98
「案外、脆かったな」
薄ら笑いを浮かべると、蘇邑は矛を頭上高く掲げ、振り下ろそうとする。
素早く采乎は、十六夜を抱きかかえると、横へ飛び逃げる。
矛の一撃からは免れたが、炎と霧の衝撃が庇った采乎の背中に触れ、一瞬の間の後、血飛沫が舞い上がる。
「ぐっ!」
背中に焼けるような痛みを感じた采乎は、苦痛で顔を歪める。
「采乎さん!」
十六夜が叫んだと同時に、蘇邑は第二撃を繰り出そうとする。
彼女は采乎の上に自分が覆いかぶさる。
「ふ、ははははは」
蘇邑が、薄気味悪い笑い声で、矛を振り降ろそうとした刹那、
「何をしておる。蘇奴国王、お前はわしの命を奪いに来たのだろう」
卑弥呼は蘇邑を小ばかにした言い方で、挑発する。
蘇邑は矛を振り下ろすのを止めた。
「何!」
「お前は、わしの命を奪いに来たのだろうと言うておる」
「お前を阻む者を殺した後、すぐに仕留めてくれるわ」
「やれ、やれ」
卑弥呼は首を振り、
「それでは、しょうがないのう」
と、立ち上がり、
「では、わしたちは逃げるとするか。のう壱与」
母から急に、そう振られた壱与は、咄嗟の事に訳が分からず、戸惑いながら十六夜たちを見た。
卑弥呼は、そんな壱与にそっと囁く、
「もうすぐ来る」
「えっ」
「しっ・・・起死回生・・・今はただ時間を稼ぐのだ」
卑弥呼は、蘇邑と対峙しながら、ゆっくりと出口へと歩きだす。
十六夜もそれに倣い、母と並んで歩きだす。
「・・・逃げるだと」
蘇邑は卑弥呼を睨みつけたまま、笑う。
「逃げられるなどと、本当に思っているのか」
「ああ、思っている」
「なんだと」
「今のお前の殺気が、分散している状態では、な」
「ほう」
蘇邑は、十六夜達を睨みつけると、そこから離れ、卑弥呼の前に立つ。
矛を大上段に構えると、
「よかろう、女王。望み通り、じかにこの矛でお前の心の臓を貫き、我が本懐を遂げてやる」




