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かつての勇者がもう一度  作者: 隆頭
新たな戦い

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七十九話 辺境町での戦い

 帝国城跡地にて蒼佑(そうすけ)たちの奇襲が行われているその同刻、辺境町オルスを占拠している日照国軍にも奇襲が行われていた。

 幸多(こうた)やロックを始め、三体のドラゴンやグレッタとタリッサの姿もあり、戦力としてはこちらも高レベルだった。


 雨霰と降り注ぐ銃弾でも彼らの進撃を止めることはできず、数々の兵士たちが倒れていく。

そんな同郷の人間たちを見ながら、幸多(こうた)は敵を斬っていく。その表情はひどく歪んでおり、それは心の痛みから来るものだった。


 人ならざる者ならいざ知らず、相手はよりによって母国の軍隊。自分達が学生として平和に生きていることを、陰ながら支えてくれていた者たちとも言える。

 戦場では愚かなことだが、それでも彼の胸中には強い罪悪感が渦巻いていた。


 もちろん、新たに自分が住んでいた帝国城を破壊した相手であり、目の前で皇帝や兵士たちを無惨に殺したところも目撃した上、自分の命も狙われたのだから明確な敵ではある。

 しかし、そう簡単に割りきれるものではなかった。


 そしてそんな葛藤が、幸多(こうた)の動きを鈍らせる。遂に相手から放たれたレーザーが、彼の腹を貫いたのだ。

 痛みに膝を付き、致命的な隙を生む。しかしその射線の先ではグレッタの魔法が炸裂し、その氷が遮蔽物である自走施設もろともを包み込んでいた。


「下がれ、コウタ」


「ロックさん……」


 前に立ったロックを、傷口を押さえながら幸多(こうた)が見上げる。夜だからか、その表情は窺えない。

 そして、迷惑をかけたことを悔いるように視線を下げる。


「すみません……」


「仕方ねぇだろ。話は後だ、とにかく傷を治せ」


 幸多(こうた)の心情を察したロックの気遣いに、幸多(こうた)は頭を下げて退避する。その背中を見ることなく、ロックはその氷塊を睨み付けた。

 右手に全力を込めて、地面をしっかりと踏みしめる。そして、魔力によって強化された脚力で強烈な跳躍とも言える前進。


 ロックのその右拳が氷塊を打ち付け、ガラガラと音を立てながら崩れ落ちていく。氷に飲まれた尽くが、砂ぼこりをあげながら崩れ去る。

 そして視界が開けると、ジョナサン率いるオルス騎士団が姿を現し、互いに目を見開かせた。


「殿下……」


「ジョナサン卿か。王国を裏切ったってのか?アンタらしくねぇ」


 ロックの言葉を受けて悔しそうに顔を歪める

ジョナサンだが、しかし彼は腰に携えた剣を抜いて、顔の前に掲げる。それは、決闘の意思表明。


「退けぬ理由(わけ)があるのです。国賊と思うならどうか、ひと思いに斬り捨て願いまする。ロズベルト殿下」


「……本意でない、か。捨てたとはいえ俺も王族、持たねばならぬ慈悲もある」


 ゆっくりと、掲げた剣を左手に構えるジョナサン。事情を察しその覚悟を受けて、ロックは態度を改めた。

 両拳を握り締め、全身に闘気の如く魔力を滾らせる。昼間ならば、僅かにたつ陽炎が見えることだろう。

 しかし、背中に携えた大剣を抜くことはなかった。


「剣を抜かぬとは、些か見くびりすぎではありませぬか」


「クソ兄共ならいざ知らず、俺なら(これ)で充分だ」


 構えを見せないことに痺れを切らしたジョナサンがだったが、ロックは右手を掲げ、そう断じた。

 魔族と命の奪い合いをしてきた彼にとって、強いとはいえ人間であり、さらに戦う覚悟の決まらない相手であれば、徒手でも上等であった。


 ジョナサンたちは、死ぬ覚悟をしているのであって戦う覚悟はしていないのだから。


「いつの間にか、お膳立ては済んでるみたいだしな」


 氷塊による壁が、ロックたちを囲んでいた。それはグレッタの魔法によるものであり、彼女の気遣いでもありながら "そっちは任せた" という意図もあった。


「戦場の只中にこんなもの、本来は邪魔で仕方ないはずですがな。しかし今は、ありがたいっ!」


 言い終わりに合わせて斬りかかるジョナサン。大半の人間ならば防御で精一杯のところだが、ロックはその剣を右手の裏拳で弾き、左手の掌底で腹部を殴打。その衝撃で吹き飛ばされたジョナサンだったが、彼に諦める気配はなく、また兵士たちも決死の覚悟をしていた。


「いいぜ。全員でかかってこい」


 挑発的な笑みを浮かべたロックに、兵士たちは固唾を飲む。その胸中には恐怖が存在しているものの、しかして逃げる先もない。

 なにより、自分達の主君ともいえるジョナサンを見捨てるなど、できるはずもなかった。


 全員が武器を構えて、前から順番に駆け出していくのだった。

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