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彌眞は走る事だけに集中し、がむしゃらに蘇奴国軍を追いかけた。
恐るべき速さで進軍する軍に追いつくのは容易ではない。
遮二無二走る彌眞の視界に、蘇奴の軍が見える。
石に躓き、転びそうになると受け身をとって一回転し、さらに歩幅を大きくして駆ける。
どんどん視界に蘇奴軍が迫る。
どうやら軍は立ち止まっているようだ。
(何故?)
疑問に思う彌眞だったが、追いつくことが先決である。
あと少しで追いつくと彌眞が思った直後、蘇奴国の軍勢は先程よりも増した速さで駆けだした。
なお、追いすがろうと彌眞は、湾曲している道を避け、ショートカットするべく、草木生い茂る中を掻き分けて進む。
走り続けるが、ぬかるみに足をとられて先に進めなくなる。
しばらく、もがいて懸命に先へ行こうとするが時間だけが過ぎていく。
彌眞は抵抗が無駄だと分かると、激しく後悔し、道に戻ろうと振り返る。
冷静さが戻り、周りを見ると辺りが真っ赤に染まっていることに気づく。
彼は妙な胸騒ぎを覚えた。
彌眞は赤い液が、流れている方へゆっくりと歩く。
ほどなくぬかるみから出て彌眞は、だれかに呼ばれるような気がして、そこへと足を運ぶ。
開けた場所に出た彌眞は、全身が凍り付く。
多くの兵士の屍が横たわり、大きな血だまりができている。
彼は激しい動悸を覚える。
血だまりの中を進み、そこを抜けてすぐ彼は立ち止まった。
地に転がっている物言わぬ首があった。
蘇邑が刎ねた余波の首だった。
泥と血にまみれて、誰であるか分からない。
だが、彌眞は余波だと確信している。
一縷の望みを託し、震える両手で首を持ち上げ、屍の顔を拭った。
(余波・・・だ)
全身の力が抜け、呆然と余波の首を抱きかかえる。
彌眞の心の声が叫ぶ。
(立ち止まるな。邪馬台国が、十六夜が危うい!)
そう思うと、力が漲って来る。
蘇奴国の兵士の屍を越えながら、彌眞は余波の首を抱え歩く。
少し離れた場所に年長者の屍とその傍らに、首のない余波の身体があった。
何故、蘇奴国軍が足止めされていたのか、彌眞はそれが分かり、余波の首を強く抱きしめる。
彌眞は余波の首のない屍に近づくと、彼の顔にまだついている泥や血を、自分の服の袖で拭った。
綺麗に拭き取ると、彼の屍の胸部にそっと首を置いた。
そして、傍らに落ちていた彼の剣を拾いあげ、余波の屍の前に突き刺す。
(・・・ありがとう。また、戻って来る)
彌眞は心の中でそっと呟くと、全力で駆けだす。
夕暮れに包まれる空の下、邪馬台国を目指す。




