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わずか一刻(30分)前に、十六夜と無言のまま別れた。
別れ際に見た彼女の悲しむ姿が目に浮かぶ。
元気で明るく、もしこの場にいたらおそらく励ましてくれる采乎もいない。
しかし、不思議と心細さはない。
彌眞はこの旅で、本人も気づかない内に大きく成長していた。
(・・・不思議だな)
そう思った時、夜邪狗の言葉によって思考と沈黙が途切れる。
「彌眞・・・と言ったな」
「はい」
「お前の鏡片には何が描かれている」
彌眞は鏡片を袋から取り出すと、夜邪狗の目の前に見せる。
「玄武の鏡です」
と、答えた。
「・・・伊都国か」
「はい」
夜邪狗は懐かしそうに頷き、呟いた。
「その鏡片、袋に入れておくのではなく、たえず身に着けておれ」
「はぁ」
「それはお前を守ってくれる」
彌眞はこれまで、鏡片を身に着けることはなく、ずっと袋の中に入れて、必要な時だけ取り出して見せていた。
かつては十六夜に見せびらかすのではなく、隠しておくよう伝えたこともあった。
ふと、その事を思い出す。
(そうか、身につけるものだったか)
改めて考えてみると、十六夜、蘇邑、余波と鏡片の持ち主はいずれも鏡片を首から提げている。
十六夜が盟深探湯で深手を負わなかったのや、蘇邑の異常なまでの強さ、非力とも思える余波が巨大な狼の首を両断したこと等、今思えば、鏡片に何らかの力があるのではと彌眞は合点した。




