表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
92/108

92

 彌眞は走る事だけに集中し、がむしゃらに蘇奴国軍を追いかけた。

 恐るべき速さで進軍する軍に追いつくのは容易ではない。

 遮二無二走る彌眞の視界に、蘇奴の軍が見える。

 石に躓き、転びそうになると受け身をとって一回転し、さらに歩幅を大きくして駆ける。

 どんどん視界に蘇奴軍が迫る。

 どうやら軍は立ち止まっているようだ。


(何故?)


 疑問に思う彌眞だったが、追いつくことが先決である。

 あと少しで追いつくと彌眞が思った直後、蘇奴国の軍勢は先程よりも増した速さで駆けだした。

 なお、追いすがろうと彌眞は、湾曲している道を避け、ショートカットするべく、草木生い茂る中を掻き分けて進む。

 走り続けるが、ぬかるみに足をとられて先に進めなくなる。

 しばらく、もがいて懸命に先へ行こうとするが時間だけが過ぎていく。


 彌眞は抵抗が無駄だと分かると、激しく後悔し、道に戻ろうと振り返る。

 冷静さが戻り、周りを見ると辺りが真っ赤に染まっていることに気づく。

 彼は妙な胸騒ぎを覚えた。

 

彌眞は赤い液が、流れている方へゆっくりと歩く。

ほどなくぬかるみから出て彌眞は、だれかに呼ばれるような気がして、そこへと足を運ぶ。

開けた場所に出た彌眞は、全身が凍り付く。

多くの兵士の屍が横たわり、大きな血だまりができている。


彼は激しい動悸を覚える。

血だまりの中を進み、そこを抜けてすぐ彼は立ち止まった。

地に転がっている物言わぬ首があった。

蘇邑が刎ねた余波の首だった。


泥と血にまみれて、誰であるか分からない。

だが、彌眞は余波だと確信している。

一縷の望みを託し、震える両手で首を持ち上げ、屍の顔を拭った。


(余波・・・だ)


 全身の力が抜け、呆然と余波の首を抱きかかえる。

 彌眞の心の声が叫ぶ。


(立ち止まるな。邪馬台国が、十六夜が危うい!)


 そう思うと、力が漲って来る。

 蘇奴国の兵士の屍を越えながら、彌眞は余波の首を抱え歩く。

 少し離れた場所に年長者の屍とその傍らに、首のない余波の身体があった。


 何故、蘇奴国軍が足止めされていたのか、彌眞はそれが分かり、余波の首を強く抱きしめる。

 彌眞は余波の首のない屍に近づくと、彼の顔にまだついている泥や血を、自分の服の袖で拭った。

 綺麗に拭き取ると、彼の屍の胸部にそっと首を置いた。

 そして、傍らに落ちていた彼の剣を拾いあげ、余波の屍の前に突き刺す。


(・・・ありがとう。また、戻って来る)


 彌眞は心の中でそっと呟くと、全力で駆けだす。

 夕暮れに包まれる空の下、邪馬台国を目指す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ