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奪回のソラ  作者: 琹葉 流布
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3-1 悠然と広がる異世界の街に

 門を潜ると、そのたった数歩で森から一気に街へと景色が変貌する。

 王国キアハ。この世界では最も大きな国、交易品が盛んにやり取りされており、『この国にいれば世界全国に住んでいるのと変わりがない』とまで言わせる程の中枢国家である。

 中世的な石造りの街並み、市場に並ぶ新鮮な野菜や衣服屋、剣の模様が書かれた店の扉の前に立つ売り子が丈夫で安いよーと道行く人々に声をかける。

 この世界では一般的な風景であるが、同行者四人のいた世界──所謂現代の世界──ではそのような街並みは見受けられない。 更に言うならば、先程までの同じ木ばかりだった森とは違い、どの建物も個性がありながら統一性のある『歴史的建造物』であろう。そして当然のようにそれを見た彼女等の反応は、


 「やべぇ!ゲームのまんまだ!」飛び跳ねる。

 「……」黙って目を輝かせる。

 「ふわぁぁぁ! すみれ、凄いよ! 街がある!!」 そりゃ街はあるでしょう。

 「凄いわね……これは」じっと見て感心する


 完全な語彙力の喪失であった。


 「仲良いんだな」

 「え? まあそうね、一応私達は皆幼馴染みたいなものだし」


 毎回同じものに同じタイミングで反応するのは長い友人だからなのか、まあなんにせよこの都市に興味津々なのはよく分かった。 かく言う自分も興味がない訳では無い。

 それは確かにこの都市自体に対してでもある、先程の長蛇の列を見るだけでも需要が高いのは想像するまでもなく分かることであるし、『この世界で最も大きな国』とまで銘打たれては気になるのは当然だ。

 だが、それでも。 響の関心は別の所へ向いていた。

 自分と近しい誰かがいる、歩む度に明確になって行くその感覚は最早確信と呼べるほどまでに膨らんできていた。


 「さて、目移りするのは分かりますけど、ちょっと用事があるので先にこちらを済まさせていただきますね」

 「了解! じゃあフィルちゃんにお願いがあるんだけど、後ででいいから街の案内してもらえるかな?」

 「まあ、後でなら問題ないですね。 いいですよ」

 「やったー!」


 飛び跳ねる。


 「すみれさん? ちらっと聞いた気がするけど、この人って本当にこの中では最年長なんだよな?」

 「現実を見るのも私は大切だと思うけど」


 なるほど、確かにそうだ。 貴重な意見が聞けて参考になる。


 「日向は普段からあんな感じだし言いたいこともわかるけど、私も今は気分あんな感じだからなんともいえないかな」

 「……まあ確かに。 俺も実際あんな感じだしな」

 「そう? あんまり見えないけど」

 「お相子様だ」


 口に手を添えて茶化すような言い方をする。

 あんな感じ、か。


 「行きましょ、そろそろ時間的に急がないと日が暮れちゃうかもよ」


 ──それならその瞳に浮かんでいる決意は、一体何に対する感情なのだろうか。


 大通りを真っ直ぐに進む。 黄色と茶色、肌色が混ざった天然の石を切って貼ったようなその道は、石材が中心のこの街の景観を一層際立たせる程に溶け込んでいる。

 この世界でも同じ街の形をしているらしく、王城が中心にあり、周りを囲むようにして建物がぐるぐると立ち並んでいる。 そして、今は中心街に向かっている。 のだが、明らかに向かってる先がど真ん中なのだ。

 真ん中に何があるのか。 そう、城だ。 しかも御丁寧なまでに三人近しい存在が、思いっきり真ん中にいる気がする。流石にここまで来てしまえば正確に探知できる。

 元々『会わせたい人がいる』としか言われてないし、どこへ行こうとも構わないが、王城の住人が一体何用なのだろうか。 もう突然『ここにモンスターが出たからどうにかしてきて』と放り投げながら辺境の村を刺されるのはゴメンなのだが。


 「でっかい城だな……」

 「そうだな、まあ一番大きな国だって言ってたし、立派な城なのは間違いないだろう」


 壁などの色合いは下町とは変わらないが、所々にアクセントとして明るめの緑色が使われていて、非常に優れたデザインなのは素人が遠目で見ても一目瞭然だった。


 「あ、そう言えばだけど、大体一番大きな国の周りって敵が弱いよな、なんでなんだろう?」

 「逆だよ逆」


 唐突な話題提供。 街並みを見て色々考えたのだろうなーとは理解できるので、今回は致し方ない。


 「『大きな国があるから周りのモンスターが弱い』じゃなくて、『生息しているモンスターが弱いところに街が繁栄しやすい』って事。 安全なところの方が人は多いんだ」

 「あー、なるほど! 一番最初の国って大体そうだったから、気になってさ。 ありがとな」

 「どういたしまして、さて、着いたな」


 目の前には長い赤絨毯の引かれた階段と、大きく高くそびえ立つ石造りの壁が鎮座していた。



 「外からもう絨毯敷いてるのね」

 「俺の世界では、国王やその客人が出入りする日は絨毯を敷く、って言う風習があったかな。 多分似たようなものだと思うけど」

 「ふーん」


 生返事を横目に聞きつつ、フィルの後に続いて段を上がっていく。 検問役の筈の兵士は全く何もしてこないし、なんなら敬礼までして階段への道を全開に開いている。

 遠目から絨毯を含めて見た時はなかなか長く感じる階段だが、実際は三十段程しかない。 あっさり登り終えてしまい、緑色が基調の綺羅びやかな石製の扉の前にたどり着く。 重鈍そうなそれは見上げる程に高く、巨人族でも入れるのではないかと思えるくらいの人間用にしては大き過ぎた。

 これまでの道中はひっきりなしに談笑していた彼女等も、流石に緊張しているのか顔を引きしめ、きりりとした表情で門の前に並ぶ。

 すると、ギギギと門がひとりでに動く。

 ゆっくりと、徐々に開いて行くが、誰かが押しているのでもなさそうだし、駆動音もないから、機械仕掛けで動いている訳でも無さそうだ。 魔力視でも反応が無いので、どういう原理で扉が開いているのか、検討がつかない。

 開いて行く隙間から見える玉座。 そこに一人の男性が座っているのが見える。白い長髭、白髪の上に冠を被り、その右手には王笏が握られている。

 中央を凝視している間にガゴン、と動きが止まり左右に並ぶ甲冑を着た兵士達が威圧的に立ち竦んでいるその一面が顕になった。

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