたしに手招きする。
そして馬を指差し……馬に乗れ、ってこと?
無理無理、乗ったことない。
落ちたらどうするの、これ。
目の前の大きい馬に乗るよう言われたのはわかったけど、わたしに乗馬経験はない。
馬とレオンさんを交互に見て、必死に首を振る。
するとレオンさんは苦笑しながらわたしの足を指差して何か言う。
……あ……。
みっともなくはだけた浴衣。
そこから覗く足には無数の傷。
ここまで来る途中にできたであろう、草で切ったような小さい傷が、薄っすら血を滲ませている。
夢中で歩いていたから気付かなかった。
わたしが浴衣を直している間にもレオンさんは何か話し続けている。
傷があって痛いだろう、馬に乗るか。
っていうことなんだろうけど、よくわからない。
さて、どうするか。
どんな問い掛けであったとしても、わたしの主張は一つ。
馬には乗りません。
……怖いもん。
レオンさんは何と言っているんだろう。
「馬に乗るか?」という質問だったら、「いいえ」と首を横に振ればいい。
「自分で歩けるか?」という質問だったら、「はい」と首を縦に振ればいい。
質問によって首をどう振るかがわかれるが、肝心の質問がわからない。
森の静けさの中、心臓がドクドクとうるさいくらいに鳴る。
レオンさんの明るい声も、グレンさんの鋭い視線も、わたしを置いてけぼりにする。
縦と横、どちらに首を振ろうか。
よし、ここは──……。
はじめまして、海田山果です。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
サクラとグレンの物語が始まりました。
二人の絆や成長を見守っていただけたら嬉しいです。
初回投稿祭りということで本日三話、さらに明日から三日間は一日一話更新します。
また次の話でお会いできますように。




