91
余波が狂気の瞳を宿し、喜悦の笑みを浮かべた瞬間、彼の視界が消えた。
視線に映った火柱が見えた刹那、彼の命が刈り取られた。
蘇邑の鉄戈の怒りの一撃により、首と身体が切り離され宙高く舞い上がり、蘇奴国王の乗る馬の前足の蹄あたりに落ちた。
蘇邑は鉄矛についた返り血と炎を払うと、忌々し気に彼の首を睨む。
凄惨とした場をつくりあげた余波は虚ろ気な顔をして、蘇邑を見ている。
「なんという事だ!このわずかの間に我が兵が!くそっ!」
語気を荒げ蘇邑は叫ぶと、馬の蹄で余波の首を蹴飛ばす。
ころころと転がる彼の首。
「ん?」
蘇邑は馬の近くに光る鏡片を見た。
「これは・・・」
王は、鏡片を拾う。
副官が駆けつける。
蘇邑は言った。
「男、一人に殺られた」
「まさか・・・」
「そのまさかだ」
蘇邑は鏡片を副官に見せる。
「鏡片・・・では、あの時の男!」
「では、ない」
「それでは・・・一体」
「鏡片は四つ。一つは俺、あとの二つは、彌眞とか言う若者と巫女・・・こいつは最後の鏡片を持つ者であろう」
蘇邑は顎を動かし、地に転がる余波の首をしめした。
それから、自分の持つ鏡と、彼が持っていた鏡片を合わせる。
二人の鏡片が、かっちり合わさる。
「間違いない」
王は、余波の鏡を首にかける。
「しかし・・・」
副官は苦渋に満ちた表情で、言葉を絞り出すと、
「これだけの兵を失っては、女王に一矢報いることも・・・」
蘇邑は副官の言葉を遮る。
「よい、それでも」
「えっ」
「我が、必ず卑弥呼をしとめる・・・しとめる・・・必ず!」
自らを言い聞かせるように繰り返し言う。
蘇邑の目が妖しく光った。
踵を返すと、
「皆の者、臆するな!これより一気に邪馬台国に攻め入り、卑弥呼を討つ」
王は馬腹を蹴り、邪馬台国へ駆けだす。
副官も兵士達も沈んだ空気を吹き飛ばし、王の勢いに押されて、次々に後を追う。




